2008年に結婚した、俳優の高嶋政伸と美元(みをん)。お互いの愛おしさがダダ漏れで、頬にキスし合う姿が記憶に残っている。あまりのベタ惚れ、熱愛っぷりに「あら、まあ、ごちそうさま!」と、みなが祝福したものだ。

「25年の俳優生活をなげうってでも離婚したい」

 ところが3年後。愛は憎しみの塊と化していた。すでにふたりは別居生活で、離婚調停中であることが報じられ、お互いの私生活暴露合戦はワイドショーの格好の餌食に。美元の浪費癖やDV疑惑が報じられると、政伸が「ブス、死ね」などと叫ぶ罵詈雑言(ばりぞうごん)の音声が流出。「愛は3年で冷める」説をものの見事に体現し、立証したのだ。

 2012年、離婚調停から裁判へ。テレビは久々に勃発した芸能人の“泥沼離婚騒動”に沸いた。各局が異様な盛り上がりだったと思う。というのも、東日本大震災もあり、テレビでは、茶の間が無責任に盛り上がれる芸能ネタが枯渇していた。もちろん騒動はあちこちで勃発しているのだが、事務所が全力で阻止、そこに忖度(そんたく)するテレビ局という構図もあった。

 そんな矢先に、華やかな芸能一家の息子・政伸が「妻のゴミ出しにいちいち文句をつける」という、かぐわしいネタが浮上。そりゃあみんな盛り上がるよね、ワイドショーは。しかも「25年の俳優生活をなげうってでも離婚したい」という政伸の強烈なパワーワードもあいまって、美元への風当たりは相当強かった。

 特に彼女の出自が取り沙汰(ざた)され、レイシストからの攻撃も重なり、ネット上ではひどい言葉を浴びせられ続けた。風当たりというか八つ当たりレベル。昨年バラエティー番組に出演し、当時の地獄を振り返ったが、夫婦の不和に起因しない誹謗(ひぼう)中傷にも苦しめられたようだ。

 さて、原点に戻ろう。このふたりの離婚騒動は、不倫が発端ではない。お互いの性格や生活信条に大きな隔たりがあり、それがわずか数年でわかっただけのこと。むしろ早く気づいてよかった。よくある性格の不一致ってやつだ。

 たまたま、スキャンダル系のネタ不足だったテレビ局と茶の間にとっては垂涎(すいぜん)。タイミング的に脚光を浴びてしまった、という騒動でもあった。金遣いが荒くてパーティー大好きパリピな女のすべてが悪妻とは限らないし、神経質で完璧主義な男のすべてがモラハラ夫とは限らない。

 あの泥仕合は“夫婦の幻想”を見事に打ち砕いてくれた。言葉にすればわかり合えると思ったら大間違い。憎悪と意地の倍々ゲームに発展するのだと教えてくれた気もする。

 現在はふたりとも一般人と再婚し、子どももいる。幸せそうで何よりだ。あの地獄を踏み台にステップアップした感もある。いつか騒動を振り返って笑顔で握手、とは決してならないだろうけれど。つまり、「バカな恋愛って、誰もが経験あるよねぇ」っつう話ではある。

(文/吉田潮)


吉田潮 ◎コラムニスト、イラストレーター、テレビ評論家として週刊新潮で『TVふうーん録』を連載中。『幸せな離婚』(生活文化出版)、『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)など著書多数