タレント論や女子アナ批評での、真理に迫る“深読み”が人気のライター・仁科友里さんが、男性脚本家のドラマに潜む“オトコの思い込み”をあぶり出します。

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『監獄のお姫さま』に主演する小泉今日子

「おばさん」という言葉は、辞書をひくと、年配の女性を指すこととありますが、性的な価値が低いという意味の暗喩でもあると思います。どんな意味であれ、女性には使わないほうが無難な言葉です。

 しかし、宮藤官九郎脚本のドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系 火曜 夜10時)では、この言葉が頻繁に飛び交います。なぜ宮藤官九郎(以下、クドカン)が、このドラマでおばさんを連呼させるのか。おばさんでなければこのドラマは成立しないのだろうかと思いつつ、本作を見続けたわけですが、クドカンの描くおばさんは、かなり稀有(けう)な存在であることに気付きます。

 このドラマの主人公は馬場カヨ(小泉今日子)です。刑務所で服役中に同房だった足立明美(森下愛子)、勝田千夏(菅野美穂)、大門洋子(坂井真紀)と、センセイと呼ばれる看守の若井ふたば(満島ひかり)を加えた5人で、現在も服役中の江戸川しのぶ(夏帆)を陥れた板橋吾郎(伊勢谷友介)に復讐(ふくしゅう)するというストーリーです。

 本作のおばさんは、怖くありません。

 吾郎におばさん呼ばわりされ、カヨたちがおばさんじゃないと気色ばむことがありますが、迫力は全くありません。「からかってもいいのよ」という妙な隙さえ感じさせます。

 本作のおばさんは面倒見が良く、情が深いです。江戸川しのぶが獄中出産し、同房の受刑者が分担して子どもの面倒を見ますが、みんな子どもを奪い合うようにして子育てをします。

 本作のおばさんは恨みません。

 カヨたち受刑者の周辺にはしょうもない男がいます。彼らのせいで刑務所に入らざるを得なかったわけですから、どうせ復讐するなら、板橋吾郎ではなくそっちにと思いますが、おばさんたちにそんな気は全くないようです。

 本作のおばさんは、欲しがりません。

 女性数人で結託しての犯罪ストーリーといえば、直木賞作家・桐野夏生の『OUT』(講談社)が思い浮かびます。年齢も境遇もさまざまな女性4人が深夜に弁当工場でパートをしていますが、そのうちの一人がDV夫を殺してしまいます。相談した結果、死体をバラバラにして、遺棄することにします。計画の首謀者が最初にしたことは、仲間に報酬を提示することでした。

 しかし、このドラマでは、なぜか何の証拠もメリットもないのに、しのぶに全員が肩入れ。再犯者として刑務所に入るリスクも考えず、復讐を誓っています。

 金だけでなく、おばさんは未来も欲しがりません。勝田千夏は復讐作戦の時間稼ぎとして、前から興味を持っていた吾郎とセックスしますが、継続的な関係は求めませんし、仲間を裏切ることもしません。

 隙があって、愛情深く、怒らない(怒っても怖くない)、恨まない、裏切らない、金という見返りも欲しがらない。クドカンの書くおばさんは、「血のつながりはないけれど、変わらずに自分を許してくれる母親のような人」と言えるのではないでしょうか。男性から見ると、大分都合の良い存在です。

 クドカンは、ある日突然若い女性が、おばさんという“違う生き物”に変異すると思っているのかもしれませんが、女性という同じ生き物です。当然、おばさんにも欲はあります。若い女性とおばさんの違いは、主に男性側の性的な視線ではないでしょうか。

 ちなみに上述した『OUT』では、協力して死体を遺棄したはずが、すぐに不協和音が生じ始めます。DV夫から解放された妻は傍目にもわかるほど浮かれ、リーダー格のメンバーを邪見に扱いだします。あるメンバーは、もっと金をよこせと騒ぎだします。この変化を裏切りというのは簡単ですが、環境によって言動が変わるのは当たり前であり、変わらない女性はいないと私は思っています。

 若い女性は裏切って、おばさんなら裏切らないということはないのです。

 おばさんの深情けが強調される本作ですが、最終回まで残りわずかとなってきました。しのぶの子どもの父親は、本当に吾郎なのか。しのぶは冤罪なのか。今後、明らかにされるであろうドラマの肝をしっかり見届けたいと思います。

(文/仁科友里)

<プロフィール>

仁科友里(にしな・ゆり)

1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。近刊は、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)