年老いた男が狙ったのは高齢女性だった。言うなれば“老老犯罪”といったところ。いい年をして道を踏みはずした男は奇妙な行動をとっていた。

 赤い自転車をこぐ男は、前を走る自転車の後ろの荷台に取りつけられたカゴをじっと見ていた。静かに接近してカゴの中に手をのばし、ふくらんだエコバッグをつかむと、わざとスピードをゆるめて遠ざかっていった──。

 そんな手口で、80歳女性から衣類などの入った時価計約1万円相当のエコバッグを奪ったとして、神奈川県警が1月13日に窃盗の疑いで逮捕したのは同県川崎市川崎区の無職・わき硯也容疑者(76/わきの字は「脇」のつくりの「力」がすべて「刀」)。いわゆる“ひったくり”に該当するが、こっそり盗もうとする犯行態様は“コソ泥”に近いかもしれない。

 地元を担当する全国紙社会部記者は言う。

逮捕案件は昨年10月30日昼すぎの川崎区内での犯行。周辺では2年前の秋ごろから、自転車の後ろのカゴを狙う窃盗が約30件発生しており、捜査当局は関連を調べている。逮捕の決め手は現場周辺の防犯カメラ映像で、複数の類似案件でも赤い自転車が確認されている。捜査員は“赤自転車”と呼んで逮捕に執念を燃やしていた」

 同容疑者は取り調べに黙秘しているという。

 被害女性にとっては、購入した1万円相当の衣服を奪われた損失だけでなく、ひったくりに遭った精神的ショックも大きいだろう。