家の状態は、人の身体と一緒。食べすぎで太っていると、病気になります。長い間にためこんだものを片づけて、すっきりしませんか? 「生前整理」とは過去の積み重ねや人間関係、しがらみ、思い出を整理し、人生を見直す作業、そして新しい自分の出発でもあるのです。

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■生前整理とは人生の見直し

 毎日「何とかしなくちゃあ」「片づけなくちゃあ」とプレッシャーを感じながら、片づけられない人、とっても多いんです。その原因が、大流行した「断捨離」という考え方。捨てなければ片づけられないという間違った思い込みを持ってしまっているから。

 片づけのプロ・戸田里江先生によれば、

「捨てなければの気持ちが強い人ほど片づけられないんですよ。思い出の品は簡単に捨てられませんよね。もったいないって気持ちが出るのも当然です。私が提唱する戸田メソッドは、捨てることを考えるのではなく、自分の人生設計を見直して、新しい生き方を始める整理方法です」

 さあ、戸田メソッドで生前整理を始めましょう。

【1】自分が何を持っているのか『見える化』する

■持っているものの20%しか使わない

 家の中にものがあふれているとわかっていても、どんなものがどれだけあるのか把握していますか? 戸田メソッドは押し入れや納戸の中から、タンスや食器棚の中まで、すべて出して見えるように床に並べることからスタート。

「例えば、キッチンにストックされている食品たち。砂糖や小麦粉が何袋も出てきたり、カレー粉が20個以上もあったり。食器棚には古いお皿や、欠けた茶碗までが詰め込まれていたりして。まずは『見える化』して、現状の確認を行うのです」(戸田先生)

 押し入れの中のものも全部引っ張りだしてみる。何年も開けていない衣装ケースの中に、「こんなのがあったんだ」というコートやブラウスがしまい込まれているのでは。

「いつか使おうと取っておいた新品が、忘れられたまま放置されていることも珍しくありませんよ」と戸田先生。

私たちは持っているもの全体のわずか20%しか使い回せていないんです。あれもこれも、いつか必要になるかもしれないと思って手放せないでいるけれど、ほとんどは使わないものだということです」

■片づけられない人の心の中は

『何でこんなにものがあるのだろう』─あなたは今、ちょっとガク然としているかも。そして『私は片づけが下手なんだ』と、ため息をついているのでしょうか。

「ここであきらめてはダメですよ。雑然とした状況に甘んじて、『片づけなければ』と思いながらも、いつまでも着手しないでいると、自分ってダメ人間なんだと思うようになってしまうのです」と戸田先生。

 人生の後半に向かって行う生前整理は、これまでの生き方からちょっと立ち止まって身の回りにあるものと、心のありようを整理して、これからの人生を前向きに歩いていくための作業。これから幸せに生きていけるかいけないかの分かれ道でもあるので、面倒がらずに、さあ、片づけましょう。

【2】要・不要・未決に分ける

■ものではなくて自分軸で仕分ける

『見える化』で何をどれだけ持っているかがわかったら、次は分類。要、不要、つまり持ち続けるか、処分するかをひとつずつ決めていきます。ただし「整理というと、分類して捨てる作業と思いがちですが、ここでは分けることを考えます」(戸田先生)。

 捨てなければと考えると、誰でも気が重くなってしまうもの。これはもういらない! とスパッと決められませんよね。思い出の品や、自分にとっては大切な品を、片づけのために処分するのはつらいし、なによりももったいない。

「ものに焦点を当てて考えると、これは高価だから、これは××さんにいただいた記念の品だからとなって、仕分けられなくなるのです。大事なのは『私』に焦点を当てること。自分を軸にして、これからの暮らしに必要か、必要でないかで分けていくのです」

 キープしてある食べきれないほどの量の食品を、これから自分は食べきれるのか。食器棚を占領している高価な大きなお皿は、夫との2人暮らしに使うのか。若いときのブランドの洋服は、いつか着る機会があるのか。こう考えれば、要か不要かの判断がつけられるというわけ。さらに戸田先生から、

過去2年以内に使用したか否かを基準にしたらいいと思います。2年以上使わないものは今後も使う可能性は低いので、不要ってことです」

■決められなければ未決にして「保留」

 それでもやっぱり、すぐには決められないものがありますよね。そのときはちょっとずるいけれど『未決』にする。未決箱を作って決断がつくまで、ここに保管し熟成させるのです。

「ただし、あれもこれも未決にしたら、未決箱ばかり増えてしまいます。熟成期間は半年から長くても2年。大掃除や衣替えなどの区切りのいい時期に開けて、決めるのです」(戸田先生)

 何で保留にしているのか。例えば『また使いたくなるかもしれない』『思い出の品だから』『今後も使う可能性があるから、処分しないほうがいい』といった理由と、いつまで保留にしておくのかの期限を決める。これは自分で決めたルールなので、その期限が来たら、そのときこそ要・不要の判断を下します。

「こうして一定期間、熟成させると、気持ちの整理がついて、手放しやすくなります」

【3】不要なものは成仏させる

■何かを手放すから新しいものが来る

 生前整理とは、これまで自分がお世話になってきたものたちに感謝し、お別れをする作業でもあります。『これまでどうもありがとう、そしてさようなら』という気持ちで処分するのです。そうすれば「役目を終えたものたちも、成仏してくれるでしょう」と戸田先生。そうです、戸田メソッドの3は、いよいよ不用品の処分なのですが……。

 あふれかえったものを仕分けして、やっと捨てるものをゴミ袋に詰め込んでここまで来たのに、まだ捨てあぐねてしまう人もいるようです。

「よく考えてみましょう。使わなくなったものたちに囲まれて生活することで、不要なストレスを感じながら暮らしていませんか? どんなに高価な服も、タンスの肥やしになっていたら、それこそもったいないのでは。使わないものたちが占領している、タンスやクローゼットや戸棚、納戸のスペースはどのくらいになるのでしょう。ものを出し入れするのに、あなたの貴重な時間や労力が無駄に使われているはずです」(戸田先生)

 生前整理を始めようと決めた気持ちを肝に銘じて貫き通しましょう。

 使わなくなったものを成仏させると運気も上がるというのが、このメソッドのうれしいところ。戸田先生はこう言います。

「片づけることでプラスのエネルギーが入り、快適な暮らしが手に入るのです」

【4】使いやすく整理して収納する

■定位置・定量管理を厳守する

『整理』は要・不要を分け、不用品を手放すこと。『収納』は取り出しやすく、しまいやすくできるように収めること。メソッド3までに手放すものたちと訣別し整理を終えたので、いよいよ最終ステップの収納に取りかかりましょう。

「上手に収納する方法はいくつもありますが、まずは定位置・定量管理を厳守してください」(戸田先生)

 定位置とは決まった場所に置くこと、定量とは決まった量から増やさないこと。新しいものを買ったときは、かわりにそれまで持っていたものを1つお役ご免にすれば、ものが増えることはないはず。

 せっかく整理して、ものを減らしたのですから、新しいものを買うときは、それが本当に必要か、収納するスペースがあるのか、もし収納するスペースがなければ、かわりに手放せるものがあるかどうかを検討しましょう。減らしたのにまた買い込んで、リバウンドなどしないように、くれぐれも気をつけること。

「編み物が趣味で、毛糸やレース糸をたくさん持たれていた方がいましたが、“目が疲れるから”とやめられてからすべてを手放されました。そして新たにコーラスグループに入って、今ではたくさんの楽譜を集めているんですよ」

 また読書が楽しみで、好きな作家の新刊はすぐに買って読んでいたという人も、図書館を利用するようになったといいます。シンプルで快適な生活を目指す。これが戸田メソッドの生前整理術。「本当に好きなものは役に立たなくたって持っていていいの。そのかわり、何かを捨てましょうね」

■生前整理はこれからの人生設計

 生前整理というと、『縁起でもない』と思った方もいるのでは?

 でも、ここまで読んできて新しいスタートを切るための人生設計の整理術だってわかっていただけたかしら。人生設計とは、これからの自分に問うて、大切なのは何か、必要のものは何かを決めること。

自分の人生を考える、そして整理して、必要なのものだけ収納する。これはとってもエネルギーがいる作業です。後回しにしていると、どんどん億劫になってしまいますから、さあ元気なうちに始めてくださいね」

 加齢とともに、片づけパワーが落ちて、ゴミ屋敷化の一歩手前の家が増えているといわれています。ゴミ屋敷症候群は決して他人事ではないのです。いっぺんにやろうとしないで、少しずつ片づけていきましょう。

著書に『楽々できる生前整理収納』(さくら舎刊 1400円+税)長年一緒に暮らしてきたものたちを整理して、これからの人生をより快適に、より豊かに変えていくための片づけ法を紹介。※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページに移動します

生前整理10の心得

1 「見える化」で自分の価値観を知る
2 「生前整理」すると、家族や親戚に宣言
3 無理に捨てなくていい
4 しまいやすい収納を考える
5 遺すものと手放すものを分ける
6 自分の「身の丈」を意識する
7 ラベルを貼る
8 序列をつける
9 ものは仲間同士で収納し、分散しない
10 衝動買いせず、定量を維持

<教えてくれたひと>
戸田里江(とだりえ)◎整理収納コンサルタント/RAKUYA代表。大手住宅メーカーに勤務後、「片づけが苦手」というお客様の声に応じるために(社)ハウスキーピング協会認定「整理収納アドバイザー1級」の資格取得。「暮らしをラクに楽しく」をコンセプトに、自立型片づけコンサルタントとして、講演、メディア出演など幅広く活躍中。ホームページ:http://www.toda-rakuya.com/