渡米前、不倫騒動で会見を行った渡辺謙。会見中に“世界のワタナベも~”とレポーターにも称されたように、ハリウッド映画やアメリカでの舞台に多数出演している。ほかにも、多くの役者が海を渡って活躍しているが、はたして現地の評価は? 外国人による、日本人俳優の、日本人が知らない本当の評価とは──?

(左上から時計回りに)真田広之、渡辺謙、菊地凛子、千葉真一、役所広司、工藤夕貴

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「しばらくアメリカに行かなければいけないこともありますし、その中でどうしていくかっていうことなんじゃないでしょうか」

 7月中旬、不倫報道に対する会見で芸能レポーターから「自宅に戻るか?」と問われ、こう答えたのは俳優の渡辺謙。「現在、謙さんはハリウッド版『ゴジラ』の撮影で渡米中。会見後、その足で空港へ向かったといいます。芸能レポーターが“世界のケン・ワタナベも~”と問いかけた場面がありましたが、近年では海外での活躍も目立っていました」(芸能レポーター)

 ’03年に公開されたアメリカ映画『ラストサムライ』に出演すると、アカデミー賞の助演男優賞などにノミネートされ、一躍脚光を浴びた渡辺。’15年にはミュージカル『王様と私』でブロードウェイの舞台を踏んだ。現地で鑑賞した映画ライターの今祥枝さんは彼の演技をこう評価する。

「驚くほどに堂々としたチャーミングな王様像で、観客にも愛されていました。顔だちや表情の作り方も大きくてわかりやすく、英語の訛りがある役だったので違和感もありませんでした。米演劇界で最も権威のあるトニー賞候補にもなり、ブロードウェイに挑戦した日本人として、意義があると思います」

 最近ではローラが昨年12月に公開されたハリウッド映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』に出演したが、かつての工藤夕貴松田優作など、海を渡って世界へ羽ばたいていった役者は多い。しかし現地の評価はあまり日本には届かない。

「日本では役者ひとりがハリウッド進出すると大々的に報じられますが、アメリカでは日本人のハリウッド進出は“現象化”しているわけではないんです。現地在住の“日系人”のほうが扱いやすい部分もありますから」

 こう語るのは、放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏。というのも、日本人がぶち当たる“言語”の壁は想像以上に高いからだ。

どんなに頑張っても、演技以前に発音の悪さとイントネーションの不自然さが耳についてしまうんです。何を言ってるかまったくわからないと、興ざめですよね。そうなると、発音に不安のない日系人のほうが安心。渡航費も、ビザの問題もクリアですからね」(デーブ氏)

 前出の今さんも“ハリウッドの常識”についてこう語る。

「日本人のキャラクター設定であっても、日本人ではない英語ネイティブのアジア系アメリカ人が抜擢される、あるいは日本人ではない設定に変更されるというのがアジア人にとっての壁。近年はダイバーシティ(多様性)が叫ばれているため日本人も活躍の場を得られつつあるものの、まだまだアジア人枠は役そのものが少ないのがネックです」

 私たちが思っている以上に、米国内では話題になっていないこともしばしばあり、

よっぽど日本に興味がある人でないと、日本人スターのことは知らないですね。渡辺謙さんのことも、写真を見れば顔はわかるかもしれませんが、名前や出身国までは結びつかないかもしれません」(アメリカ在住の日本人女性)

「“全米が泣いた”というキャッチコピーも、ニューヨークやロサンゼルスなどの都市部に限ったことで、田舎ではまるで話題になっていないことも。温度差は否めませんね」(現地通信社記者)

日本人観光客向けの広告宣伝? 

 そんな日本人の役者に与えられる役は“典型的な日本人”を体現した役だという。

日本ではなじみのないマシ・オカだが、役者だけでなく、プロデューサーとしても活躍中だ

最初の入り口はみんな“日本人役かアジア人役”として、いかにも“ザ・ジャパニーズ”なキャラを演じるのでは。まずは何かに出演しないと認識さえしてもらえません。その後はガッツと語学力。英語が話せなくても使ってもらえるのは、最初の1回くらいではないでしょうか」(今さん)

 その点、語学問題をクリアしているのは、7歳から拠点をアメリカに置いているマシ・オカ。彼はアメリカのお茶の間で、いちばん知られている日本人といっても過言ではない。

「ドラマ『HEROES/ヒーローズ』などに出演して人気を博していますが、オタク、サラリーマンという典型的な日本人イメージで人気。一方で、そういった役しかこないのがジレンマだそう」(今さん、以下同)

 語学の壁とイメージに阻まれながらも、アメリカに拠点を置いて活躍しているのは、真田広之。映画だけでなく、大作ドラマシリーズ『LOST』『HELIX』『エクスタント』などに出演している。

殺陣と演技力も高く評価されているし、何より英語力がある。テレビドラマの現場のスピード感はすさまじいので、ドラマで活躍できることは語学力の高さを証明しています。真田さんはドラマの現場について“しんどかった”と言っていました」

 デーブ氏が“女版・真田広之”と称するのは、’06年に映画『バベル』に出演した菊地凛子

彼女も海外を中心に活動しているので、英語の発音が上手。日本の芸能界よりも外国のほうが肌に合っていたのでしょうか? ハリウッドだけでなく、たくさんの国から声がかかっているし、アメリカのテレビ番組にも出演しています。今までにない成功例でしょう」

 菊地と同じ『バベル』に出演した役所広司など、「シネフィル(映画通)に知られている俳優は少なくないけれど、局所的な人気」というレベルだそう。

千葉真一さんらアクションスターも、タランティーノら有名監督が推さなければ見る人も少ないですし、香港アクションと同じくらい日本の任侠映画も人気なので、それなりの人気はあると思います」

 ブロードウェイ・ミュージカル『シカゴ』に出演した米倉涼子も、今秋に凱旋公演が決まっているが、現地では評判のよしあしどころか話題にのぼることさえなかったそう。それでも海外でキャスティングされるのは、こんな裏事情もあるとデーブ氏は語る。

「米倉さんくらいスタイルがよければ、海外の人と並んでも見劣りしません。渡辺謙さんも身長が高く、顔の表情で演技ができますしね。

舞台『シカゴ』の凱旋公演での米倉涼子(中央)

 ただ、日本人をキャスティングすることにはある思惑も。日本人観光客向けの広告宣伝になると思っているんです。それゆえに急に主役に抜擢されることもあるんですよ。海外公演に出ることは、役者として箔もつきますし、凱旋公演の宣伝にもなりますから」

 このように、日本人の役者たちは海を渡っただけで成功とはいかないようだ。

「片足が飛行機に乗ったままのような状態はNGなんです。今後進出する方にはぜひ、日本とアメリカの仕事を割り切って真剣にやってほしいですね」(デーブ氏)

 スターたちはハンデを背負いながら、アメリカンドリームを追いかけている──。