母子2人貧しい生活を強いられ、10歳から8年間、新聞配達をして母親を支えた。その不屈の精神で、見事、名門大学へ!だが卒業後、エリート街道には見向きもせず、言葉が通じない日本の福井県へふらりとやってきた。「人とは違う冒険の旅にめっちゃ燃える!」と笑い飛ばすパックン。多くの人に愛され、道を切り開いてきた逆転人生とは―。

どんな仕事も刺激的で最高

 そのニュースが飛び込んできたのは、8月20日のこと。

《1週間で家族全員がコロナに感染。家庭内療養で完全な隔離はほぼ不可能》

 お笑いコンビ、パックンマックンのパックンことパトリック・ハーランさん(50)が、家庭内で新型コロナウイルスに感染、濃厚接触者はいないと所属事務所が発表した。

 幸いにも軽症で、9月に入るころには仕事に復帰し、情報番組で家庭内感染を防ぐ難しさを語った。

「これは災害と同じです!家族が濃厚接触者や陽性者になった場合、どうやって隔離するか。薬や食料は誰に運んでもらうか。事前に計画を立てておくべきです!」

 複数のメディアで発信する姿は、病み上がりとは思えないほど力強かった。

 感染が判明する半月ほど前、パックンを取材してバイタリティーあふれる話を聞いていた。

 パックンはタフだと再確認した。

◇ ◇ ◇

 時は8月4日にさかのぼる。

 東京・豊洲にある屋内サッカー用のピッチ。

「おはようございます!」

 パックンが元気いっぱいに入ってくる。

 TOKYO2020『パラ応援大使』を務めるパックンマックンによる、「視覚障害者5人制サッカー」、通称ブラインドサッカーの応援動画の撮影が始まろうとしていた。

パラ応援大使を務めたパックンマックン。暑さに負けない熱量で2時間の撮影を終えた
パラ応援大使を務めたパックンマックン。暑さに負けない熱量で2時間の撮影を終えた

 ルールの説明を終えると、実際にパックンマックンが競技を体験する。

 本番さながらに、アイマスクをつけて、見えない状態で行うようだ。

「ボールの音と味方の声を聴き分けてください」、パラ選手のアドバイスに、「だったらものまね芸人は敵の声をまねると勝てるね!」「勝てるか!」、パックンの軽口に、マックンがツッコミながら、最初はノリノリでボールを追いかける。

 ところが、これが難しい。

「まるでスイカ割りだな」、見えないボールをつま先でツンツンしながら探すものの、かすりもしない。

 その日は35度を超える猛暑のため、すでに汗だくだ。

 途中で水分補給の休憩が入り、スタッフ、出演者ともにピッチを出るが、パックンはひとり残って、ボールを追い続けている。

 暑いのでアイマスクははずしているが、よく見ると目を固くつむったままだ。

 ドリブル、シュート─。

失敗しても夢中で繰り返す。その姿は、仕事のためというより、心からサッカーを楽しむ少年のように見える。

「よく怖がらずに動けるな」、マックンが言えば、「めっちゃ興奮するねー」とパックン。

 コツをつかんだのだろう。撮影が再開されると、シュートを決め、ドヤ顔を見せる。

 2時間に及ぶ撮影が終了すると、「僕は、どんな仕事も楽しいよ!」、汗を拭きながら言い切る。

パラ応援大使を務めたパックンマックン。暑さに負けない熱量で2時間の撮影を終えた
パラ応援大使を務めたパックンマックン。暑さに負けない熱量で2時間の撮影を終えた

 その秘訣を問うと、「性格が陽気だから」とおどけ、ちょっとまじめな顔で続ける。

「僕は子どものころから貧乏で、新聞配達をスゲー頑張ってました。あの大変さに比べたら、どんな仕事も刺激的で、最高です!」

 さわやかなルックスに、世界トップの名門、ハーバード大学卒業の肩書を持つパックン。

 そんな彼には、意外な素顔があるようだ。