家庭崩壊や発達障害に苦しみ、金髪姿の派手な不良になることで心の弱さをごまかしてきた。環境を変えようと、偏差値30から一流大学、大企業へ悔悟憤発するも、入社4か月でうつ病、ひきこもりに―。1度、絶望の淵に立った彼は「誰でも立ち直れる」と証明するため、自分のように挫折した若者を支える塾をつくり、本気で社会を動かそうとしていた。

 いくつも並んだ小さなブースの中で、ひざを突き合わせてホワイトボードに向かう10代の学生と中年の講師。時折、楽しそうな声が静かに聞こえる。教室中に漂う適度なざわめきが心地よい。

 ここは、『キズキ共育塾』の代々木校。不登校や中退、ひきこもりを経験した人のための個別指導塾だ。現在、関東・関西に7教室を展開し、大学受験を目指す生徒を中心に、不登校の中学生や、働きながら専門学校への進学を目指す社会人などが通っている。

人は必ず立ち直れる

 講師を務めるのは、定年退職した大学教員、金融機関勤務経験者や会社経営者などさまざま。中には茶髪だったりジーンズをはいていたり“先生然”としていない雰囲気の人もいる。塾を運営する『株式会社キズキ』代表取締役社長の安田祐輔さん(36)も、ジーパンにスニーカー姿だ。

「講師の服装や髪型を自由にしているのは、教える人と教わる人という上下関係を生みださず、生徒がリラックスして授業を受けられる環境をつくるため。塾名を“教育”ではなく“共育”にしているのも、ともに育むという思いからです。不登校やひきこもりなど、挫折からやり直した経験を持つ講師やスタッフも数多く在籍しているんですよ」

 講師は科目ごとの担任制をとり、生徒と講師の関係づくりを重視。生徒の中には、長いこと家族以外の人と接しておらず、コミュニケーションに不安がある子も少なくないからだ。

「講師は、ただ勉強を教えるだけでなく、生徒に寄り添える存在でなければならないんです。生徒たちはさまざまな場所で挫折を経験した末に、ここにたどり着いてくれた。それなのに、また新たな挫折を経験させてしまったら、この塾の存在意義がなくなってしまいますから」

 生徒ひとりひとりのレベルに応じた授業を行い、ときには授業を中断して悩みを聞くこともあるという。長年不登校だった生徒であっても、入塾を機に立ち直り、社会の中で生き生きと活躍している人がたくさんいるそうだ。

「今の日本社会は、1度つまずくとやり直しするのが難しい。でも、人は必ず立ち直れます。何度でもやり直せる社会をつくる。それが、僕らの根幹にあるビジョンなんです」

 まっすぐな瞳でそう語る安田さん。実は、彼自身もいじめやうつ病、ひきこもりを経験し、挫折から立ち直ってきた。過去の自分のような人を支えたい─。安田さんがそう考えるようになった背景には、幾多の困難を伴う長い道のりがあった。