子どもたちが自ら命を絶つ“9月1日問題”

 多くの地域で夏休みが終わり、新学期が始まる9月1日。その日が恐怖でしかない子どもたちが、自ら命を絶つ。

 いわゆる“9月1日問題”。

 データが明らかになったのは2015年のこと。原因や動機には学業不振や家庭問題、学校や友人関係などがあり、文部科学省の担当者は「これらの問題が複合的に重なったことが考えられる」と推測する。その中でも特に深刻なのがいじめを受けている子どもたちだ。 

 不登校や引きこもりなどの情報交換や交流などを目的とした『不登校新聞』の石井志昴編集長は、子どもたちのギリギリの状況を説明する。

「夏休みが終わる数日前から学校に行くか、死ぬかの選択を迫られているんです。始業式が近づくと、いじめで苦しんだ1学期のことを思い出し、恐怖感が高まっていきます。その恐怖から逃げたい、と自ら死を選ぶのです」

 予兆はあるという。

 一般財団法人『いじめから子供を守ろう ネットワーク』代表の井澤一明氏は大人たちに呼びかける。

「怯えている、夜泣く、スマホを見なくなっているなど、夏休みの前半と態度が変わってきたら注意してください。ほんの少しの変化でも、気づいてあげてほしい」

 とポイントを明かす。

「宿題ができていない、体調不良などは赤信号。1学期に不登校ぎみだったら、最後のSOSだと思ってください」

 と石井編集長。

子どもたちはいじめを隠す

 自殺の原因や理由はさまざまだが18歳以下の自殺者数は年間約300人~400人のあいだでほぼ横ばい。対策するものの減らない、という。

「いじめはどこの学校でも起きています。早期発見、早期予防が肝心です。しかし、今でも学校は、いじめを認識したがらない。教育現場はいじめがあればしっかり認め、いじめへの感度を高めるための努力をしていく必要があります」(前出・文部科学省の担当者)

 と教育現場の鈍感さに注文をつける。

 いじめが内包するわかりにくさも、事態を陰湿にする。

「男子は暴力系、女子はコミュニケーション系のいじめ。しかし大人からそれは見えません。子どもたちは隠します。いじめられている子も、苦しさを見せません」(石井編集長)

 本人も学校も隠したがる傾向にあるという。

 北海道の私立高校の女性教諭が、現場の認識力の欠如を説明する。

「生徒たちの状況をいじめと先生が認識していない場合もあります。当該の生徒はいじめられて嫌な思いをしているかもしれませんが、大人はそれに気づけない。ふざけているだけなどと、いじめにカウントしないこともあるのです」

 いじめ調査の実態について、

「学期終わりにアンケートをし、いじめが発覚すれば夏休み中に対応します。そして加害生徒に寄り添うことも必要です。というのも、加害者もトラブルを抱えていたりするからです。家庭に問題があったり、人との関わり方がわからない子もいます」

いじめ被害者や自殺を考える子どもたちへのメッセージを書いた色紙を持つ小森新一郎代表理事と妻で理事の美登里さん(右)。色紙はいじめで子どもを亡くした親ら12人から募った

 さらに、教師の目に触れないいじめがネットに広がっているのも近年の顕著な傾向だ。

「LINEやツイッターなどSNSのいじめも増加しています。“学校来るな”“死ね”などの中傷はわかりやすいのですが、当事者にしかわからない内容でのからかいもあります。ネットでのいじめは、子ども本人が“いじめられている”と告白しない限り、わかりません」(前出・井澤氏)

 と深刻な実態を明かす。

 トラブル抑止のためLINE株式会社では、学校などに講師を派遣する啓発活動やその教材作りをする。一律の解決策はない、としながらも、

「大人は子どもの利用実態や使用感覚をまず理解することが必要ではないかと考えています。そのうえで子どもと普段からネットに関するコミュニケーションをもち、トラブル時には信頼して相談してもらえるような環境づくりが重症化抑止のために重要です」

 と対策を伝えた。

学校に行かない選択もある

 子どもと親、子どもと教師の信頼感の大切さを訴える専門家は多い。

「自分の気持ちを受け止めてくれる大人に出会ったとき子どもたちは前向きになれるんです。出会いは命を助けます」と石井編集長。

 前出の高校教諭も「親と学校とが協力関係をもたなければ解決できません。生徒と教師の間に不信感が生まれてしまえば、生徒は話してくれなくなります」と経験を明かす。

 いじめによる自殺で娘を亡くし、いじめ問題の解決に取り組むNPO法人『ジェントルハートプロジェクト』の小森美登里さんは話す。

「いじめを受けていた生徒が勇気をもって先生に相談しているのに“様子を見よう”とか“いじめはない”と言われたら、さらに傷つきます」

 教師だけではない。

「親もそうです。私たちもそうでしたが“強さが必要”“頑張りどころ”などの言葉は子どもを突き放すだけです。いじめは子ども目線で考えることが重要です。助けようとしていても大人の思い込みが逆効果になることもあります」

 と注意を促す。

 同法人では新学期の自殺防止対策の一環としてメッセージの展示などを企画。展示は神奈川県横浜市を皮切りに、東京都港区、青森県などでも行われる予定だ。同法人の小森新一郎代表理事は、

「子どもたちはいじめを受け親も先生も周囲は誰も自分のことはわかってくれないという孤独を抱えた中で死んでしまいます。この展示を通して“たくさん味方がいるんだよ”と伝わればと思っています」

 と期待を込める。

 2学期へのカウントダウンが始まり、間もなく確実に新学期を迎える。

「学校は命をかけてまで行くところじゃない」と前出の石井編集長。小森美登里さんも、

「学校に行かない選択肢もあります。“うちの子に限って”はありません。突然、子どもが死んでしまうかもしれない危機感をもってください。子どもの命が最優先です」

 前出・井澤氏は悩みを抱える子どもたちに、

「親に相談できなければ近所の人、きょうだい、誰でもいいので、つらい胸の内を明かして、ひとりで抱えないで」

 と、呼びかける。通話料無料の『24時間子供SOSダイヤル』も、いつでも子どもたちの味方だ。