わんずまざー保育園の園舎は静まり返っていた

「今はお昼ご飯もしっかり食べているので安心です」

 1歳半の娘の保育園のお迎えに来た父親は言った。

 この父親は娘を3月まで、兵庫・姫路市の私立認定こども園『わんずまざー保育園』(現在閉鎖)に通わせており、同園の不適切保育に巻き込まれた1人だ。

「連絡帳に“○○ちゃんはお昼をちゃんと食べません”とウソを書かれました。普段きちんと食事をする子なのでおかしいな、と思ってたんです」

 と、今でも憤りを隠さない。

「問題が発覚してよかった」

 転園先の保育士が新しい連絡帳に書いた女児の様子を安心した表情で見つめた。

 わんずまざー保育園に通っていた園児は現在、市内の保育園に分散して通っている。

 2月に姫路市が行った抜き打ち監査で問題は発覚した。

 定員から24人もオーバーした園児を受け入れ、給食は驚くほど少なかった。保育士の人数は水増し報告。保育士への日常的なパワハラなど、実態が次々に明るみになった。

園児の給食はスプーン1杯のおかずと子どもの握りこぶし程度のご飯だけだった(2歳児用、姫路市提供)

 同園は3月末で運営を終え、県は4月1日付で認定こども園の認定を取り消した。園長(当時)の小幡育子氏は6月30日付で保育士登録も取り消されている。

 現在3つの問題が残る。

 ひとつは示談金。園側は謝罪し、お詫びとして園児1人に対し30万円の補償金を提示。約60家族が示談に応じた。

 3家族が示談を拒否しており、小幡元園長の弁護士は、

「刑事告訴を視野に入れている家庭もあります」と認める。

強い口調でまくし立てる夫

 もうひとつは同園が不正に取得していた補助金の返還請求だ。正確な不正受給額をはじき出すのは難しく、姫路市の担当者は、「国や兵庫県とも相談し、金額を算定する」と話すにとどめた。

 3つ目は、園の土地を売却したり、貸したりして、補助金返還の足しにするための手段も考えていくこと。

 世間を騒がせた小幡元園長は現在、無職。夫も職場に居づらくなり、退職して無職であることがわかった。

 別の保育園に移ることを余儀なくされた園児に対し、どんな気持ちなのか。帰宅した元園長に取材を申し込むと、「話すことはありません」と、家の中に入っていった。翌日、再び取材を申し込むと、インターホン越しに元園長の夫が対応した。

―お子さんや保護者の方になんて謝罪されたんですか?

「今さら何を言ってるんですか? 関係ないでしょ?」

 と、強い口調でまくし立ててきた。まだ何も解決していないのに反省の色をうかがい知ることはできなかった。

 ただ不正取得したお金は、

「建物の改修や遊具の購入などにあてるつもりで私的利用していないと聞いています」

 と弁護士は話した。

 園の花壇には園児たちが大切に育てていたイチゴの苗があった。園の前を通るたび、懐かしそうにイチゴの苗を眺める子もいたそうだが、苗は1本を残し何者かに引っこ抜かれてしまった。最後に残った苗は無職の元園長が水をやって大切に育てている。