いよいよスタートした、2018年NHK大河ドラマ『西郷どん』。新しい日本を夢見た、ひとりの男の人間味あふれる姿がここにある。なぜ“西郷さん”ではなく“西郷どん”なのかーー。見どころを一挙紹介! 

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誰もが知ってる西郷どんの見たことのない物語

幕末の世に降り立った、失敗だらけの英雄の姿に刮目!

「倒幕、尊王攘夷(じょうい)、明治維新。歴史の大きな分岐点に名を残す偉人ですが、決して完璧な人間ではない。いろいろな壁にぶち当たり、失敗を重ねます。ともすれば失敗が許されない現代の空気の中で、息苦しい思いを感じているみなさんに、“壁”を乗り越えていく男の物語を見ていただきたい」

 制作統括の櫻井賢チーフプロデューサーは、西郷という人物についてこう語る。薩摩藩の下級武士の身分から、藩主・島津斉彬に抜擢(ばってき)され江戸に出立。しかし藩のお家騒動に巻き込まれるなど、2度の島流しを経験。人生の“暗”を“明”に転換しつつ、まさに波瀾万丈(はらんばんじょう)な人生を送った男。

「自分のことより、民のことを第一に考え、周囲から親しみを込められて“西郷どん”と呼ばれた男の生き方を描きます」(櫻井CP)

 数々の映画やドラマで描かれてきた西郷隆盛。だが、今までの“西郷像”を、ある意味、壊そうと挑むのが直木賞作家で原作者の林真理子と、『ハケンの品格』『Doctor-X 外科医・大門未知子』などの人気ドラマを世に出してきた脚本の中園ミホ。女性コンビが思い描く『西郷どん』とは?

「林さんの骨太な原作があるので、私はそこから思い切りジャンプしてエンターテイメントにしようと。林さんとは西郷についていろいろ話し合いまして“こんな男だったんじゃないか”“こんな女の人が好きだったんじゃないか”とか。こういうのを女目線というならそうかもしれませんが、しっかりとした人間ドラマにしたいと思っています」

 中園は林とともに時代考証の先生たちとの勉強会に参加し、打ち合わせを重ねていく中で西郷という人物の持つ奥深さに惹かれていったという。

「調べるほど謎に満ちていて、本当にスケールの大きい人物。『翔ぶが如く』の作者・司馬遼太郎さんも“西郷はわからない”と書かれてますけど、そんな彼を中心に林さんの原作は、いろいろな愛にあふれています。家族愛、男女の愛、島津斉彬との師弟愛、そして“ボーイズラブ”も(笑)」

恋い焦がれるほどの、男と男の“恋愛”とは

 幕末の薩摩では、女に惚れるなら男に惚れろ、という気風があったという。櫻井CPは、

「この時代は男と女が手をつないで歩くような時代ではないわけです。自分の尊敬する人に対して、恋愛感情に近いものがあったのではないだろうかと。ドラマの中でもそういった形で触れていこうと思っています」

 原作では、斉彬との師弟愛も憧れを通り越し、西郷が恋い焦がれるといえるほどの熱量で描かれている。斉彬のためなら命をも投げ出す、そんな一途な主人公を演じるのは鈴木亮平。

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「大変な抜擢をしていただいたという自覚があります。喜びよりも責任感のほうが大きく、身が引き締まります。しかし、俳優としてはこれ以上ない機会をいただいたので、楽しみな気持ちも大きいです」

 鈴木は2014年、朝ドラ『花子とアン』で中園との“タッグ”を経験ずみ。中園はクランクイン前、鈴木に“鍛えておいて”とリクエストをしていたという。もしかして自慢の筋肉美を楽しむことができる?

「脱がすということではなく、アクションシーンがあるからという意味だったんですけど(笑)。現場を拝見したら、想像以上に身体をつくられてたくましくなられて……。そういう野性的な部分は、最初にイメージしていた西郷さんよりも強くなっているかもしれません」(中園)

 野山を駆け、村の仲間たちと相撲をとるシーンもあるので、そこで見せる鈴木の肉体美は、要注目! そんな主役の脇を固める俳優からも目が離せない。幼なじみで親友として、ともに国のためにと働き、最後は袂(たもと)を分かつ大久保正助(利通)を瑛太。西郷に人としての生き方を教える藩主・島津斉彬を渡辺謙など、ベテランから若手まで人気俳優が顔をそろえている。

 特に瑛太は、鈴木が“できることなら大久保をやってほしい”とひそかに願っていたキャストだという。この思いは誰にも言ってなかったというが、キャスティングをしたスタッフとも同じ思いを共有していたということ。不思議な偶然に、

「巡りあわせのようなものを感じます。瑛太くんは、僕の持っていない感性をたくさん持っている方だという印象があるので、その違いをうまく生かしつつ、西郷と大久保が仲よくなり対立していく様子が演じられるのでは、と今から楽しみです」

 大河初出演の鈴木に対し、瑛太は『篤姫』以来10年ぶり2回目の出演。前回は島津藩の家老・小松帯刀を演じ、大久保を配下に従えていた。鈴木からの“ラブコール”にテレながらも、

「僕は『篤姫』のときに経験していますが、1年2か月の撮影は大変なことがたくさんありました。でも、今思い返せば本当にいい思い出ばかり。自分が俳優として、ものすごくステップアップできたという記憶があります」

女たちとの出会いが西郷の人生を変えていく

 男だけではなく、女にもめっぽうモテたという西郷。支えていく女性たちにも注目したい。

「奄美の島に流されたときに出会う二階堂ふみさんが演じる愛加那。黒木華さん演じる、3番目の奥さんになる糸。そして篤姫役の北川景子さん。みなさん、本当に魅力的な女性を演じていただいています」(櫻井CP)

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 奄美で出会う愛加那は、西郷の人生を変えるほどの恋愛相手ということで、ドラマの大きな見どころになる。物語は序盤の立志青春編、奄美に流され人としての生き方に目覚める“島編”。倒幕へと突き進む革命編、そして1度、薩摩に隠居してからクライマックスとなる西南の役編という、大まかに4つの章立てで、全47回となっている(さらに歴史的背景を解説した特別番組を3回放送)。

「前半の西郷は弱くて脆(もろ)い人間です。でも、正義感や弱い者の目線に立つというところはブレていません。西郷の成長を、1年を通して、ぜひ見守っていただきたい」(鈴木)

語りは西郷役の“大先輩”、西田敏行

「以前、西田敏行さんが演じられていた西郷隆盛に強烈な印象があるんですけど、そんな西田さんが語りを担当されると聞いてうれしかったです」

 と鈴木亮平は西田について話す。’90年に放送された大河ドラマ『翔ぶが如く』。西郷隆盛を西田、大久保利通を鹿賀丈史が演じた作品。鹿賀は今回、島津斉興役で『西郷どん』に出演。28年ぶりの“共演”となった。

「歴代の西郷さんをひととおり見ましたが、みなさんが持つ“西郷像”を西田さんは全部やられていたと思います」

西田敏行

 西田は当時、肖像画でよく見られる西郷に近づこうとメイクや表情はもちろん、体重も増やし撮影に臨んだという。

「西田さんを見て、撮影前にプレッシャーを感じたのは正直なところあります。でも僕はそれ以上を目指そう、と考えるくらいがちょうどいいのかなと」

 制作側の櫻井CPも、『翔ぶが如く』の存在は大きかったようで、

「あそこで描かれている西郷と大久保の友情は本当に魅力的です。当時の空気感の中で撮影されているもので、手を出してはいけない企画に手を出してしまったかとも思いましたけど(笑)」

 そんなプレッシャーも、できあがった作品を見たときに消えたと鈴木は語る。

「目標でもライバルでもある西田さんですが、実際に声を聞かせていただくと、西郷さんの声ではなく、西田さんご自身が吉之助を温かく見守ってくださる感覚を覚えて、本当に感動しました」