“自分が傷ついても、傷ついている人がいるとほっとけない”それが、医療ソーシャルワーカー歴30年の大沢かおりさん(53)だ。この30年、DV被害にあっていた女性を助けたり、がん患者はもちろん、その家族も親身になってサポートしてきた。だが、実は自身もDV被害にあっていたことがあり乳がんサバイバーで、夫を亡くした経験をもつ。過酷な体験があっても、多くの人を助け続ける彼女の熱意の秘密は―。

「がんと診断されることは、とてもつらい経験ですよね。特に、子育て中のお母さんやお父さんにがんが見つかったとき、これからの治療はどうなるのか、仕事や子育てはできるのか、さらには経済的なこと、子どもにどう伝えるかなど、たくさんの心配が生じます。そうした相談に乗ってサポートすることが私の仕事。簡単に言うと、“なんでも相談屋さん”です」

 白衣に身を包み、そう言ってにっこり笑う大沢かおりさん(53)は、小柄だがエネルギーに満ちあふれている。

35歳で乳がんと診断された過去

 東京共済病院で医療ソーシャルワーカーとして働いて今年で30年目。2007年からは、がん相談支援センターが病院内に設置され、その運営を任されるようになった。

「女性が罹患するがんのうち、乳がんがいちばん多く、30代から罹患率が上昇して40代後半から50代前半がピークとなります。この病院では、がん患者さんの多くが乳がんで、子育て中の方も多く、ご家族のサポートも大切です」

 病院の10階にある小さな相談室が大沢さんの仕事場だ。この部屋で診察後の患者や家族の相談を受ける。メールや電話での相談も受けている。

「本当に小さな部屋でしょう。でも窓から空も見えるし、気に入っているんです」

 同僚の医師、乳腺科部長の重川崇さん(45)からも大沢さんはとても評価が高い。

「私はこれまで3つの病院を経験していますが、乳がんにこんなに詳しい医療ソーシャルワーカーは初めてです。大沢さんはこの病院の乳腺チームのまとめ役。頭の回転が早く、情報のアップデートも早い。英語が堪能でアメリカから最新情報を取り入れてチームに共有してくれます。有能な方ですね」

 大沢さん自身も35歳で乳がんと診断された。乳房を温存しての摘出手術、術後の放射線治療とホルモン療法をこの病院で受けた。その経験も大きい。

乳がんの治療をする患者さんには、診察後に大沢さんとの面談をしていただきます。みなさん、大沢さんとお話しすると安心感を得られるようですね。中には、大沢さんに相談したいからこの病院を受診したという方もいらっしゃいます。とても親切で、誰に対してもその対応は本当に手厚い。看護師が大沢さんに相談することも多いですし、私も頼りにしています」

 情熱を持って仕事に取り組み、患者本人やがん患者の家族、そして職場の同僚たちからも頼られる存在─。

 そんな彼女の半生は、想像を絶するいくつもの困難とともにあった。