和枝ちゃんも、ものすごく、40何年も住んだここで……幸せな人生だったと思います

 1月30日、最愛の妻・角替和枝さんのお別れ会にて、涙まじりにそう語った柄本明。和枝さんは、昨年10月に原発不明がんにより亡くなった。64歳だった。

 いまなお明日のスターを夢見る舞台俳優たちが多く暮らす町・下北沢。冒頭で柄本が話した“ここ”とは下北沢。舞台からキャリアをスタートさせたふたりが、約40年の結婚生活を送り、夫婦で愛し、そして愛された町だった。

「僕と和枝ちゃんは結婚前から毎日、喫茶店に行きました。僕と和枝ちゃんのルーティンになっていまして。いろんな話をします。芝居の話が多かったかな。多いときで2時間くらい。だから、今、なんていうか、和枝ちゃんと行った喫茶店に行けないんですよね。何か思い出しちゃって……

和枝さんを、誰よりも愛した柄本

 お別れ会で和枝さんとの“朝デート”を語っていた柄本。ふたりが足繁く通い、2人の息子たちも訪れるという下北沢の喫茶店『cafe Canaan』店主の佐々木研次さんは、

息子さんたちは今でもよく来ますよ。和枝さんが亡くなった日から明さんは来ませんね。心配だったので佑さんが年末に安藤サクラさんと来たときに“お父さん来ないけれど、大丈夫?”と聞くと“落ち込んでる”と……。

 でも先月、明さん製作の舞台を見に行ったら、その芝居を見ながらゲラゲラ笑っていましたから、少し元気を取り戻していたようでよかったです

 ふたりの朝デートは、この店だけではない。同じく下北沢にある喫茶店『セガフレード・ザネッティ・エスプレッソ下北沢店』の常連客も夫婦との日々に思いを馳せる。

「よく朝8時過ぎにふたりで犬を連れて来てましたね。朝に来る常連さんは、みんな柄本さん夫婦と顔見知りだから、亡くなった翌日は泣いている人もいましたね……。和枝さんは、柄本さんがお仕事のときは、ひとりで来ることもあって“ちょっと、グチ聞いてよー”なんて年末の忙しさをみんなで話したこともありました」(常連客のひとり)

 下北沢の人々に愛されていた和枝さんを、誰よりも愛した柄本。

「和枝ちゃんと初めて知り合ったのは21歳とか22歳でしたかね。さっきもみなさんが“かわいい、かわいい”と言ってくれまして、ありがたいなと思っています。たぶん僕がいちばんかわいいと思ったんだと思います。ひと目惚れでしたから。その人と一緒になれて……子どもが3人できました。親の口から言うのもなんですけど、3人とも思いやりのある、いい子どもたちです」

 お別れ会で柄本がそう語ったように、前出の佐々木さんもこう話す。

「時生さんは姪っ子が大好きみたいで、だっこして佑さんと来てくれています(笑)」

 ふたりが育んだ下北沢との親密な関係は、子どもたちに受け継がれている。