『アースミュージック&エコロジー』をはじめ、化粧品や飲食店など16ブランドを国内外で展開する、株式会社ストライプインターナショナル・石川康晴代表取締役社長が、セクハラ騒動などの自身にかかわる一連の報道を理由に3月6日付で同職を辞任した。女性の店舗スタッフを朝、ホテルに呼び出し、本人の同意がないままわいせつ行為に及ぶ、別の社員にLINEで「内緒だよ」と宿泊研修中の部屋に来るようメッセージを送ったり、地方在住の店舗スタッフには、東京に来てデートに誘うなどといった疑惑が流れている。この件を受けフィフィは、日本の“セクハラ”に対する意識の遅れを指摘する。

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『アースミュージック&エコロジー』というブランドは、ショッピングモールなどでもよく見かけるので、知っている方も多いと思います。値段的にもお手ごろで普段着にも使えるし、CMに宮崎あおい(※崎は立つ崎が正式表記)さんを起用するようなナチュラルガーリッシュなテイストのブランドですよね。

 同ブランドを含む『ストライプインターナショナル』は、創業から20年で売上高1200億円を突破したと言われていて、創業者である石川氏は若い女の子にターゲットを絞ったブランドでここまで成長させたという点でもアパレル業界で一目置かれていた存在だったはず。

 そんなノッていた会社で起こった、今回のセクハラ騒動。'15年8月~'18年5月にかけて、女性社員やスタッフに対し石川氏が4件のセクハラを働いたとして'18年12月13日に社内で臨時査問会が開かれたものの、厳重注意にとどまったという件を『朝日新聞』と『週刊新潮』が報じました。

海外とは異なる日本の“コンプラ基準”

 親しみやすくて清潔感のあるブランドだっただけに、その創業者である社長が女性社員に対してセクハラをしていたなんて驚いた方も多かったんじゃないかと思います。社員も女性が9割を占めているそうですし。今回の一件を受けて3月5日に同社はこのようなコメントを出しています。

今般報道されている件につきまして、2018年12月13日に当社臨時査問会が開催されましたが、私、代表取締役社長石川康晴に関しセクシュアル・ハラスメントの事実は認められませんでした 。しかしながら、セクシュアル・ハラスメントと誤解を受ける行為や従業員との距離のとり方等について、厳重注意を受けました。私としては、このことを真摯に受け止めて反省し、今後適正な業務執行に努める所存です》(株式会社ストライプインターナショナル公式サイトより)

 “セクハラと誤解を受ける行為”と言っているけど、よくよく内容をみてみると、“強制わいせつ罪”にあたるほど重いものだよね。“暴行罪”を“いじめ”と呼ぶのと同じで、セクハラっていう言葉のせいで何かオブラートに包まれてしまっている風潮はよくないと思います。そして、そんな事件を厳重注意だけですませてしまっていたことも問題(この翌日に辞任を発表)。

 今回のスクープがあるまで、2年間も明るみに出なかったっていうことでしょ? こういう人間がトップにいて、それを処分できない会社がアパレル業界の第一線に君臨していたのかと思うと、驚くと同時に怖いなと感じました。これは氷山の一角で、日本には告白する土壌がまだ根づいておらず、権力にかき消されたり、泣き寝入りする状況がまだまだいろいろな業界に起きているんだなと痛感させられました。

 そして本来であれば、会社側も退任させて終わり、ではなく、たとえ創業者であっても会社のイメージを損ねたということで責任を追及しなきゃいけないはず。コンプライアンスの意識があまりにも低すぎますよ。

 去年の11月3日に米ファーストフード大手・マクドナルドのCEOが、女性従業員と関係を持ったことで解任されましたよね。しかもそれが、“合意のうえであるにもかかわらず”です。つまり、アメリカの企業規定はそれくらい厳しいものなのです。

 セクハラ防止などの理由で、管理職が部下との恋愛、性的関係を持つことを社内規定で禁止しているんですよ。いくら合意のうえ、恋愛だと言っても、どうしてもそこには力関係が働くから、どこまでが本当に恋愛だったのか、あるいは断り切れなかったのかわからないので。また逆に、ハメられる場合もありますからね。

 こういった例をひとつ取っても、コンプライアンスの意識が日本とは全然違うなと感じますよね。

 また石川氏は、問題点は“従業員との距離のとり方”にあったと言っているけど、例えば、昭和の時代には問題にならなかったような“最近キレイになったよね、恋でもしてるの?”とか、“君、体型が安産型だね”とか、“化粧濃いんじゃない?”といった言葉をかけることすら、いまのご時世、セクハラと言われるようになっているわけ。もちろん男性から女性にだけじゃなく、女性から男性に、という場合もありますが、セクハラというのは難しくて、言葉の重みよりも、その判断基準は“相手がイヤな気持ちとして受け取ったかどうか”ということなんですよね。

 そんなことも言えないような職場ってどうなの? と思う人もいるかもしれないけど、そもそも職場なので、必要以上に距離を縮める必要は私はないと思います。プライベートなことに踏み込んだり、身体的なことを指摘するコミュニケーションしかできないということが問題なんです。

 今を生きる社会人として大事にしなくてはならないのは、職場でのなれなれしさではなくて、誤解を招かないための接し方を学ぶことだと思いますよ。

 だけど今回のケースって、こういった“キレイになったね”といった類の古い価値観による距離のとり方に起因するセクハラとも違うわけで。自分の立場を利用して、ある種の自惚(うぬぼ)れのような感情が引き起こしたセクハラ以上の行為だと思います。自分が誘えば断わらないだろう、こんなに尊敬されている俺イケてるだろっていう自惚れから生まれてしまったものじゃないかな。

 革新的なマインドで素晴らしい業績とともに成長した会社の創業者が、こんな最低なことでその座を転げ落ちていくということも驚きだけど、革新的というわりには本人の意識改革がまったくできていなかったことに驚きました。セクハラを根絶するまで、意識を変えていくまでには、日本はまだまだ時間がかかるのかなと改めて感じましたね。

〈構成・文/岸沙織〉