赤ちゃんを抱くシンシン(提供=上野動物園)

パンダは動物界一、子育て下手!? 

 パンダの赤ちゃんが5年ぶりに誕生! おめでたいニュースだが、動物学者の今泉忠明先生は、

「最初の1週間を過ぎれば80%は大丈夫でしょうが、半年ぐらいは緊張する場面があるかもしれません」と慎重な姿勢。

 母親のシンシンは今回が2度目の出産。5年前の初産のときは、2日目に突然、育児放棄し、飼育員や獣医が手厚いケアを施したが、残念な結果となった。

 パンダは体が大きいわりに10センチ弱の未熟状態で子どもを出産するため、ほかの動物のように出産時の刺激がない。そのため、母になった自覚が薄いのか、育児放棄や赤ちゃんを踏みつぶす、乱暴に扱うなどといったケースが少なくない。

「最初は失敗しても2度目からうまくいくことは多い。今回はうまくいくんじゃないでしょうか。現状、上手に子育てをしているようですね」(今泉先生)

 パンダは交尾についてもデリケートな部分がある。今回、シンシンとリーリー(父親)が自然交配から妊娠に至ったのは奇跡的!「パンダの発情は年に1回、1週間ぐらい続きますが、授精可能なのはほんの3、4日ぐらい。ふだんはオスが近づいても逃げたり攻撃したりするのに、排卵が起きると逃げずにおとなしくなる。不思議なものです」(今泉先生)

 ここ何年かはシンシンがオスを受け入れる様子が見られなかったため、リーリーと一緒にするタイミングを適切に見極めることには神経を遣ったそう。

 動物行動学者の新宅広二先生はパンダの難しい恋愛事情をこう明かす。

メスの発情期間は非常に短いので、オスは合わせるためにその前後も発情しています。メスは選り好みが激しく、容姿で選ぶというよりは“恋する気持ち”になるかどうかがポイントでしょう。ある意味、選択権はメスにあるのでシビアになります。だから、拒絶の仕方もはっきりしている。

 あるお見合いのとき、オスがメスに横から、後ろから……と何時間もかけてちょっとずつ近寄っていくんですが、メスは気に入らなかったんでしょうね。それまで食べていた竹を使ってオスをズズズーっと押し戻してしまいました。さすがに、その姿には笑ってしまいました。このように、お見合いは非常に難しいもので、クマ科の中でもパンダのオスは紳士的で乱暴さがない

シンシンがタケノコを食べているとき、柵から職員が手を入れて赤ちゃんを取り上げ、身体測定(提供=上野動物園)

 無事に妊娠・出産に至っても、シンシンの場合は前回の育児放棄がある。6月12日の誕生から3週間が経過した現在でも、飼育員5名、獣医も複数名による24時間体制での見守りは続く。

 7月4日、上野動物園は定例記者会見で微笑ましい近況を報告した。

「母子ともに健康状態は良好で、赤ちゃんは体の黒い部分がハッキリしてきた。もうすぐ目が開きそう。シンシンも1日18時間ほど赤ちゃんを抱きかかえ、母乳を飲ませています」

 今回の赤ちゃんの発育、シンシンの子育てぶりについては、上野動物園も頼もしく思っているようだ。

 赤ちゃんが一般公開されるのはいつになるのだろうか。新宅先生、今泉先生ともに「経過が順調なら、3か月ぐらいで見られるかもしれない」と予想する。

メスと判明。まぶたがピクピク動き始めている(提供=上野動物園)

 また、多くの人が楽しみにしているのが赤ちゃんの名前。この話題に今、最も敏感になっているであろう人物がいる。

 パンダ愛好家のTBS・安住紳一郎アナウンサーだ。

 これまでも、歴史や名づけの前例、社会情勢や流行を総合的に考慮しながら、パンダの名前を予想してきた。今回生まれた赤ちゃんのお父さんパンダ「リーリー」の名前も的中した実績をもつ。自らがメインパーソナリティーを務めるTBSラジオ『日曜天国』でパンダの名前予想の『命名塾』を結成。教え子と一緒に活動したことも! さっそく意見を求めると、

「まだ赤ちゃんの成長を見守る段階で、名前の話をするのは早いとは思いますが……。ただ、NHKの街頭インタビューで名前の候補を“ピンクピン太郎”と女の子が答えたのには衝撃を受けました。パンダに限らずネーミングについての感覚は時代を経て変わってきています。カンカン、ランランといった、従来のスタイルではなく、まったく違う潮流が生まれるのではないかとも感じています。それだけに、今回の予想はかなり難しいところです」

 何はともあれ、明るい話題は大歓迎。名前を予想しつつ、赤ちゃんパンダの健やかな成長を見守りたい。

<教えてくれたひと>
今泉忠明先生◎哺乳動物学者。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、国立科学博物館で哺乳類の分類・生態を学ぶ。現在、日本動物科学研究所所長。近著に『ざんねんないきもの事典』。

新宅広二先生◎生態科学研究機構理事長。専門は動物行動学と教育工学で、大学院修了後、上野動物園勤務。フィールドワーク、狩猟、教育、監修など、幅広く活躍。著書に『すごい動物学』など。