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 「猫を飼えなくなった」と聞くと、身勝手だなという印象を抱く人は多いだろう。だが、実はそうでもないとNPO法人・東京キャットガーディアン代表の山本葉子さんはいう。

 東京キャットガーディアンでは、「ねこねこ110番」を開設し、猫に関する相談を受け付けているが、1日50本ほど寄せられる電話の内容はさまざまで、切実なものが多い。

「中にはひどい人もいますが、殺していいと思っているなら最初から電話をかけてきません。例えば、この間は、旅行の途中なのに猫を見つけたんだけど、どうしたらいい? という電話がありました」と山本さんは苦笑する。

 事情を聞いていくと、どうやら弱っている子猫を家族で見つけてしまい、放っておくわけにはいかず、困り果てて連絡してきたという。

 シェルターに引き渡しに来た家族は、旅行をキャンセルしてまで、山本さんに助けを望んだのだという。このとき、「特段、猫が好きでなくとも、みんな命が助かってほしいというのは同じなんだな」と痛感したそう。

 さらに切羽詰まった電話もあった。それは、「明日、夜逃げをするから、猫をお願いします」というもの。事業の失敗により、夜逃げをしなくてはならず、長年、飼っていた猫を手放さなくてはいけなくなったのだ。

 山本さんが猫を引き取りに行くと、飼い主は形見の指輪を売って3万円を用意し、「猫を頼みます」と涙ながらに語った。いくら「終生、愛情を持って育てよう」と呼びかけたところで、現実にはそれが叶わない、厳しい事情があるのだ。

「悲痛といえば、若いお子さんが先立ち、ご両親とともに、その家の片づけの現場に立ち会ったことがあります。若い男性のひとり暮らしだったのですが、突然死をしてしまい、5~6匹の猫が残されたとのこと。どうやら、息子さんはブリーダーのまねごとをしていたようなのです。両親は死んで初めて、息子さんが猫を飼育していたことを知ったとか。猫を飼ったこともないし助けてほしい、とSOSが入りました」

 このときは、エサとケージを使い、保護に成功。猫たちは無事、新しい家庭に迎え入れられた。

 このように飼い主が猫を不妊・去勢手術させず飼育していたり、無計画に飼育を続けた結果、増えすぎて手に負えなくなった状況を「多頭飼育崩壊」という。

 ひどいときは、1軒の家に50匹以上の猫がいることも。こうした現場に出くわしたことも、1度や2度ではない。

「悲惨な環境で育った子は、例外なく性格がよく、人なつこい。本当に……切ないですよ」

 悲しい話の一方で、微笑ましい話もある。ぶっきらぼうで、やたらケンカ腰の男性から、電話がかかってきたときのことだ。

「家の壁のすき間から、子猫の鳴き声がするという電話でした。すぐに行ける地域ではなかったので、なんとか助け出してと話したところ、“えー、俺がやんのかよ”と言っていたのです。でも、建設関係の職人さんなんでしょうね、なんと壁を壊して救出してくれて。

 その後、ミルクはどうするんだ? トイレはどうしたらいい? って電話が来るんです。こちらも説明していくんですが、だんだん受話器越しの声がデレッとした感じになっていくのがおかしくて(笑い)。最終的には電話をかけてきたおじさんが、自分で子猫の世話をすることになりました」

〈プロフィール〉

NPO法人・東京キャットガーディアン 代表 山本葉子さん 2002年より個人で保健所に保護された猫たちを引き取り、里親探しを開始。2010年にNPO法人を取得。その情熱と精力的な活動は支援者を数多く集める。11月17日に初の共著『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス~』(光文社新書)が発売