怪しい旅のガイドブック!? 『日本昭和珍スポット大全』が話題の金原みわさん 撮影/吉岡竜紀

 珍スポットと呼ばれる場所がある。ディズニーランドやスカイツリーのように誰しもが楽しめる場所ではなく、ひと癖もふた癖もある観光地だ。有名なところだと、秘宝館や地獄めぐり。個人で作っているスポットが多く、チープだったり、エロかったり、怪しかったり、怖かったりして、万人受けする場所ではない。でも、ちょっと足を運んでみたくなる、不思議な魅力をもっている。

 そんな珍スポットにハマってしまった女性がいる、金原みわさんだ。人呼んで“珍スポトラベラー”。なんと1000件をゆうに超える数の珍スポットを、ひとりで訪れているのだ。ウェブメディアや紙媒体、トークイベントなどで日本中の珍スポットを紹介し若者を中心に人気を集めている。

会社辞めて珍スポをめぐる旅へ出る

 彼女はなぜ珍スポットにハマったのだろうか?

「もともと旅行好きだったんです。学生時代は四国一周や九州一周なんて『一周系』の旅行をしていました」

 そんな、みわさんの運命を変えたのは、淡路島にある1軒の珍スポットだった。

「『ナゾのパラダイス』という秘宝館的な場所に会社の同僚と遊びに行ったんです。館内には巨大な木製の男根様がたくさん並んでいたり、動物の剥製(はくせい)がこれでもかってぐらい置かれていたり、とにかく怪しい雰囲気満載だったんです。私はもう一気に虜(とりこ)になりました。同行していた会社の同僚は“ちょっと気分悪くなってきた……”と言って外に出ちゃいましたけど(笑)」

 金原さんは当時、薬剤師。平日は普通に働き、週末に珍スポットを回った。

最初は週末だけで満足してたんですけど、それでは物足りなくなっちゃって仕事を辞めることにしました

金原みわさん 撮影/吉岡竜紀

 辞めた後は貯めたお金で自動車を買い、旅に出た。あらかじめインターネットなどで調べた場所を訪ねていくのだが、道の途中で面白そうな場所を見つけたら立ち寄るようにした。食事も普通の場所ではとりたくない。ボロボロの純喫茶や、いかにもクセがある個人経営の居酒屋などを探した。お風呂も、温泉は珍スポットが多いので、なるべくひなびた場所を選ぶ。

 そして最後は、マイ自動車で車中泊をする。1日平均5件の珍スポットを訪ねた。1年間で軽く1000件を超えた。

「珍スポ巡りの日々は、とにかくすごいお金が減っていくんですよ。ほとんど収入がないのに旅行してるんだから当たり前なんですけど(笑)。車中泊も何日も続くとドンドン体調が悪くなっていって。咳(せき)が止まらなくなって、珍スポットの店主に風邪薬をもらったこともありました。たまにホテルで寝るとすごい癒されます。本当に布団って身体にいいものなんですね!

 そんな体調でひとり自動車を運転しているのだから大変だ。珍スポットは山の中にあることが多い。男根様が祀(まつ)られている山奥の神社に行く途中に沼にハマって立ち往生してしまったこともあった。命がけで珍スポットを回っているのだ。

この秋おすすめの珍スポットはココ!

 そんな珍スポ巡りの日々を過ごす金原さんだが、今夏、北海道を巡り終え、ほぼ日本全国を回り尽くしたという。おそらく日本一、珍スポットを知る彼女に、秋の行楽シーズンにオススメのスポットを聞いた。

最近ハマっているのがラドン温泉なんです。涼しくなってきましたし、温泉にゆっくり入るのは気持ちいいですよ

 ラドン温泉とは、昭和の末期ごろに作られた放射能泉である。微量の放射線が含まれた温泉は病気に効くといわれていて、リウマチ、喘息(ぜんそく)、アトピーなどを患っている人が訪れる。

「作られて30年超えになっている施設が多くて、なんともいい雰囲気になってるんですよ。玄関を入ると『ラドン発生装置』と銘打たれた大きい機械が置いてあって“ゴーン……ゴーン……”って稼働してたり(笑)。すごい怪しいですけど、楽しいですよ」

 ラドン温泉は、兵庫県の有馬温泉をはじめ、福島、長野、京都、広島、鳥取などに点在している。ラドンの効果のほどはさだかではないが、気は心である。最近体調がすぐれないという人は足を運んでみてはいかがだろうか?

『日本昭和珍スポット大全』金原みわ=著 辰巳出版/1620円(税込)※記事の中で画像をクリックするとamazonの紹介ページに移動します

ほかには『安福寺』なんてオススメですね。広島にあるお寺さんなんですけど、秋に向いている珍スポットです」

 広島県の田園の中にある寺院なのだが、先代の住職が手作りしたさまざまな展示物がめじろ押しだ。大量のひょうたんが展示してあったり(珍スポットらしくハレンチな形のひょうたんもあり)、資料館として江戸時代の農作業や戦時中の様子をカカシで再現している。本物の軍服や砲弾などが展示されていて、ちょっと緊張してしまう。

いちばんオススメなのが『田園ステージ』と書かれた舞台なんです。小さな田んぼの前にステージが組まれていて、演技をしているカカシが展示されているんです。秋に行けば、稲が実っていると思うんで、秋らしい気持ちになると思いますよ」

『日本昭和珍スポット大全』に載っている安福寺の写真を見ると、かなりシュールだ。秋を楽しめるかどうかは微妙なところだが、この本には金原みわさんオススメの珍スポットがこれでもかというくらい載っている。自分好みの珍スポットを見つけて、遊びに行ってみてはいかがだろう?

<プロフィール>

かねはら・みわ◎1986年、兵庫県生まれ。全国の珍しい人・物・場所を巡る珍スポトラベラー。ラジオ関西『金原みわの珍人類白書』のメインDJ。雑誌『MeetsRegional』『デジタルカメラマガジン』にて連載中。著書に『さいはて紀行』(シカク出版)がある。

(取材・文/村田らむ)

<取材後記>
 実際に足を運んで撮影しているだけあり、写真に迫力がある。『テーマパーク』『食堂』『温泉』などのジャンル分けで紹介しており、自分の興味がある場所をピンポイントで探せる。『珍スポトラベラー』ならではのコラムも載っていて、実際に全国を回った気分にしてもらえた。旅行好きな人や、サブカルチャー文化が好きな人も楽しめる1冊だ。