夏休みの宿題ド定番といえば自由研究! 親にとっても面倒な課題だけれど、楽しく上手に向き合えば、わが子の才能を伸ばす、またとないチャンスに♪ 小さな探究心を揺さぶるために、親ができることとは?

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 楽しい夏休みに毎年、多くの親子を悩ませるのが自由研究。小学生の子どもをもつ母親200人に「夏休みの自由研究をどう思いますか」と聞いた本誌アンケートによると、54・1%もの人が「めんどくさい」と回答。

 理由は、「子どもひとりでできないからアドバイスをするのに結局、聞き入れられず、イライラする」「やる気になるまで時間がかかる」など

 一方、「自由研究が楽しみ!」と答えた人は22・5%。

 「どんなものを作るのだろうとワクワク」「楽しんでやっているし、子どもの発想がユニークでおもしろい」「親もなにかしら協力して完成させるので、毎年、夏の思い出になる!」と楽しみにする肯定派も一定数はいるよう。

 そもそも、みんなどんなテーマに取り組んでいるのか? 「夏休みの自由研究のテーマを教えてください」という質問では42%が工作、25・5%が観察、12・5%が実験、7・5%が料理や裁縫などの家庭科という結果に。

「最近は自由研究対策として便利なキット商品が豊富にあり、キットを活用する親も増えています」

 そう教えてくれたのは、インターネット通販大手、楽天ECカンパニー広報の中川智広さん。楽天市場で「自由研究」「自由工作」のいずれかが商品名に含まれる商品数は約33万点。売り上げは’12年から’16年までの5年間で約2・7倍伸びており、需要の高まりがうかがえる。

「学校近辺のデパートでキットを買うと同級生と同じものになるおそれがあり、インターネットで探す人が多いのではないか」と中川さんは予想する。

 売れ筋は、室内で育てられるしいたけの栽培キットや、家庭用のオーブンで作れる陶芸セットなど。誰が作っても同じものができるキットから、材料だけがセットになった商品に売れ筋が変化している。

 一方、’04年から自由研究関連キットを制作している(株)学研プラス・科学教材チームの西脇秀樹さんによると、以前は酸性雨や光の屈折率などの定番実験が主流。パッケージも硬派なデザインのものが売れたが、最近は「カンタン・楽しい・かわいい」を重視したポップなパッケージに変更したという。書店で購入する母親が「難しそう」と毛嫌いしないための工夫だ

 売れ筋商品には、「寒天で電気分解」「レモン電池をつくろう」などのキッチンにある食品で取り組めるものや、「ビタミンCを調べよう」「DNAを調べよう」など大人にもなじみのあるテーマを入れたものが並ぶ。実験期間も「1日でできる!」「3日でできる!」といった言葉が目立ち、理系に苦手意識を持つ母親でも手に取りやすくなっている。

「母が手伝う」53・2%

「2学期の始めに自由研究の発表会があり、しょぼいものだと恥ずかしい」

 と張り切る親もいる。

「子どもの自由研究をどの程度、手伝いましたか?」という問いに対して「子どもひとりで全部やらせる」と答えた人は18・5%だったのに対し、53・2%もの親は「母が手伝う」と回答。

「天才小学生を除き、親が手伝わないとまともな作品にならない」「学内のコンテストで上位の作品は、親の作品になっているのが実状」と明かす。親の関与に疑問を抱きながらもよい成果を残すためには手伝いが避けられない、という見方もあった。

 前出の学研プラス・西脇さんも、自由研究への母親の関わりが「近年はより顕著に感じられるようになった」と話す。

「自由研究キットを購入した親からの問い合わせ電話の件数が昔に比べて増えました。完璧を目指すあまり、失敗させたくない思いが強いようで、“思ったような結果が得られない”“なぜうまくできないのか”といった問い合わせが多い日は1日10件くらいありますね」

 親にやってもらったかどうか、学校の先生は見抜いているのだろうか。

 都内の小学校教師にアンケートをとると「あまりに上手すぎる手芸はさすがに」「絵日記で、大人が左手で書いた文字や絵はすぐわかる」「担任は生徒ひとりひとりの文字を覚えている」と、きっぱり。

 ただ、「親にアドバイスをもらうことはかまわない」という声も。手伝うことが悪いのではなく、どのくらい介入するか、そのさじ加減が大切だという。

自由研究で全学力の基礎が身につく

 親は自由研究にどう関わればいいのか? 子育てに関する多くの書籍を持つ、教育評論家の親野智可等さんはこう指摘する。

「子どもだけでテーマを決めて実行するのは難しいので、親のサポートが必要です。オススメは、子どもが普段から好んで取り組んでいることをとことんやらせてあげて、それをまとめる方法です」

 サッカーが大好きなら、練習の記録をつけたり、工作が好きなら作った過程と工夫した点を記入する。

好きなことに夢中になると、いろいろな能力が伸びます。例えばタレントのさかなクンは、海の生きものが大好きで幼いころから観察した結果、集中力や記憶力、図鑑や文献を読むための読解力や語彙力が自然と身についたのだと思います。絵を描いたり、海の魅力を人に説明するすぐれた能力もある。興味に従ってひとつのことを突き詰めたからこそ、多くの才能を身につけ活躍できるのです」

 加えて、「好奇心をもとにした自由研究は子どもの脳の発達に重要」と指摘するのは、発達脳科学者の成田奈緒子さん。

「興味を追求することは、思考力や集中力、創造性などをつかさどる前頭葉を刺激します。前頭葉は9~11歳くらいで完成するので、低学年では親がある程度、自由研究の筋道を立ててあげて、高学年になったら自分で考えていけるようになるのが理想ですね」

 研究テーマはなんでもOKだとか。

「例えば、私の娘は犬が大好きなのですが、ある日、“犬を触っていると気分が落ち着く気がする”と言ったので、“調べてみたら?”と言って自由研究のテーマに選びました」

 まとめ方は、(1)仮説を立てる、(2)情報収集する、(3)実験・検証、(4)考察するという流れ。「犬を触ったら落ち着くか?」という例の場合、「本物の犬を触ったら気分が落ち着くはず」という仮説を立て、気分が落ち着くとき、人間の身体ではどんなことが起こっているのかを図書館やネットで調べさせる。そこで、リラックス状態になると血圧が下がることがわかったら、実際に家庭用の血圧計で、本物の犬を触ったときと、ぬいぐるみの犬を触ったときの血圧の下がり具合を測定し、結論を導き出すという方法。

 実験で仮説どおりの結果が得られなくてもあわてる必要はない。本物の犬を触っても血圧が下がらなかったなら、「もしかしたら、よその家のペットの犬だったからかもしれない」などと予測できれば、それも立派な研究成果!

「なぜ思ったような結果が得られなかったのかを考えることで脳が活性化します。親が先回りして失敗を回避するのではなく、どんどん間違えさせてください」

子どもの頑張りをほめてあげることが大切

 母親へのアンケートでは「毎日、観察するようなものは子どもが途中で飽きてしまう」という悩みの声もあったが、「叱っても、お互い嫌な気分になるだけ」と前出の親野さん。

「単に子どもが忘れているだけなら“あ! そういえば忘れていたけど今日、観察記録つけたっけ? 一緒にやろう”と、あえて親も忘れていたフリをするのもいいでしょう。やる気がない場合は、親子でプロレスごっこや、くすぐり合いなどのスキンシップでテンションを上げてから、“よし! 一緒に観察しよっか”と言えば、ノッてきたりします」

「お母さんも手伝うから、半分やろう」など、ハードルを下げるのもコツで、子どもの頑張りをほめることにも気を配りたい。

「子どものこだわりを聞き、感心してあげましょう。子どもにとっては好きなことを思う存分やらせてもらえて、さらに親が応援してほめてくれるのだから、これ以上うれしいことはない。親への信頼感が高まり、親子関係もよくなります」(親野さん)

 自分でやりたいこと(課題)を見つけて取り組む力は、今後の人工知能を中心とした技術革新の時代では非常に重要だという。

「上司に言われたことしかできない人間は評価されません。自ら課題を決めて取り組む指導は、学校でもやる必要があります。でも、日本の学校は先生の数が少なく、1クラスの子どもが最大40人なので、個別のサポートができない。欧米は、1クラス最大20人程度の少人数教育なので、個別のサポートもできますが。せめて夏休みには、親子で自由研究に向き合い、“自ら課題を決めて取り組む”力を伸ばしてあげてください」(親野さん)