美しいネイルとバッチリメイク、派手な髪飾りが印象的なベテラン車イス卓球女性選手がコートの前に陣取った。その人の名は別所キミヱ。

「国際大会のときは特に“敵を編み込む”というゲン担ぎを兼ねて、朝から髪を編み込みにして、蝶の飾りを埋め込んでいます。ゴールドに日の丸をあしらったネイルとつけまつげもトレードマーク。おしゃれは私の“勝負服”、そうすることで初めて戦闘モードに突入できる。自分に欠かせないものなんです」

「今は、来年の東京を目指している」

きれいに塗り上げたネイルも“勝負服”のひとつ 撮影/齋藤周造
きれいに塗り上げたネイルも“勝負服”のひとつ 撮影/齋藤周造

 2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロと4度のパラリンピックに出場した偉大なプレーヤーだ。彼女は右手でしっかりとマイラケットを握り、小さなボールを凝視。集中して一球一球に反応する。そのオーラは他を圧倒するものがあった。

 特定の組織に属さない彼女は、地元の明石や神戸、加古川に加え、大阪や東京など6〜7の拠点を渡り歩き、練習を積み重ねている。姫路のテーブルテニスショップタカハシ(TTS)のママさん卓球教室もそのひとつ。4月中旬に訪れると、仲間の主婦たちに笑顔で迎えられた。「この人はホンマすごいんや」と羨望の眼差しで見つめられる中、基本のラリーが始まった。

 右手にラケットを握りしめ、フォアハンドを徹底して打ち続けた後は、得意のバックハンドの精度を上げる。最後には「マジック球」と名づけたコース狙いの浮き球も確認する。練習時間は約2時間。一瞬たりとも集中を欠かさず、小さなミスをするたび、「アカンわ」と厳しい表情で卓球台を睨みつける。その姿は「勝負師」そのものだった。

 コーチの荒川翔一さんは、指導を始めて10年以上の付き合いになる。

メダルを目指してロンドンまで全力投球した後、“これからどうするんだろう”と思いました。正直、やめるのかなと。でも、リオに行き、今は来年の東京を目指している。一球一球に強くこだわり、“先生、これでええんか?”と僕にアドバイスを求める積極性も変わりません。どこまで突き進むのかと驚かされるばかりです。最近3大会のパラはずっと5位なんですが、ここまで来たら行くところまで行ってほしい。僕は気のすむまでお手伝いをしたいです」

 車イスのハンディキャップを全く感じさせない別所さんのアグレッシブかつチャレンジングな人生を追った。