沖縄で米軍ヘリによる事故やトラブルが続発している。

 今月6日にうるま市の伊計(いけい)島に、8日には読谷村(よみたんそん)の廃棄物処理場に、在日米軍普天間飛行場所属のヘリがそれぞれ不時着。いずれも民家やリゾートホテルまで数百メートルという至近距離だった。

 昨年12月には、宜野湾(ぎのわん)市の保育園や小学校で、米軍ヘリが関連する落下物事故が相次いだばかり。在沖米軍のトップみずから「クレイジー(狂っている)」と表現する異常事態だが、再三にわたる抗議をよそに、米軍は事故から早々に飛行再開。県民の命は脅かされたままだ。

 全国の0・6%に過ぎない面積に、およそ70%の在日米軍専用施設が集中する「異常事態」が日常化した沖縄。そのしわ寄せは、最も弱い立場に置かれた子どもたちに及んでいる。

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緑ヶ丘保育園の屋根の上で見つかった米軍ヘリからとみられる落下物 ※神谷園長提供

「私たちの上を飛ばないでください。ケガ人がいなかったからよかったさー、ですまされる話ではありません」

 暮れも押し迫る先月18日、外務省沖縄事務所で母親たちはそう訴えかけた。米軍機からとみられる落下物事故のあった、緑ヶ丘保育園(沖縄県宜野湾市)に子どもを通わせる父母会のメンバーだ。

「なんでおそらからおちてくるの?」

 事故の真相究明や飛行禁止を求める署名活動を実施、これまでに県や市と各議会、防衛省沖縄防衛局にも出向き、全国から集められた署名・嘆願書を提出してきた。

 署名用紙には子どもの字で「なんでおそらからおちてくるの?」と書かれ、子どもたちの不安や疑問をそのまま投げかけている。事故後、米軍ヘリの音を聞いて「ドーンだ」と口にした1歳児もいる。与えた衝撃は計り知れない。

 落下物のあった12月7日を振り返り、園の職員で、子どもを預ける保護者でもある宮城絵里子さん(36)は言う。

「屋根の上にドーンって、ものすごい音がした。高いところから落ちてきたような音ですよ。ヘリから落ちてきたとしか考えられない。それを米軍が否定するというのは納得できない。あの(落ちてきた)筒は、誰でも簡単に手に入るものなんですか?」

 事故を起こした米軍ヘリの飛行再開は納得できない。安全性は確認しているのか。普通に、安心して学校に行かせたいだけ……。保護者たちが口にするのは親としてごく自然な思いばかり。しかし沖縄では、それがかなわない。

 親子2代にわたる卒園生の中村ヒューバー和恵さん(51)は、「昔から何も変わらない」と憤る。

「いつ落ちてきてもおかしくない、飛んでいるヘリの腹が見える状況。そのなかで子育てをするつらさ。この問題を沖縄県民にゆだねるんじゃなくて、本土の方々も知って、考えてもらいたいです」

 先月13日には、普天間飛行場に所属する米軍の大型輸送ヘリが同市の普天間第二小学校の校庭へ窓を落下させ、児童1人が軽傷を負った。体育の授業中で運動場には54名の児童がいた。

 重さ7・7キロの窓が落ちた場所は、児童から10メートルしか離れていない。学校側は「運動場や校舎上空を飛ばない」との再発防止策を求めているが、米軍幹部が同校へ謝罪に訪れた翌日の19日、事故機と同型のヘリは飛行を再開している。

 緑ヶ丘保育園からおよそ300メートルという距離にあり、普天間第二小ともフェンスを隔てて隣接する普天間飛行場は、住宅密集地の真ん中に横たわる。「世界でいちばん危ない基地」といわれるゆえんだ。

「どうせ、なくならないんでしょ?」

 宜野湾市内の保育園で働くAさん(30代男性)は4年前、仕事のため那覇市から引っ越して驚いたという。

「急に昼の2時、3時ぐらいに、サイレンのものすごい音が聞こえてきて、寝ていた子どもが起きてしまう。夜でもヘリが飛ぶ音や、基地で整備でもしているのか、パタパタとヘリの音が聞こえてくる。宜野湾に住んで、こんなにうるさいんだと初めて知りました」(Aさん、以下同)

 Aさんの園には、きょうだいを普天間第二小へ通わせる保護者がいる。

転校させたい、でも行くところがない、宜野湾市に住んでいる以上はどこでも一緒じゃないか……。お母さんたちは、とても不安な思いをされています。

 ただ、園には軍属として働いていたり、家族が軍属だったりする保護者もいて、強く反対を言うことは難しい。私自身は事故があると思って生活しているわけではないけれど、実際に起きたら、やっぱりな、とは思います」

 毎月、避難訓練を欠かさず行っているが地震や火災対策のためで、ヘリからの落下物は想定していない。

「もし自分の園に落ちたらと思うと、ゾッとします。大変なことになる。園として責任を果たすといっても、どうしたらいいのか」

「世界一危ない基地」は、さまざまな形で子どもたちに影響している。

左から、そいそいハウス副代表の当山さん、赤嶺代表、森事務局長

 放課後になると、普天間居場所づくりプロジェクト『そいそいハウス』に近くの小学生たちが集まってくる。おやつを食べたり、宿題をやったり。普天間第二小に米軍ヘリの窓が落ちた日も、やはり子どもたちはここを訪れた。

 同小に通う女児は、事務局長の森雅寛さん(41)に、こんな疑問をぶつけてきた。

「どうせ基地ってなくならないんでしょう?」

 日米安保や地位協定といった難しい言葉はわからない。それでも、子どもながらに結局は米軍機が飛び続けるのだと見透かしている。

 ハウス代表の赤嶺和伸さん(63)は言う。

「飛行を止めることのできない大人に対する痛烈な批判です。不安がる子どもに大丈夫となだめても根拠がない。米軍機は飛んでいて、実際に事故も起きているのだから。大人は子どもたちに行動する姿を見せなければ」

 森さんは、子どもたちの冷静さに驚いたと話す。

「事故当日は動揺していた子どもたちが翌日から、いつもと変わらず何事もなかったようにしてやってくる。これは、沖縄では米軍機が飛び交うのは日常茶飯事で、鈍感にならざるをえないということ。どうせ私たちが我慢しないといけないんでしょう、と。慣らされている状況が怖いです

家族の思いがつづられた署名は全国から集まり、先月21日で2万筆を超えた。引き続き今月31日まで募集中

沖縄を知らない人からの中傷

 子どもたちの周辺で事故が相次ぎ、副代表の当山なつみさん(32)は、見上げれば米軍機がある「普通の環境」に疑問を抱くようになった。

「子どものときから米軍機が頭上にあって、落ちてこないだろうと思って暮らしてきたけれど最近、実は落ちてくるほうが当たり前なんじゃないかと思い始めていて。

 危ないからどうにかしてほしい、安全な場所で安心して生活したいと声をあげたところで、気に入らないなら出て行けと叩く人がいる。ただのわがままみたいに言われたりする」

 と当山さん。落下物のあった保育園や小学校も、こうした中傷にさらされている。インターネットで同校を検索すれば「やらせ」「住むのが悪い」といったSNSの投稿、動画がいくつも見つかる。

「そういうネットの声を、子どもたちは確実に目にしているはずです」(森さん)

 緑ヶ丘保育園へ中傷が殺到するようになったのは、落下物に対し、米軍が大型輸送ヘリの部品であると認めたものの「飛行中に落下した可能性は低い」と否定的な見解を示してからだ。

 神谷武宏園長によれば、メールでは1日にあるかないかの量に減ったが、「自作自演」などと罵倒する電話は今も続いているという。

「事実確認せず、現場も見ないで、沖縄の状況も知らないで言っているとしか思えない。かけてくるのは、ほぼ男性。ほとんどが“本土”からです」

 と神谷園長。相次ぐ中傷には、国や政府による沖縄軽視の姿勢が反映されているのではないかと指摘する。

「国は、市民の言うことは聞かず、アメリカの言うことを鵜呑みにして(事故を起こした輸送ヘリ)CH53Eの運用を容認しています。北朝鮮の問題で緊迫しているのかもしれないけど、私たちにとっては、米軍の落下物やヘリが落ちてくる恐怖のほうが数倍も大きい。沖縄の人たちの命を軽視してまで飛ばす理由がどこにあるのか

 普天間飛行場がある場所は、かつて村役場や学校が並ぶ生活の場だった。米占領下で強制的に土地を奪われ、しかたなく基地の周囲に住み始めたのだ。

 歴史をみれば「住むのが悪い」は的外れだとわかる。「なぜ沖縄に基地が集中し、今、日本が平和なのか。弊害はどこで起きているのか。本土の人たちは知るべきです」

墜落事故経験者の話

 沖縄では、米軍による事故・事件が歴史的に繰り返されてきた。アメリカによる統治下だった1959年には、小学校へ米軍のジェット機が墜落、児童11名を含む17名の犠牲者を出した。

「オスプレイが一昨年に墜落したり、去年も不時着・炎上する事故を起こしたりして、そして今回の落下事故。いつまた宮森小と同じような事故が起きても不思議じゃない」

米軍戦闘機が墜落、児童ら17人の死亡事故があった宮森小学校

 そう話すのはNPO法人『石川・宮森630会』の伊波洋正さん(65)。石川市(現・うるま市)で起きた宮森小学校米軍機墜落事故の体験者だ。当時1年生だった伊波さんは事故から58年がたつ今も記憶が頭から離れないという。

「ミルク給食を飲み終えた朝10時40分ごろ、西側からドン! と、大地に大きなものがぶつかるような音がした。すると、西側にいた子どもたちが悲鳴をあげ飛び出してきたんです」(伊波さん、以下同)

 担任から、学校に飛行機が落ちたと告げられた伊波さんは下校中、手押し車を押す女性を目にする。荷台に乗っていた男の子は全身が火であぶられたような色に変わり、目も開けられなかった。

 事故原因について、米軍はエンジンのトラブルと説明してきたが'99 年、整備不良だったことが地元メディアの報道で明らかに。

「さらに事故の前年、クラスAの大事故を168件も起こしていたことがわかった。事故後、米軍からの謝罪は1度もありません。事故があるたびに米軍は原因究明や安全管理の徹底、綱紀粛正を強調しますが、言うだけで何も効果がない」

 米軍が起こす事故について「あってはならないこと」と政府は言う。では、なぜ沖縄で繰り返されるのか。

「他人事と考えているようにしか思えません」

 ひとたび事故が起きたとき、真相究明の壁になるのが『日米地位協定』だ。軍事ジャーナリストの前田哲男さんが解説する。

「例えば、パイロットのミスで事故が起きて死傷者が出た場合でも、米軍が公務中であると言えば、日本側は捜査権も裁判権も持てない。それが日米地位協定の基本的な原則なんです」

 普天間第二小への窓落下について、米軍はパイロットの操作ミスが原因で、機体には問題がないとしている。日本がほかの機体はどうなのか調べようとしても、捜査できないというわけだ。

「ドイツやイタリアでは、事故に直結しやすい訓練を国内では行わないよう地位協定を米側にあらためさせています。日本もそうできないのは、政府がアメリカに要求しないからです」

 そもそも米軍機が学校の上を飛ばないよう日米で「合意」している。

「日本側の説明では、普天間飛行場の周辺にある学校の空域は飛ばない条件つきで米軍機の飛行を認めているという。しかし沖縄防衛局が測定したら、実際は学校の上空を飛んでいる。

 政府が本当に学校上空を飛行しないことを条件に合意したのであれば、明確な違反。住民の命と暮らしを守ることが政府の最大の役割です。子どもたちが日々、危険にさらされていることを放置したまま抑止力だ、日米安保だと言っても、まったく説得力がありません