俳優の田村正和さんが4月3日に都内の病院で心不全のため亡くなっていたことが明らかになった。葬儀、告別式は親族のみで行われたという。

 1967年のデビュー後、時代劇からトレンディードラマ、はたまたコメディーまで数多くの作品に出演し、独特の風貌と確かな演技力でお茶の間を楽しませていた田村さん。中でも代表作の一つとして、視聴者が毎週テレビの前で放送を待っていたのが『古畑任三郎』(フジテレビ系)だ。

 脚本家・三谷幸喜の名前を広く知らしめた同作は1994年4月の第1話から、田村さんが最後にメイン出演した2006年1月の『古畑任三郎ファイナル』まで10年以上にわたって放送された人気シリーズ。

「視聴率も2シーズン目以降は20%は当たり前で、時に30%超えを記録する回もありました。放送翌日には“モノマネ古畑”がそこかしこにいたものです(笑)。ゲストの犯人役も第1回の中森明菜さんに始まり、菅原文太さん、明石家さんまさん、福山雅治さん、SMAPにイチローと各ジャンルの大物ばかりが登場。ほとんどの方が出演オファーを快諾、それだけやりがいのある、楽しみな現場だったと」(テレビ誌編集者)

 ファイナルから2年後の2008年に制作、放送された特別版『古畑中学生』では、古畑任三郎の中学生時代を山田涼介が演じ、オープニングには田村さん本人も出演。これが田村さんが演じる、最後の“古畑任三郎”の姿となったのだ。

「フジ局内にもファンが多く、古畑に影響されて“ドラマを作りたい”と入社を志した局員も多かったと聞きます。そんなキラーコンテンツの終了を惜しむのは当然のことで、以後も三谷さんにシリーズ続編やスペシャル版の制作を打診したそうです。が、ドラマや映画、そして本業の舞台と多忙を極めていた三谷さんは、“もう終わったんですから”と新作を断り続けたと聞きます。

 一方の田村さんも60代半ばに差し掛かり、世間で言えば定年にあたる年だけに“いや、もうやらないよ(苦笑)”と。それからは主に単発のスペシャルドラマを選んで出演するようになりました」(テレビ局編成部スタッフ)

 そして2018年2月に放送された『眠狂四郎 The Final』(フジテレビ系)を最後に、静かに表舞台から姿を消していった田村さん。これが遺作となったわけだが、実は昨年に『古畑任三郎』再始動の動きがあったのだという。

三谷が「古畑」の新作を執筆

 きっかけは昨年4月、朝日新聞に掲載された三谷の短編小説『一瞬の過ち』だった。全4回からなる同作の主人公は《毛量が多くやけに襟足が長い》黒いスーツを着た細身の男。そう、古畑任三郎だ。そして犯人は「脚本家の三谷」と、ファンにはたまらない“掟破り”のストーリーだ。

「突然の“古畑熱”の再燃に制作サイドも見過ごすわけにはいかず、“なんとかドラマ化を”と持ちかけられたようですが、三谷さんはというと“そんなつもりでは”と。三谷さんとしては、コロナ禍で舞台やイベントなどの中止が相次ぐ中で、少しでも明るい、楽しい話題を提供したい思いからペンをとったのだそう。

 それに近年、心臓に持病を抱えていた田村さんの容体は三谷さんもご存知だったはず。ならば主役を変更して、というリニューアルという声もあったみたいですが、今までも“古畑任三郎は絶対に田村さん”と譲らなかった三谷さんは了承しなかったでしょう。“たられば”になりますが、もしも田村さんがお元気だったならば、オファーを受けてくださったとしたら、三谷さんも喜んで『古畑任三郎』を復活させたのではないでしょうか」(前出・テレビ局編成部スタッフ)

 田村さんは「古畑任三郎」になれる唯一無二の俳優だった。