田中さんが「note」に投稿した告発記事は、特にSNS上で大きな反響を呼んでいる
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 田中さんや土谷さんの告発に対し、当事者研究に関わる研究者、団体らによる『当事者研究ネットワーク』は6月10日、声明を発表した。第三者委員会を設置し《必要性が認められた場合には、組織変革を通じた修復を目指す仕組みの構築》を行うという。

 この声明には、当事者研究を専門とする東京大学先端科学技術研究センター准教授・熊谷晋一郎さんのほか、『べてる』の生良さん、『べてぶくろ』の宣明さんも名を連ねている。熊谷さんは、田中さんが被害を相談したときに返信があった関係者のひとりだ。

 田中さんは『べてぶくろ』での2次被害について《どのように受け止めたらよいかわからず、本当に困っています》などと、フェイスブックで熊谷さんへ意見を求めたが、2次被害への対処や謝罪、検証に結びつかなかった。

 熊谷さんは、週刊女性の取材にこう回答した。

「田中さんの意向を“被害者支援ではなく加害者への再犯防止教育”と解釈し、1年半強にわたり、(協力関係にある)『ダルク女性ハウス』のみなさんのご指導を仰ぎつつ、当事者研究コミュニティーのなかで女性への暴力について、その防止と急性期対応、中長期的支援について共有する取り組みをしてきました。その間、田中さんが不安な気持ちで待っておられたということに認識がいたらなかったのは、私の落ち度です

 田中さんが相談をした当時、熊谷さんは、被害の具体的内容を把握しなかった。

「被害に遭った時点で(べてぶくろの)スタッフが報告を過小評価せず、被害者側に寄り添って本人の意思決定支援をしつつ、可能な限り迅速に司法手続きを進めるべきだったと私も思います。今から思えば、私も踏み込んで確認すべきでした」(熊谷さん)

 声明には、当事者である『べてぶくろ』『べてる』の名前があるにもかかわらず、被害者の田中さんに意見を尋ねることなく発表された。こうした経緯についても、熊谷さんは謝罪している。

 一方、『べてぶくろ』では、実質的責任者の宣明さんが6月21日、ホームページで見解を発表。2次被害を生み出したことを認め、《あらためてお詫びをさせていただく準備をしています》とある。しかし、週刊女性には「現時点で外部の取材に答えることは控えさせていただく」と回答した。

 前出・岡田さんは「被害者と話ができる状況だったにもかかわらず、意向を確認しないで声明を発表したり、第三者委員会を設置したりするのは、被害者には恐怖です。暴力でしかない」と批判する。

 7月末時点で、『べてぶくろ』や関連団体から田中さんへの聞き取りはまだない。事件の検証、2次被害に対する謝罪もなされていない。

「もし被害を受けたときに、『べてぶくろ』が一緒になって怒ってくれていたら、私はこんなに苦しむことはなかったと思います」(田中さん)

 その痛切な訴えに、今こそ真摯に向き合うべきだろう。

田中さんが被害を相談した熊谷晋一郎さんは、当事者研究ネットワークの声明にも名を連ねる

(取材・文/渋井哲也)


しぶい・てつや ◎フリーライター。栃木県出身。自殺やいじめ、虐待など、生きづらさをめぐる問題を中心に執筆、東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数