揚げてないのに“フライ”、イカじゃなくってイガメンチ……? 地元民にはお馴染みのご当地グルメの数々。ここでは、人気者・イカを使ったソウルフードや老舗レトロ喫茶の人気スイーツなど、“癒しの惣菜&おやつ編”をご紹介!

クセになるモチモチ食感のイカクレープ

■イカ焼き(大阪)

 お好み焼きともクレープとも違うモチモチ食感の秘密は、イカ焼きならではのプレス調理にある。そこにイカの歯ごたえと甘辛いソースが絡む、なにわスナックの傑作。

イカ焼き(大阪)

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 粉もの文化の聖地・大阪。ここにもまた小麦粉×イカの最強タッグ料理が!!

 たこ焼きやお好み焼きとも違う、独特の味と食感をもったソウルフード、それが「イカ焼き」だ。

 その発祥は「せんべい屋のまかないだった」「住吉大社の縁日で売られていた」、また「韓国料理のチヂミがルーツ」など諸説あって定かではない。細かく切ったイカ入りの生地を、せんべい用のプレス鉄板でグイグイと上下に押しつける焼き方が一般的。このプレスが小麦粉のグルテン作用を促し、独特のモチモチ感を生むのだ。

 イカ焼きが有名になったのは、昭和32年に百貨店『阪神梅田本店』に進出してから。地下1階の名店『阪神名物 いか焼き』では、週末や阪神タイガースの試合のある日には、行列が店の外にまで達することも少なくないという。

「現在、改装中ということで店舗のサイズが今までの6割程度ですが、それでも平均で1日8000枚を売り上げる人気商品。イカの価格が高騰していますが、企業努力で1枚152円の値段は据え置きです」(阪神梅田本店広報)

 大阪の庶民の味は当分、庶民的価格で楽しめそうだ。

イカがなまってイガなんです! 津軽発めちゃウマ惣菜!

■イガメンチ(青森県 津軽地方)

 衣をつけないので、メンチカツよりも薩摩揚げに似ているが、こちらは独特のコリコリした食感が強い。枝豆などいろいろな具材を入れて味の変化を楽しむこともある。

イガメンチ

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 日本のソウルフードとは圧倒的に小麦粉=粉もの料理が多い。そして、小麦粉と並んで「イカ」もなかなかの人気者。海産物の中では価格が安く、手に入りやすいイカは、いろんな地方の名物に登場する。そんな2つの食材が合体したソウルフードの代表格を紹介!

 まずは青森県・津軽地方のおふくろの味、『イガメンチ』。「イガ」とは津軽弁で「イカ」のこと。イカゲソを包丁でたたいてミンチにし、季節の野菜と卵、小麦粉でまとめ、焼いたり揚げたりしたものだ。

「沿岸部に比べて、弘前などの内陸部ではイカも貴重な海産物。身の部分は旦那さんのお刺身に、残りのゲソを無駄なく食べるための家庭料理だったんですよ」(『弘前いがめんち食べるべ会』事務局・萢中さん)

 そんなイガメンチ、今年に限っては原材料のイカが不漁で価格が高騰しているという。津軽地方に遊びに行った際にも、美味しいイガメンチは望めないのだろうか。飲食店ではサイズを調整したり、提供個数を制限したり、地元名産を遺すための努力を重ねているそう。“安くてうまい”がイガメンチの本来の姿。美味しいイカよ、早く津軽海峡に戻ってきてくれなイカ!

ゼリーじゃないゼリーとフライじゃないフライ!

■行田フライ(埼玉県行田市)

 生地がうすいので焼くのも食べるのも手軽、まさに昔のファストフード! 布を裁縫する女性たちが食べていたので「布来」と当て字されたとの説もある。当時は「フライ」という語感のハイカラさが重要だったのだろう。

行田フライ(埼玉県)

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 埼玉県・行田市のソウルフードといえば「ゼリーフライ」と「行田フライ」。この2つの軽食、どちらもネーミングがややこしい! 

 まず有名どころのゼリーフライ。ゼリーといってもゼラチンを固めたお菓子とは関係なく、ジャガイモとオカラを練って揚げたもの。形が小判型だったので「銭フライ」と呼んでいたところ、それがゼリーフライになまったという説が有力。『一福茶屋』の店主・大澤常八氏が売り出し、明治後期には行田の名物おやつとなっていた。

 そしてもうひとつの行田フライ。地元民はただ「フライ」と呼ぶが、実は揚げものにあらず! みじん切りにしたねぎや肉の具材を溶いた小麦粉に入れ、鉄板で薄く焼く調理法で、クレープ風お好み焼きといったところ。行田はもともと足袋産業が盛んだった街。昼休みもろくにない足袋工場で働く女性たちが手軽に食べられて腹持ちするものを求めたのが始まりだという。大正時代からの発祥店のひとつ、『古沢商店』の2代目店主はこう語る。

「働く人の街だから、仕事の合間にさっと食べられないとね。普通のお好み焼きみたいにのんびり食べてちゃダメだもの」

 ゼリーフライと行田フライ、どちらも忙しい工場の街ならではの軽食なのだ。

見た目はコロッケ、でも甘い! 驚きの美味しさ

■文化フライ(東京都足立区)

 ドーナツ的な食感を想像するが、意外や外側はカリッと、中はもっちり! 

 ある意味、粉ものの究極形ともいえるのが、東京・足立区を中心に伝わる『文化フライ』。レシピは簡単。シロップを加えまとめた小麦粉にパン粉をまぶして揚げ、たっぷりソースをかけて完成。小麦粉ON小麦粉、余計な具材はなし。この徹底ぶりは感動もの!

 文化フライは昭和30年ごろから、西新井大師の縁日など下町の露店で売られていた。そのルーツは千葉・浦安の『玉子フライ』(卵と山芋を小麦粉に練り込み揚げたもの)。それをヒントに長谷川商店の店主、長谷川まさこさん(通称・長谷川のおばちゃん)が文化フライを考案、命名したという。長谷川さんは’06年に永眠、今では文化フライの姿は縁日で見られない。

 だが、ご安心を! 東京・北千住のお好み焼き店『宏月』の通常メニューとして食べられる。店主いわく、「うちが長谷川さんの味をいちばんちゃんと継いでるから!」と心強い。

 極限にシンプルだからこそ、小麦の香りが際立ち、予想を超えた香ばしさとうまさを味わえる料理だ。

老舗レトロ喫茶の人気スイーツは、濃厚な味わい!

■ミルクセーキ(長崎県長崎市)

 卵黄入りの濃厚な練乳とバニラエッセンスとのハーモニーが昔の喫茶店を思い出させる、どこか懐かしい甘さ。ドリンクでもかき氷でもない微妙な食感も独特。

ミルクセーキ(長崎県)

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 創業は大正14年、九州最古といわれる喫茶店・長崎『ツル茶ん』。“この店が元祖”といわれているメニューが『トルコライス』と『ミルクセーキ』だ。トルコライスとはピラフ・トンカツ・ナポリタンをひと皿にした子どもの夢のような料理。その発祥については諸説あり、ツル茶んも、「どこが元祖かは正直わからない」と述べている。

 ただし、この長崎風ミルクセーキについては、「自信を持って当店が元祖と言い切れる!」とのこと。

 ツル茶んのそれは、“食べる”ミルクセーキ。卵黄と練乳を泡立てたものに砂糖を加え、かき氷と混ぜ合わせた、濃厚フローズンミルクのような一品。当時の店長が「かき氷にミルクシロップ混ぜたら、そりゃうまいだろ」とのアイデアから実践したのが始まりだとか。とことん「足し算」の発想をつきつめるところがトルコライスと似ている。はるか古代から異国文化の窓口だった長崎ならではの楽しさが感じられる。

その他のオススメフード

■津餃子(三重県)

「昭和60年ごろに津市の学校給食メニューとして登場したのが始まり。まず驚くのが大きさ。コッペパンと並んでも決して迫力負けしない。津餃子の定義は、皮は15cm、油で揚げること。今では津市のいたるところで目にすることができる」(ご当地グルメ研究会の松本学さん)

津餃子(三重県)

■しもつかれ(北関東)

塩鮭の頭などのアラと炒り大豆、野菜の切りくずを大根おろしとしょうゆで煮た郷土料理。その見た目がダメという人もいるが、ぜひ1度食べていただきたい。ご飯のおかずや酒の肴はもちろん、地元ではお茶請けとしても愛されている」(フードジャーナリストで郷土料理伝承学校校長も務める向笠千恵子さん)

しもつかれ(北関東)

■ヒット焼き(愛媛県)

「今川焼き、大判焼き、回転焼き……。厚めの小麦粉生地にあんこを詰めたお菓子は、全国津々浦々で呼び名を変えて存在しているけれど、最もローカルなのは、愛媛・新居浜の『ヒット焼き』では? 大判焼きとどら焼きの中間のような形状に、たっぷりの白あん。生地はやわらかくあんの甘みも上品。新居浜市営球場そばの店で売り出されたのが名前の由来とか」(トラベルライターのカベルナリア吉田さん)