72歳、夫のリハビリのため付き添ったジムで重いバーベルを「エイ!」と持ち上げるベンチプレスの虜になった。一時は脳梗塞を患い、直後、夫にも先立たれた。そんな苦境も乗り越え、気づけば競技人生18年。やればやるだけ努力が実る競技は「人生のよき友」に。90歳を迎えた今年も、世界大会で狙うは金メダルのみ!

83歳での優勝を皮切りに5個の金メダルを獲得

 水曜と土曜の週2回、茨城県鹿嶋市にある自宅からおよそ2kmの道のりを、季節の移ろいに目をやりながら40分かけ最寄り駅まで歩き、さらに電車に1時間乗り、水戸にあるトレーニングジムに通う。

 ジムに着くなり、水曜は2時間かけて、腹筋、背筋、デットリフト(床に置いたバーベルを持ち上げて背筋を鍛えるトレーニング)とスクワット(バーベルを担いで屈伸。下半身を鍛えるトレーニング)。後者に至っては、計40kgの重さのバーベルを担ぎ、8回の屈伸を3セット行う。

 土曜は、コーチのもと、自身が世界記録を持つベンチプレスに取り組む。ベンチプレスとは、ベンチの上に横たわってバーベルを挙げ、その重さを競う競技のこと。こちらの練習もやはり、本格的なものだ。

 こんなハードなトレーニングをもう10年も続けているのが、奥村正子さん御年90歳

 土曜のベンチプレスを指導して15年近くになるという李コーチ(62)が、奥村さんを称してこう言う。

奥村さんは競技者であるという前提で指導しています。いろんなメディアで紹介されているものを見ると、“90歳のおばあちゃんがあんな重いものを挙げてすごい!”という取り上げ方になりがちですが、私がよく言うのは、“(あなたは)競技者です”と競技者とは競技をして自己記録を伸ばす者奥村さんのモチベーションも、そこにあると思います

 そして、こう続ける。

私自身も奥村さんを“90歳のおばあちゃんがすごい重さを挙げている”という、色ものとして見てほしくない

 競技者としての自負と誇りのもと、2013年、83歳で世界マスターズベンチプレス選手権(60歳以上・47kg級)で優勝したのを皮切りに、この階級で今までに5個の金メダルを獲得している

 来る11月には福岡で開催される『全日本ベンチプレス選手権大会2020』のマスターズにも出場。来年、ウズベキスタンで開催予定の、世界選手権出場権を狙う。もしも優勝できれば、6つ目の世界選手権金メダルになる。

 競技者・奥村さんが意気込みを語る。

出るなら勝たなきゃ勝ちたいですよね、いくつになっても私、ベンチ(プレス)を始めたときに自分自身に目標を持ちました90歳までやろうってそれで90歳過ぎましたどうしようかなって考えたとき、周りの人が“人生100歳時代だ”ってじゃあ100歳までやりますよって