姫乃たまさん 撮影/吉岡竜紀

『職業としての地下アイドル』の筆者である姫乃たまさんは、自身、地下アイドルとして生計を立てている。読者のみなさんは、地下アイドルという存在をご存じだろうか?

テレビなどのマスメディアではなく、ライブハウスなどファンがいる空間を活動の中心にするアイドルのことです

 と、姫乃さんは笑顔で解説してくれた。

普通のアイドルとはどこがどう違うの?

「主にチェキ(インスタントカメラで撮った写真)を販売して稼いでいる人が多いですね。私は1枚500円ですけど、もっと高い人もいますし、サインつきで2000円なんて売り方をする人もいます。チェキを撮れる難易度が高ければ高いほど、地上のアイドルに近い場所にいると言えます

 現在、日本には万人単位のアイドルがいるという。アイドル一本で食べていける人は少なく、学生や実家暮らし、アルバイトをしながらアイドル活動を続けている人がほとんどだ。ということは「地下」を冠したアイドルとなると、さらに過酷な職業ではないのか。

「確かにそういう熾烈(しれつ)な側面はあるのですが、とても楽しい世界でもあります。地下アイドルという存在をイメージで語るのではなく、統計をきちんと取って見直したいと思ったんです

『職業としての地下アイドル』姫乃たま=著(税込み842円/朝日新聞出版) ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 確かにテレビなどでは人に対して印象で語ることが多い。「アニメのファンはロリコン」「ゲームファンはいつか人を殺す」などと完全に人権侵害の説がしゃあしゃあと流されるケースも少なくない。ただ、そんな意見に「それは違うぞ」と感情的に反発しても説得力に欠ける。きちんと統計を取って、数字で示すことが有効なのだ。

地下アイドルは100人強、地下アイドルファンも100人強、アンケートを取りました。自分の周りの人たちはもちろんですが、プロダクションにもお願いして、なるべく偏りがないようにデータを集めました」

 月収や恋人など、アイドルとしては書きづらい質問も多かったが、まじめに答えてくれる人が多かったという。『職業としての地下アイドル』では、そのデーターに基づきさまざまな考察がなされている。イメージとは違う地下アイドルの本当の姿が浮き彫りになっているケースも少なくない。

地下アイドルが他の若者に比べて、圧倒的に高いポイントを示した質問がありました。それが『両親に愛されていると思うか?』という項目です

 「愛されていると思う」と答えた一般の若者は35.2%だったが、地下アイドルは実に70%の人が愛されていると答えた。

「愛されて育った人は、愛されるのが当たり前だと思っていますから、人に愛されるのが前提のアイドル活動を自然にできるのかもしれません」

 また、過去にいじめられた経験があると答えた地下アイドルも52.1%と、一般の若者11.7%に比べてとても高かったという。

 姫乃さん自身、統計どおり両親にはとても愛されて育った。そして統計どおり中学時代に熾烈ないじめにあい、心が壊れるような経験をした。地獄のような中学時代を経て高校のときに出会ったのが地下アイドルの世界だった。

「全く地下アイドルという存在は知りませんでした。誘われて小さなライブハウスに行ったら、知らないアイドルの人たちが歌っていて。劇場が少ないから手を振ってくれたり、すごくコミュニケーションしてくれるんですよ。すごくかわいい!! 応援したい!! って思いました。そして私も地下アイドルになって壇上で歌うことになりました

自分の予期せぬ場所に居場所が見つかることも

 16歳で地下アイドルになり、芸歴は8年以上になる。その道はトントン拍子だったわけではない。高圧的な人や下心がある人の仕事を受けて精神的に疲労したり、働きすぎてうつになってしまったこともあった。

 本書はアンケートに基づく統計の話はもちろん充実しているが、姫乃さん自身が経験した体験も、丁寧に描かれている。読むうちに感情移入してしまい、つい目頭が熱くなる。

「中学時代はいじめられて、世界の中に私の居場所がなくなってしまって“ずっとこのままかもしれない”と思い悩んでいました。両親はいつかいなくなってしまう。そのとき、私はうまくやっていけるだろうか? 煩悶(はんもん)していたときに、人に誘われてなんとなく入った地下アイドル業界ですけど、私はそこに自分の居場所を見つけることができました。

 この本は地下アイドルを全く知らない人にも読んでもらいたいです。私も、業界に入るまで地下アイドルについて何も知らなかったですから。どこにも自分の居場所が見つけられなくて鬱屈(うっくつ)した日々を送る人に“自分が全く想定していなかった場所に、自分の居場所が見つかることがある”ということを伝えられたら何よりうれしいなと思っています

 姫乃さんいわくアイドルの定義は『魅力が技能を上回っている人』だそうだ。つまり「歌がすごく上手」「ダンスがとてもうまい」ということではなく、「なんかこの人好き」という存在である。たしかに姫乃さんと話していると、応援したい気持ちになってくるから不思議だ。最近では地下アイドル業だけでなく、司会業や執筆業でも活躍がめざましい姫乃たまさん。どこかで見かけたら、ぜひ応援しましょう!!

取材の後はトークイベントに参加。会場でたくさんのオリジナルグッズを販売する姫乃さん。ファンとのチェキ撮影も行われ盛り上がっていた。撮影/吉岡竜紀

(取材・文/村田らむ)

<取材後記>
 地下アイドルと呼ばれる人たちの実態がわかる本だ。年齢、収入、恋愛など、本来は秘密にしておきたいブラックボックスも赤裸々に描かれている。ただ、作者自身、地下アイドルなので下世話な書き口にはなっていない。読み終わったころにはなんだか地下アイドルを応援したくなっている、そんな一冊だった。

<編集は見た! 著者の素顔>
 “地下アイドル”というものに偏見があった。「性格が暗そう」「病んでそう」「ファンが怖そう」とか思っていたかも。ごめんなさい。お会いした瞬間、偏見すべて吹き飛びました。本当に姫乃さんは可愛らしく美しく、知的で朗らかな方でした。インタビュー取材の後は、今回のインタビュアー・村田らむさん主宰のトークイベントにゲスト参加されていた姫乃さん。テーマの「エロ本」についても造詣が深く、トークも上手。マルチな才能を発揮していました。

<プロフィール>

ひめのたま◎日本の女性アイドル、ライター。自らを地下アイドルと称している。姫乃たま名義以外にも、セルフ・プロデュースユニット「僕とジョルジュ」、DJまほうつかいとのユニット「ひめとまほう」としても活動している。東京都世田谷区出身。自称「下北沢生まれ、エロ本育ち」。