「べろんべろんに酔った男性が飛び乗ってきて、“居た!手伝ってあげようと思って走ってきたよ。○○駅でしょ?”と言いながら可哀そうにと繰り返し足をさすられた。“やめてください”といっても離れてくれず、私も逃げられず、大きな声をだしても周囲の人は聞こえないふりしているように感じた(一部抜粋)」(車いす使用者)

「夜遅くなり周囲が男性ばかりだったので、アナウンスをしないでくださいと頼んだがダメだと言われ、乗った号数まで言われた。ドア付近にいたら“ここだ!”とスーツ姿の男性が乗ってきた。ぴったり後方にくっついてきて、下着の色を聞かれたり、卑猥なことを繰り返された。(中略)その時からずっと心療内科にかかっている。もう電車は怖いからアナウンスがなくならない限り電車は乗れない。だから社会参加はできない」(車いす使用者)

「地下鉄で車両内ドアのところに立っていたら“一緒に行きましょうか?”と言われ、断るのも失礼と思いそのまま行先を言って頼んだが、違うところに連れて行かれた雰囲気がしてきて、行き止まりのところだと気づいた。とりあえず慌てて行ける方に走って逃げた」(視覚障害者)

 8月25日、障害者団体でつくる認定NPO法人「DPI日本会議」が『障害者女性のストーカー被害の事例(鉄道アナウンス)』を発表した。上記は調査で明らかになった被害女性たちの声。ほんの一例である。

「駅アナウンス」を悪用

「発表してからの3日間、DPIのホームページには20万件ほどのアクセスがあり、ものすごい反響でした。そんなことが起こっているなんて知らなかった、初めて聞いた、という人も多かったようです。

 私自身も車椅子利用者ですが、男なのでそういった被害を受けたことがなくて。障害者ですら、男性だとそういった被害を知っていたという人はあまりいないと思います」

 そう話すのはDPI日本会議で事務局長を務める佐藤聡さん。今回、なんとも残念な実態が、明らかになった。

 駅のホームで行われる駅員による障害者の介助。その際、どの車両から乗るのか、そしてどこの駅で降りるのか、細かい情報が「駅アナウンス」で放送されることがある。安全確認のためのものであるが、それを悪用し、痴漢ストーカーをする人がいるというのだ。

「実は数年前から、DPIの女性メンバーがこういう被害を受けたと言っていたんです。でも当時は、それが彼女だけの問題なのか、それとも障害者女性みんなの問題なのか、そのあたりがうまく理解できていませんでした。その女性が6月に知り合いの障害者に聞き取りをして結果を見せてくれたんですが、これは彼女だけの問題ではないんだなと。全体に広がっているものだと理解し、取り組みを始めました」

 聞き取り調査によると、上記の声のほかにも「駅を降りてから家まであとをついてこられた」「“送っていこうか?”と何度もしつこくされた」「ぴったり迫り、もぞもぞされた」といったものや、中には記載できないほどひどい内容の被害が報告されたという。

「聞き取りの結果について、6月中に国土交通省に一度話をしました。そのときはバリアフリー対策課が対応してくれたのですが、今回の件は鉄道局の問題ということで、改めて鉄道局の担当者の方と7月に話をしました。その後、すぐに国土交通省が鉄道事業者に改善を求める事務連絡を出してくれたんです」

 事務連絡とは、『車椅子使用者等の乗降時の駅アナウンスによる情報伝達について』というもの。内容としては、駅アナウンスによらない方法での情報伝達を検討すること、またその検討状況についての報告を求めるというものが明記されていた。
 
 さらに8月18日には、鉄道事業者に被害者が直接話をする機会が設けられたという。

「オンラインで全国から60人以上の鉄道事業者が参加してくれました。やはり鉄道事業者でもそういった実態を知らなかった方が多くて。中には“それは許せない”と怒っていた方もいました」