三村申吾青森県知事も踊りながらスーパーで減塩『だし活』を啓発

 5年ごとに厚生労働省が発表する都道府県別平均寿命。先月に発表された2015年の最下位は男女とも青森県が独占した。

減塩のための『だし活』

 男性に至っては、1965年から最下位がほぼ定位置。“短命県”という汚名がべったり貼りついているが、青森県がん・生活習慣病対策課は、

「もっと頑張ってという声やこうしてみたらどうかというご意見はいただいております」

 と県民からの声を明かし、

「なかなか最下位から脱出できないという歯がゆい思いもありますが、男性の平均寿命の延び幅は全国3位。他県さんとの差も確実に狭まっており、明るい兆しは見えてきたかなという感じです」

 と前向きにとらえる。マイナス思考は健康に不必要だ。

 厚労省発表の速報値によれば、'16年度の医療費は14年ぶりに減少したものの、41・3兆円。約58兆円の1年間の税収の約7割近くが医療費に消える。'25年には60兆円を超すとみられ、額を減らすには国民ひとりひとりが、病院や薬に頼らなくてもすむ生活を送ることが求められる。

 健康への“伸びしろ”が大きい青森県。塩っ辛いものを好む県民の塩分の摂取量低減のため'14年から『だし活』を推進し、商品『できるだし』を発売している。

「だしをしっかり出すことで少ない塩分でも塩味を感じやすくなります。昨年12月末時点で、20万個を出荷しました」と同県農林水産部担当者。食育の一環として学校給食にも使用しているという。

「3歳児健診時に、母親に向けレシピ本を配布し普及啓発を行っています。認知は広がっていると思います。知事も先頭に立って啓発活動に努めていますから」(同・担当者)

 ほかにも、喫煙率の低下を狙い今年度から導入したのは『健康経営認定制度』だ。

「健康経営事業所に認定されると、公共事業などの入札時の加点や、県内の金融機関から低金利で融資を受けることができます」(前出のがん・生活習慣病対策課)

 この認定を受けるためには厳しい禁煙対策をしなければならないが、昨年12月21日時点で56社が認証を受けた。県が企業を動かし、ケアの届きにくい働き盛り世代の健康サポートを実現した形だ。

 追い上げる青森に、他県ものんびりしてはいられない。

歩かない県民を歩かせる秘策

 お隣の岩手県は、毎月28日を『減塩・適塩の日』と定めている。過去、脳卒中による死亡率が全国1位だったこともあり、高血圧対策としての減塩運動を課題に掲げた。

 同県健康国保課の健康予防担当者は、

「スーパーなどで減塩料理の試食で啓発したり、地元しょうゆメーカーさんと連携し25%塩分カットの減塩しょうゆも販売しています」

 と胸を張る。'14年度から'16年度にかけては、ボランティアが各家庭を訪問しお味噌汁の塩分濃度を測定する『突撃!隣のお味噌汁』を実施していたことも功を奏し、

「'14年に11・8グラムだった県民1人あたりの塩分摂取量が、'16年に10・0グラムと1・8グラムも減少しました。今後は、尿で塩分を測る機器を各家庭に設置してもらい、啓発を進めていきます」(同・担当者)

 前回調査から男性の平均寿命が7位もランクダウンした和歌山県は、歩かない県民をどう歩かせるかに頭をひねる。歩くことを記録するスマホ用のアプリを現在開発中で、2月上旬には完成予定だ。歩数上位者は県専用ホームページに掲載される。

 歩きたくなる街づくりを狙っているのは、新潟県見附市。自然と街を歩きたくなる仕掛けをちりばめているという。

「市民交流センターはさまざまなイベントを企画し、市民交流の場としてご使用いただいています。当市は人口4万人強ですが、交流センターの年間利用者は50万人を超えています」と同市企画調整課。

 ほかにも、花を見ながら散歩できるイングリッシュガーデンを開園したり、市内循環バスの料金を安くして利用を促しマイカー移動より歩く機会を増やそうとしたり、街中の商店街に銭湯を作り徒歩での集客を目論んでいる。

「明確に市民の歩数が増えたとするデータはありません。ただ、1人あたりの後期高齢者医療費が、'10年度で約74万円だったものが'14年度には約72万円に減りました。今後は、30代以下の若者にも、運動習慣の啓発を行っていきます」(同・担当者)

睡眠の質と呼吸を知る

 睡眠に着目したのは、神奈川県川崎市だ。同市次世代産業推進室は、睡眠の“見える化”に取り組んでいる。パラマウントベッドが開発した『眠りSCAN』を使い、睡眠時の状態を計測するのが狙い。

川崎市で実験的に貸し出された『眠りSCAN』

「シート型のセンサーで、布団やマットレスの下に敷くと、微弱な振動から睡眠状態や呼吸数などを知ることができます」と同室担当者。昨年10月にセミナーを開き、市民や薬剤師など159人に無償で貸し出し実証実験を行った。

「利用者の満足度は非常に高く、生活習慣の問題がわかったり介護の問題点が判明した人もいます」と担当者。

 4月からは薬局などで、有償で貸し出す予定だという。地方自治体の健康向上の取り組みはさまざまだが結局、参加するのは住民次第。「個人の意識の改善が重要」というのが、担当者の一致した見方。

 弘前大学大学院医学研究科の中路重之特任教授は、個人の意識改善に取り組んだ長野県の勝因をあげ「長野県が長寿県となったのには、健康の人材育成を行ってきたことが大きい」と指摘。健康に関する知識を持つ人が徐々に増え長寿県に変貌できたという。

「健康づくりは長い期間をかけてやっていくものです。地域住民、産業、学校、行政が一体となって推し進めていく。子ども時代からしっかりと教育することも大事です。国が国民の健康の面倒をみない時代は来ます。自分の健康は自分で管理する。手遅れになってからでは遅いのです」

 と中路特任教授は、強い口調で訴え続ける。

「日本は、世界的に見て長寿国です。その中で最下位の青森県が長寿県になれば世界が注目します。時間はかかるでしょうが、人類の健康づくりの未来が青森県にかかっていると私は思っています」

 20××年、青森県が長寿県に変貌すれば青森県は世界のモデルケースになる。