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 JR熊谷駅からほど近い3軒の住宅で、6人の尊い命が次々と奪われてから1か月以上がたつ。ケガを負って入院中のペルー人容疑者の取り調べは進まず、犯行動機など事件の全容解明にはほど遠い。

 仕事で留守中に妻子3人を奪われ、ひとり残された男性はいま何を思うのか。大切な家族を奪われた遺族男性(42)がその胸の内を明かしてくれた。

「事件から1週間、何も食べられず眠れませんでした。自然と涙が出てきました。わが家は娘を挟んで4人で寝ていました。いまでも妻と娘たちが近くにいるように感じて、パッと飛び起きたりします」

 わずか3日間に6人の命が奪われた埼玉県熊谷市の連続殺人。妻の加藤美和子さん(41)、長女の美咲さん(10)、次女の春花さん(7)を殺害された遺族の男性は、うつむきながら、やっとの思いで言葉を絞り出す。

「現実をまだ受け入れられないというか……。妻や娘たちに会いたい気持ちは強くなっていくばかりです」

 悪夢は9月14日午後6時ごろ、市内の田崎稔さん(55)と妻・美佐枝さん(53)が自宅で何者かに刃物で刺されて死亡しているのが見つかったことから始まった。

 埼玉県警は殺人事件として捜査に着手。2日後の16日午後4時半ごろ、田崎さん宅から約1.4キロの住宅で白石和代さん(84)の刺殺体が見つかった。

 その約1時間後、白石さん宅から約80メートルの加藤さん宅2階窓から身を乗り出し、両手に刃物をちらつかせるペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン容疑者(30)を発見。

 同容疑者は自分の腕を切りつけて窓から転落し、捜査員に身柄を確保された。加藤さん宅から母子3人の遺体が見つかった。

「最初の事件を報じるニュースを妻と一緒に見て“気をつけなきゃね”と話していたんです。でも、まさか外国人の犯人が近所をうろついているなんて思わなかった。潜伏している可能性があると知っていたら、妻はもっと用心したはず。なぜ、警察は注意喚起してくれなかったのか」

 男性は今、自宅から1キロと少し離れた父、母、兄が暮らす家で生活している。事件現場となった自宅には戻る気がしない。孫娘を失ったショックで、男性の父は疲労で倒れて2週間入院。母は事件翌日に脳卒中で入院した。残された親族で寄り添っている。あの忌まわしい事件さえなければ……。

 事件当日、男性が勤務先からいつものように車で帰宅すると、自宅周辺は規制線が張られ、物々しい雰囲気に包まれていた。美和子さんの携帯や、自宅に電話をかけても通じない。不安が襲う。

 それを拭い去ったのが警察の言葉だった。「ご家族の方は無事です。お話があるので署まで来ていただきたい」。警察が家族を保護してくれていると思い、車で熊谷署へと向かった。しかし、案内されたのは狭い取調室だった。

「私服の刑事が“大変言いづらいことなんですが、3人の方が亡くなられています”と言う。混乱して頭が真っ白になりました。机に突っ伏して、声を上げて泣きました」

 刑事は遺体の身元確認のため、男性に「写真を見られますか」「見てください」と何度も促したという。しかし、涙と嗚咽が止まらなかった。署に入ってから約7~8時間後の翌17日未明、ようやく写真を見る決意をした。

「手渡されたのは3枚の写真でした。肌が青ざめ、血の気のない、妻と娘たちでした。妻はあごのあたりに切り傷があって、子どもたちは……。傷を見せないようにするためでしょうか、首から上だけが写っていました。のどを深くやられたみたいだから……」