九州場所。今年最後の本場所は、白鵬の40回目の優勝で幕をとじた

 よもやの場外乱闘から、八百長騒動以来の相撲界全体を揺るがす事態に発展し、ニュース番組のトップ報道にまでなって、その決着点がいまだに全く見えない今回の騒動。

日本社会に一石を投じられるのでは

 貴ノ岩VS日馬富士かと思ってたら、いつの間にか貴乃花親方VS相撲協会featuring旭鷲山になっていて、頭の中が「???」だらけ。正直、スー女な私からすると、噂される協会権力闘争なぞ興味なし。

 ただ、ただ面白い相撲が見たいし、頑張ってる力士たちが報われてほしい。お年寄りや子どもたちに優しく、チャリティ活動にも熱心な日馬富士へ、日ごろの行いを考慮しての寛大な措置がとられ、貴ノ岩と握手、みなが笑顔で土俵に戻って来られることを祈っている。

 甘い? でも、過ちを犯した人が反省し、許され、また頑張る姿を見せることも、日本の国技とみなが思う大相撲のあるべき形ではないか? と思う。

 一度失敗したらジ・エンドな今の日本社会に、一石を投じられるのではないだろうか? 「排除します」な百合子節の二の舞にならないことを願っている。

 私はそう思うが、他のスー女や好角家たちはどう思っているんだろう? 今回初めて九州場所に足を運んだが(そりゃもうワクワクでしたよ!)、そこで会った方々と話をしてみた。

純粋な相撲ファンは、土俵の上しか見ていない

“本当の相撲ファン”に本音を聞く

 最初に話したのは福岡市内に住む、70代のお母さんと娘さん。朝イチから見る熱心なスー女親子だ。お母さんは白鵬の、娘さんは勢(いきおい)の大ファンで、九州場所には3年前から来ているとか。

 今回の騒動、どうですか? と言うと、お母さんは笑顔で「私は責めないわ。そりゃ暴力はダメよ。横綱の品格云々以前にダメ。でも日馬富士は勝つときも土俵際でダメ押ししないし、落ちないように逆に抱きとめたりするでしょう。いつもいい人よね」と寛大な措置を願う。

 でも、娘さんは「ここでOKの前例を作っていいものか? 他のスポーツだったらアウトでしょう? お酒の飲み過ぎはだめ。お神酒じゃないのよ」と日馬富士への苦言も。

 それでもやっぱり「引退はでもねぇ。難しい判断ですよね」と言う。もちろんお二方とも、こうしたことがあっても「相撲は大好き! 今日も楽しみ」とルンルン♪した様子なのが嬉しい。

 ところで、この九州場所、ひとりで来るスー女の姿が目立った。

 かつて大相撲といえば、接待のサラリーマン族がお客さんのメインで、スーツ姿のおじさんたちが「どうもどうも」とご挨拶、が当たり前だったのに、今やそういう姿はあまり見ない。

 代わりに増えたのはスー女というのは本当で、ツイッターのタイムラインを見ていても、スー女たちが続々と東京や日本各地から九州へと向かっていた。なんという経済効果よ! 私もその一人なわけだが、通路で一人、お弁当を食べていた女性に勝る人はいないのではないだろうか?

 何気なくその人に「どこからいらしたんですか?」と聞くと、「北海道です」という。えっ? 聞き間違いか? と思うと、「新千歳空港からここまで3時間半ぐらいなんですよ」とニコニコ言うからビックリ。

 どうしてそんな遠くから? と聞けば、「嘉風の大ファンなんです。ここは地元ですから声援が違う。地元で見てみたいと思って」と筋金入りの嘉風ファンだ! すごい! 「嘉風は取組への姿勢が好き。今も大関目指して頑張ってる。年齢とか関係なく、いつまでも目標を持って挑んでいるのがステキです」とキラキラ語ってくれた。

場所内に設置された、日馬富士の等身大パネル

 今年35歳とベテランの嘉風。関脇という大関に次ぐ地位にあり、常に全力で向かい、九州場所では唯一、白鵬にも勝った。勝ち負けにかかわらず名言も多く、尊敬される関取だ。

 私も嘉風、大好きです。彼には努力する素晴らしさとかいろんなものをもらいますよね、だから大相撲ファン、辞められないんですよね! と、うんうん頷いてしまった。

 そんな彼女にも日馬富士の話題を振ると、「辞めてほしくはないです。ただ、本人が暴力をふるったことを認めてますよね。だから難しいですよね」と、やはり判断はできないという。この問題、どう決着をつけたら正解なのか? 本当に難しい。

 ところでマスコミの中には、この騒動で相撲ブームも衰退か? なる声もあるみたいだが、私が話した人たちは変わらず熱狂していて、そんな片鱗はまったく見えない。

 会場入り口で力士の「入り待ち」をしていた、やはり一人で福岡県内から来ていた40代の女性と話したら、「えっ? ブーム終わり? 私は今回初めて来たんですよぉ。お相撲、生で見てみたいって、特に誰が好きってないけど、興味があってね」と言う。

 まだまだ新しいファンがこうして生まれているし、嘉風ファンの女性しかり、誰か一人の関取に人気が集中しているわけではない今の大相撲、人気が定着し、ファンが確実に育っていると感じた。

 彼女にも今回の騒動、どうですか? と話を向けると「もういいかな~。うんざりかも」と笑う。そう、もうお腹いっぱいですよね。

「一番ラッキーなのは、引退せんことや!」

 さて、日馬富士といえば、子どもに優しく、それゆえちびっ子ファンも多くて、彼が土俵に上がると、子どもたちの可愛い、舌足らずな声での「ひゃるまふじ~」という声援が飛び交うのが有名だが、今回も会いましたよ、ちびっ子ファンに。

 親子4人で訪れていた久留米のファミリーの6歳の男の子。大の相撲ファンで、4歳の妹も、お父さんもお母さんも、彼の影響で家族みんな相撲ファンになってしまったんだとか。

 日馬富士だけじゃなく、石浦、嘉風、稀勢の里、遠藤、正代(しょうだい)とご贔屓(ひいき)力士がいっぱいいて、それぞれの名前を記したカードを手作りして、頭に巻いて応援する6歳! 日本イチの好角家かもしれない。じゃ、将来はおすもうさんになるの? と聞いたら「ううん、レスキュー隊員」というのが、なんとも現実的な現代っ子だわぁ。

 日馬富士はどうなったらいい? と聞いてみたら、「捕まらんでほしいなぁ」と身体をグルグルしながら言い、そして「一番ラッキーなのは、引退せんことや!」と身体をピンとして大きな声で宣言してくれた。そのとおり、一番ラッキーなのは、それだ! 

 そして九州場所千秋楽、白鵬が優勝インタビュー冒頭で「場所後に真実を話し、膿を出し切って、日馬富士関と貴ノ岩関を再び土俵に上げてあげたいと思います」と語った。

 それを聞いてツイッターでは「よく言ってくれた」「泣きそう」「すべての心から相撲を好きな人の琴線に触れるものだった」「優勝が白鵬関で良かったなと思える優勝インタビュー」と、賛成の声が多かった。

 ちなみにツイッターには「#大好きな日馬富士」というハッシュタグができて、日馬富士ファンたちが熱い思いを連日ツイートしている。

 熱心に相撲を見るファンたちの声に、決断する方々も耳を傾けてほしい。大相撲はスポーツであると同時に、神事でもあり興行でもある。ここは大岡裁きのような情けもある決断を私はお願いしたい。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。