「座席は基本的に通路を挟み両側に3席ずつ。前後の狭さは否めません」(秋本さん)。写真提供:ジェットスター・ジャパン

 かつては高嶺の花だった空の旅を身近な存在に変えたLCC(格安航空会社)。国際線は便数が全体の2割強を占めるなど大幅増。国内線でも、JTB総合研究所の『LCC利用者の意識と行動調査2015』によれば、「LCC就航がきっかけで国内旅行をした」人が約33%にのぼり利用者は増加傾向にある。

 一方、「サービスや安全面が不安」「利便性が低そう」などの声があるのも事実。実際はどうなのか、素朴な疑問を専門家2人にぶつけてみた。

そもそもLCCって? なぜ安い?

「LCCとは『ローコストキャリア(Low Cost Carrier)』の略称。サービスや人件費を必要最小限に絞り、コストを抑えることで大手に比べ運賃をグッと安くしています」

 とは、作家で航空ジャーナリストの秋本俊二さん。

コスト削減の大きな秘訣は、1日の往復数が多いこと。大手は1日3往復でも、LCCは5往復以上している路線もあります。飛行機は止まっていたら稼ぎを生み出しません。LCCは往復便を増やすため、夜中発着の便があったり、機内に乗客がいる間にもゴミ回収を始めたりします。着陸の数十分後には、もう出発する便もあるほどです」

 そのほか、全員に提供する機内食をなくす、空港使用料を削減するため地方の空港に発着する、代理店を通さずネット上で直売するなど、あらゆる工夫で安さを実現しているという。

 そのリーズナブルな価格は折り紙つき。航空ジャーナリスト・航空写真家のチャーリィ古庄さんは、

「現在、国内のLCCは4社。たいていは4、5000円から10000円程度で日本各地に飛べます。僕は500円で乗ったこともありますよ

Peachが運航する関西国際空港のLCC専用第2ターミナル。広々として明るい空間。写真提供:秋本さん

気になる安全性は?事故や故障は多い?

 ここまで安いと、心配なのが安全性。中古のボロい機体でも使っているの?

「いいえ、LCCでは新造機が主力。小型で定員180人ほどですが、大手も国内線は同じくらいの大きさですし、揺れやすさや居心地にほぼ変わりはありません。また、日本の航空法は安全基準が厳しく、LCCも当然、それを満たしている。安全性については大手と同等といえます」(チャーリィさん、以下同)

 実際、日本のLCCは、これまでに死者を出すような大事故は起こしていない。海外のLCCでの事例はあるが、その航空会社はつぶれてしまった。

「1度でも何かあると会社自体の存続が危ないとわかっているので、各社とも安全性の確保には必死です」

あえてデメリットをあげるなら?

 チャーリィさんによれば、

「残念ながら、大手に比べて席は狭い。男性や大柄な人だと多少、苦しいかも」

 ただし、500~1000円程度の追加料金で席が選べる便がほとんどだそうで、

「足が伸ばせる先頭席や、非常口付近の席を選ぶのも手です」(チャーリィさん)

 秋本さんは、別料金が発生するおそれを指摘。

「荷物規制は大手より厳しく、手荷物が多いと別途料金が必要です。便のキャンセルができなかったり、変更料がかかることも。予約前に、追加料金や取り消しの可否については確認を

サービスはどう?乗務員の対応は?

 米ユナイテッド航空が、予約数が座席数を上回り搭乗できない人が出るオーバーブッキングが発生した際に、乗客を引きずり下ろして批判を受けたことは記憶に新しい。LCCでも、トラブル時の対応は気になるところだが、

「オーバーブッキング自体は、大手でも同じようにありうること。便を振り替えてくれる客には基本的に金券や宿泊代を負担したりと、対応に大きな差はありませんよ」(秋本さん)

機内での食事や土産の販売はある?

 機内食は航空チケット料金に含まれていないものの、事前予約をするか、当日に機内で購入して食べられる。

「軽食や日本酒などの機内販売は充実しています。各社競ってオリジナルメニューやグッズを展開しているので、比べてみるのも楽しいかも」(チャーリィさん)

この夏、おすすめの利用法はズバリ?

「まずはぜひ、各社の無料メルマガ会員になりましょう。定期的にキャンペーン情報が届き、一般より早くセール価格で購入できる場合や、1000円以下でチケットが買えるチャンスも

 と秋本さん。ただし、破格のチケットは先着順で売り切れるのも早い。

「行き先ありきではなく、〇〇までの安いチケットが取れた。じゃあ、そこに行こう、というフレキシブルな旅もおすすめです。

 8月の旅行は、札幌、福岡、香港など複数の会社が飛ばしている路線が狙い目。混雑する時期でもどこかのキャリアで空きがないか、調べてみてください」

国内LCC4社の比較

■Peach

【目玉はコレ!】

ピンク色の飛行機や制服が可愛く利用客の半分以上が女性。機体をバックに記念撮影も◎

★秋本さん「制服や機内がおしゃれ。関西意識のメニューも充実」
★チャーリィさん「Peachのチェックインカウンターはスムーズ」

【国際13路線】
・羽田=桃園、仁川、浦東
・関西=仁川、釜山、香港、桃園、高雄、浦東
・那覇=桃園、香港、仁川、スワンナプーム
※片道価格:関西=釜山3980円~、那覇=仁川3980円~
【国内12路線】
・成田=関西、福岡
・関西=新千歳、仙台、松山、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、那覇、石垣
・那覇= 福岡
※片道価格:成田=福岡4790円~、関西=松山2890円~

◎運賃システム:3種類
↓最安の「シンプルピーチ」の場合
◎無料手荷物:機内持ち込み2個・10kgまで
◎機内食:事前予約もしくは機内購入可
◎座席:4種類。追加料金で指定可
◎予約:払い戻し不可、変更可(別途手数料)
■Spring Japan

【目玉はコレ!】

中国内陸部への直行便が便利。2時間以上のフライトでは名物「Spring体操」を実施

★秋本さん「中国の奥地へも飛べる路線は貴重。名物体操は1度経験してほしい」
★チャーリィさん「定期的にセールを開催しているのでうまく狙って」

【国際4路線】
成田=天津、ハルビン、重慶、武漢
※片道価格:成田=武漢7000円~、成田=ハルビン9000円~
【国内4路線】
成田=新千歳、関西、広島、佐賀
※片道価格:成田=広島6250円~、成田=佐賀5700円~

◎運賃システム:3種類
↓最安の「ラッキースプリング」の場合
◎無料手荷物:機内持ち込み1個・5kgまで
◎機内食:国際線のみ事前予約可。国内線、国際線ともに機内購入可
◎座席:3種類。追加料金で指定可
◎予約:変更、取り消しともに不可
■ジェットスター・ジャパン

【目玉はコレ!】

最低価格保証制度あり。対象となる他社の価格から10%引きでフライトを提供

★秋本さん「チェックインがスマホでもすませられるのでとても楽」
★チャーリィさん「ビジネスマン向けの運賃があり便利。セールも多い」

【国際9路線】
・成田=桃園、香港、浦東、マニラ
・関西=桃園、香港、マニラ
・中部=桃園、マニラ
※片道価格:成田=浦東4980円~、成田=桃園6750円~
【国内16路線】
・成田=新千歳、関西、高松、松山、福岡、大分、熊本、鹿児島、那覇
・関西=新千歳、福岡、那覇
・中部=新千歳、福岡、鹿児島、那覇
※片道価格:関西=成田3990円~、成田=新千歳4490円~

◎運賃システム:4種類
↓最安の「Starter」の場合
◎無料手荷物:機内持ち込み2個・7kgまで
◎機内食:事前予約。飲み物・軽食は機内購入可
◎座席:3種類。追加料金で指定可
◎予約:払い戻し不可。変更は空港カウンターのチェックイン開始時刻まで可(別途手数料)
■バニラエア

【目玉はコレ!】

レジャー・リゾート路線を強化。他社にはないセブ、奄美大島行きなどの便が就航

★秋本さん「奄美大島行きがあるのは大きい。オリジナルグッズも豊富」
★チャーリィさん「リゾートに最適なのはやはりここの便。グループ利用にもいいのでは

【国際7路線】
・成田=桃園、高雄、香港、ホーチミン、セブ
・関西=桃園
・那覇=桃園
※片道価格:成田=セブ9880円~、成田=ホーチミン8500円~
【国内7路線】
・成田=新千歳、函館、関西、奄美大島、那覇
・関西=函館※、奄美大島 ※7/15~8/31、9/15~9/19の季節運航
※片道価格:関西=奄美大島4780円~、成田=那覇5880円~

◎運賃システム:2種類
↓最安の「シンプルバニラ」の場合
◎無料手荷物:機内持ち込み2個・合計10kgまで
◎機内食:機内購入可
◎座席:2種類。追加料金で指定可
◎予約:払い戻し不可。変更は当日チェックイン前まで可(別途手数料)

(記載内容は2017年7月19日現在)

<教えてくれたひと>
秋本俊二さん◎作家・航空ジャーナリスト。学生時代には航空工学を専攻。世界の空を旅しながら、各メディアでのレポート、エッセイの発表やテレビ・ラジオでの解説など精力的に活動

チャーリィ古庄さん◎航空写真家・ジャーナリスト。米系航空会社、国内航空会社に勤務後、航空写真家として独立。テレビ出演多数。世界で最も多くの航空会社に乗った人としてギネス記録を持つ