浜松と宇都宮、ギョーザ日本一の街はどっち!?

 餃子の街として知られる、静岡県浜松市と栃木県宇都宮市。この2都市が毎年、餃子の消費量を巡り火花を散らしているのは有名だ。この「餃子戦争」は2007年、「浜松餃子学会」が記者会見を開いたことに始まる。浜松市とおこなった独自調査を根拠に、「餃子消費量日本一宣言」をしたのだ。

 さらに、2007年に浜松市が政令指定都市になったことで、2008年からは総務省の統計の調査対象(都道府県庁所在市及び政令指定都市、全国約9000世帯対象)に入り、「家計調査」によって両都市の餃子消費量がデータで比較できるようになった。以来、統計の発表日は毎年、両市が一喜一憂する姿がマスメディアをにぎわせている。

 マーケティング業界でよく出る例え話だが、日本で一番高い山が富士山だと知らない者はいないが、日本で2番目に高い山がどの山か知る人は少ないように(正解は山梨県の北岳)、「一番人気」とその他では認知度に大きな差が生じる。よってどちらが1位になるかは両市にとって死活問題なのだ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

両市の餃子文化の歴史

「餃子消費量日本一宣言」をした浜松餃子学会とは、浜松市内の餃子販売店の情報を取りまとめた「浜松餃子マップ」を発行、「浜松餃子まつり」を2007年から開催している、街づくり・街おこしの民間団体だ。

 一方の宇都宮にも、1993年に発足した宇都宮餃子会がある。同会は「宇都宮餃子マップ」を発行、「宇都宮餃子祭り」を1999年から開催している、日本で唯一の“餃子”協同組合だ。ちなみにJR宇都宮駅前広場には、特産の大谷石で製作された餃子像がある。

 筆者は両都市とも出張で何度も訪れたことがあり、餃子を楽しんで食してきた。

 浜松餃子は、円形に餃子が並べられ、中央にもやしが盛られているのが特徴とされる。ただし、現在の浜松では、そういう姿で提供しているお店は少ない。中央にもやしが盛られていたのは、昭和30年代に屋台で提供されていた当時のスタイルだ。フライパンに丸く並べて焼き、茹でたもやしを添えたことが始まりだ。

 このもやしには、餃子を食べたあとの油っぽさを解消する効果があった。

 浜松餃子には、キャベツと玉ねぎを中心とした野菜の甘味がふんだんに感じられ、肉も多めに入っている。

 最近では、浜松駅近くにも店舗が増えたが、多くは住宅地にお店がある。

 そのため、出張時に前泊か延泊して、地元の遠州鉄道とバスの一日フリー乗車券を買い、何度かに分けて餃子巡りをしないと回り切れなかった。

 一方の宇都宮餃子は、白菜などの野菜がたっぷりでさっぱりしているのが特徴だ。太平洋戦争以前の宇都宮には軍事拠点があり、終戦後に中国から宇都宮に帰還した兵士たちが本場の餃子の味を再現しようと白菜を用いて作り始めたのが起源とされる。

 餃子のお店は駅前とクルマがないと移動できない沿道にあるので、自動車でお店めぐりすることになる。宇都宮の食べログ1位の「正嗣 宮島本店」と2位「宇都宮みんみん 本店」のお店が双璧であり、筆者は宇都宮で初めて会う方には「餃子はどちら派ですか」と聞くことにしている。

 両店は目と鼻の先に位置しており、徒歩1分程度で行き来できる。そのため、「はしご餃子」という楽しみ方も可能だ。どちらの餃子にも豚挽き肉に加え白菜やキャベツが餡に使われているが、これは白菜やキャベツの産地であることが影響している。

過去10年間の戦績を振り返る

 2018年1月末に最新の「家計調査」が発表され、2017年は宇都宮市が4年ぶりに日本一を奪還した。過去10年間の戦績を振り返ると、結果は以下のようになった。

 

 何と、ちょうど5勝5敗の五分五分だった。

 ただし、この調査から「餃子日本一の街」を決めるにはいくつか課題が残る。まず、調査対象が2人以上の世帯であるために、単身の記録が反映されていない。そして、調査対象となる「ぎょうざ」は、スーパーなどで購入した餃子(生、調理済み)もしくはテイクアウトのみの餃子専門店で購入された餃子だけなのだ(この点、浜松はテイクアウト店も多いため、有利だと思われる)。

 冷凍食品の餃子は、「冷凍調理食品」という他の項目に入るほか、餃子の皮を購入し家で作った場合も除外され、何より外食で餃子を食べた分も含まれないのだ。というのも、餃子の外食は、「中華食」にカウントされるからだ。よって、中華料理屋や餃子専門店での店内で消費された餃子は統計に含まれない。

 さらには、無作為抽出した世帯に、毎月の購入額を尋ねる方式のため、市外からの来訪者、観光客の消費金額はまったく入らない。つまり、地元の方が餃子を購入して、家で食べた量だけの統計なのだ。

真の「餃子日本一の街」は?

 そこで今回、浜松と宇都宮の両都市の餃子店を、食べログ点数で分析することによって、どちらが真の「餃子日本一の街」なのかはっきりさせようと思う。

 

 食べログ点数での比較結果は、浜松市にある餃子店の平均が3.16点、宇都宮市が同3.19点だった。0.03点差で、宇都宮市が上位となった。その点差は僅差であり、明確に甲乙つけがたい。

 今後とも、いわゆる餃子戦争は続くことと思われるが、今回の調査では浜松と宇都宮、どちらの街でもその地に根付く美味しい餃子には、あまり差がなく楽しめることを裏付けた形になった。


新山 勝利(にいやま しょうり)◎研修講師、マーケティングコンサルタント 専門領域は店頭マーケティング、購買心理プロセス、顧客満足度。飲食店のコンサルティングでは、点数を分析したデータ主義で売上向上を図り「食べログ」の評価3.50点達成を推進する。顧客満足を高める販売促進、店舗の活性化や売場づくりのためのノウハウを提供。メーカーや全国の商工会議所などの団体、広告代理店、卸売、量販、チェーン店などが主要顧客。他業界の成功事例を用いて、写真や図表を活用した説明を行う。世界30カ国、150都市を歴訪。中でもフランス・パリには30回訪問。諸外国の先進的な産業事例にも造詣が深い。多数の専門誌に執筆するほか、各種マーケティング学会で論文発表。著書に『売れる商品陳列マニュアル』(日本能率協会マネジメントセンター)など。公式サイトはこちら