警察は現在も捜査と取り調べを続けている

 男1人と4人の女が2組に分かれ、連携プレーで新潟市西区にある大型ショッピングセンターの店内を物色していたのは、昨年9月27日の午前11時ごろのことだった。

 手慣れた手つきで商品を手提げバッグに入れ、店外へ。手際のよい組織化された万引き犯の一部始終を目撃していたのは防犯カメラ。売り上げと在庫の不一致を不審に思った店が映像を確認すると、そこには男女5人組の怪しい動きが鮮明に残っていた。

5人の容疑者のうち、4人が家族

 新潟県警は9月6日、窃盗の疑いで新潟市の錺師、霜鳥幸男容疑者(68)とその妻、霜鳥絵美容疑者(36)、妻の母、霜鳥律子容疑者(65)、幸男容疑者の元妻、霜鳥奈千子容疑者(75)、知り合いのパート従業員、細川順子容疑者(50)を逮捕した。

 逮捕容疑の窃盗被害は、

「ハンズフリーで撮影できるウェアラブルカメラ1台(3万円相当)と、男性用ビジネスシューズ1足(1万3000円相当)、男性用デニムシャツ(3000円相当)の3点」

 と捜査関係者は明かし、

「ただし、現物は発見されていません」

 売却した可能性も否定できない。余罪についても捜査中という。

 5人の容疑者のうち、4人が家族、まさに泥棒一家だ。

 近隣の主婦によると、

「前の奥さんは別のところに住んでいるのに、毎朝早く霜鳥さんの家に来て、夜遅くに帰っていました。パート従業員の女性もいつも一緒です」

 と、同居していると思えるほどの親密さを証言する。

 5人が生活していたのは、JR新潟駅からバスで15分ほど、昔ながらの農家と新興住宅が混在する一角の借家。

 容疑者一家は10年ほど前に引っ越してきたという。

 地域では飼い犬の散歩をする霜鳥容疑者がたびたび目撃されており、その傍らには絵美容疑者が寄り添っていた。

「霜鳥さんの娘さんだと思っていたんですが……」

 と前出の主婦も驚いた表情を隠さなかった。行動をともにしていた若い女性が娘でなく実は妻で、周囲が妻だと思っていた人物は妻の母、さらに元妻までが加わったという家族構成。そこに知人女性もがプラスされているのだから不可解極まりない。さらに、

「(元妻の)奈千子は、離婚後も名字をそのままにしていた。絵美の母の律子は、娘の結婚後に養子縁組して、名字を霜鳥にそろえたらしいです」

 と、捜査関係者。

 元妻が離婚後も結婚時の名字を名乗ることは多いが、結婚相手の親を養子縁組して同じ名字にする理由は何なのか。

 逮捕のニュースは、さらに近隣住民を驚かせた。

「霜鳥さんは腰が低くて親切。隣組の組長もしている、しっかりした人なのでびっくりしました」

 と近所の男性。“あんなにいい人がなぜ事件を?”という驚きの声は方々から聞こえた。中には好印象を持っている住民もいた。

「霜鳥さんは動物も子どももお花もお好きで、いつもハキハキしていて元気で、爽やかな人という印象でした。身長は165センチくらい。きちんとした角刈りで、作務衣などの軽装。スーツ姿は見たことがないので、お勤めしている人ではないと思っていました」

 と、近隣の主婦。

 町会の活動や街の美化にも積極的だったという。

無人の容疑者宅。毎日、近くに住む息子が飼い犬の餌やりに訪れる

聞けば聞くほど謎の生活

 一方で、誰が働いていて暮らしを立てているのか、首を傾げる住民もいたという。

「ご主人はブローチやペンダントなどの装飾品の彫刻をする職人らしいけど、1度も作っているところや作品を見たことはありませんしね」

 と語り、一家のことを知る住民は、

「でも、なんかお金はあったみたいなんです。近所に旅行のお土産を配ったり、子どもが生まれたばかりの人にベビー用品を配るというか押しつけたり、駐車場の車も突然買ってきたみたいなんですよね」

 と首を傾げる。

 さらには、1~2か月に1度、近くの宗教施設に顔を出す信心深い一面もあった。

「お盆やお正月にも必ずお参りにきてくださいました。高価なお菓子とか、見たことのない豪華なお花とかをお供えしてくれます」

 と、同施設の関係者は感謝する。容疑者の自宅からもお経や鐘の音が聞こえていた。

 では、お供えやお土産、車を購入するお金は? 

 この道30年の錺職人は、

「60代でちゃんとやっていれば、家を建てられるくらいの稼ぎはあったはず」

 と明かすが、老眼のため70歳前後に引退する人が多い世界で、容疑者は68歳。一線で働ける年代ではなく、収入も若いころのようには見込めない。

 万引きで手に入れた商品を現金化していたのか。

 聞けば聞くほど暮らしは謎だらけだ。

 容疑者一家について、古くからの住民は、

「表面的で当たり障りのないことは話してくれるのですが、深いところまでは絶対に話さない」

 と、警戒心の強い霜鳥容疑者の様子を感じ取っていた。

「すごく外面を取り繕っているような印象を持っています。知らない人の家の前まで雪かきや掃除をしたり、地区の集まりに積極的に参加している姿が、どうも私たちはこれだけやっています、というのを見せつけるというか、押しつけがましいというか。

 隣近所にものを配る際も、私の知人が断ると、“うちの人が買ってきちゃったから”と強引に押しつけていく」

 と、話す住民もいた。

 実際、トラブルになったという男性に話が聞けた。

「うちの玄関は道路から少し離れていますが、以前、道路から入ってきて玄関先まで雪かきをされたことがあります。気持ち悪くて“やめてくれ”と言ったら、それ以来、あいさつすらしなくなりましたね」

 野良猫に餌づけをしたことを注意した人を、怒鳴りつけていたこともあるという。

 度重なるトラブルに一家と距離を置いたり、対応に悩む住民も少なくなかった。

 一体、どれが本当の顔なのか。表と裏が多くとらえようがない。

 近所の人は、怯えながらこんなことを口にした。

「ご近所とトラブルになっても非を認めない、絶対に謝らない人でしたからね。戻ってきたらどうなるのか……」

 容疑者らは「覚えがない」「万引きはしていない」と容疑を否認しており現在も取り調べは続いている。