はなわ 撮影/伊藤和幸

 ベースを弾きながらの漫談や自作曲などのネタで人気の芸人はなわさんが、このたび私小説『お義父さん』を上梓(じょうし)。小説初挑戦というはなわさんが執筆するきっかけとなったのは、奥様の父親のことを歌った曲『お義父さん』のヒットでした。

これはもう自分たちだけの歌じゃない

もともと嫁の誕生会で歌うために作った曲なんですけど、それをライブでやったら“いい曲だね”と言われたんです。それで動画をユーチューブにのせたら、20日間で100万回も再生されたんですよ。そのときに“お義父さんをテーマにして、小説を書きませんか”とお話をいただいたんです。でも僕は小説を書いたことがないし、厳しいかなと思って、1回考えさせてくださいと言って、返事をしないままになってたんです」

 その後『お義父さん』はCD化されて話題となり、曲を聴いた方から手紙が届いたり、ブログにコメントが書き込まれるなど大きな反響があったことから、返事をしないままにしていた小説執筆について真剣に考え直したのだそうです。

これはもう自分たちだけの歌じゃないね、と嫁と話していたら、せっかく小説を書くチャンスをいただいたんだから、やってみたらと言われ、書いてみようと

 本書は埼玉県春日部市で生まれ、その後、千葉県我孫子市に移り住んだはなわさんが、小学6年生で佐賀県佐賀市鍋島町へと引っ越すところから始まります。やがて中学生になったはなわさんは、同じ中学の先輩にひと目惚れ。それが現在の奥様で、運命の出会いとなるのです!

 その奥様、実は生まれてすぐにお父様が家を出ていってしまい、母と姉の3人暮らし。もちろん、はなわさんも会ったことがなかったそうで、「こんな素敵な女性をお嫁さんにくれて、お義父さんありがとう」という気持ちを伝えたい、と作った曲が『お義父さん』です。はなわさんは結婚15周年&奥様の誕生日プレゼントにしようと作曲を始めますが、作業は難航します。

「嫁の誕生日に間に合わせたいと思っていたんですけど、なかなかできなくて。普通こうなると諦(あきら)めることが多いんですけど、どうしてもこの曲は書きたい、と」

 そこで相談したのが、はなわさんが懇意にしているJUN SKY WALKER(S)の寺岡呼人さんでした。

呼人さんは忙しいので、そんなすぐに会える人じゃないんですよ。だから今日電話してダメだったら諦めよう、と思ってかけてみたら、スタジオにいるからおいでよ、って。それで“お義父さんの歌を作りたいんだけど、テレ臭くって進まない”と相談したら、“お義父さんに出す手紙みたいな歌詞にしたら、テレ臭くないんじゃない?”とアドバイスしてくれたんです」

これまでになかった新しい僕のスタイル

 そのアドバイスのおかげで、すぐに曲は完成。無事に誕生会で曲が披露されたのですが、奥様はそれを聴いて号泣してしまいます。その理由とは……?

 小学生だったはなわさんが成長して芸人となり、結婚してやがて3人の子どもの父親となる人生が描かれる『お義父さん』は、弟であるナイツの塙宣之さんとのエピソードなど笑いがたっぷり詰まった自伝です。そんなはなわさんの人生の先にあったのがお義父さんとの出会いでした。

この曲を歌ったら嫁が泣いて……実は誕生日の1週間くらい前に、お義父さんが末期がんで嫁に会いたいと言ってる、と親戚から連絡があったのを断ったそうなんです。僕は全然知らなかったんで、それなら家族全員で会いに行こう、と。それからお義父さんは子どもの柔道大会を見に来てくれたりしたんですよ。だからもし、この歌がなかったら息子たちは嫁のこれまでの人生を知らなかったし、おじいちゃんに会うこともなかった。曲を作った時はこんなことになるとか、会えるとも思ってなかったし、がんだってことも知らなかった。だから、なんか本当に不思議な力を感じますよね。

 だいたい僕はこんなまじめな歌を歌うキャラじゃないんです(笑)。だから、お義父さんには感謝してますね。新しい僕の歌のスタイルを作ってくれた、引き出しを増やしてくれたんで

『お義父さん』はなわ=著(KADOKAWA/税込み1350円) ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

 残念なことに、お義父様は昨年10月に他界。しかしもし、あのタイミングで曲を作っていなかったら、絶対に会えなかった……はなわさんは「どうしてこの曲をこのタイミングで書かなきゃいけないと思ったのか、今考えると不思議な気持ちになる」と言います。

「ユーチューブにアップする前に、お義父さんのことを歌っているので、許可をいただこうと曲を聴いてもらったら“いい歌だねぇ。CDになるといいね”って言ってくれて。この曲はお義父さんや、いろんな偶然が重なってできたものなんです。

 そしてこの小説を書いているときはいろんなことを思い出しましたね。それでまた改めて嫁さんのことを好きになったり(笑)。大人になると自分の周りにいる人たちのことって、改めて考えないじゃないですか。だから小説を書くのはいい経験でした。周りの人たちあっての自分なんだな、って。僕みたいなヤツの人生でもこんなにいろんなことがあるんだ、と思うはずなので、ご自分の人生を考えながら読んでいただけたらいいなと思います!」

■ライターは見た! 著者の素顔
 高校生、中学生、小学生の3兄弟の父であるはなわさん。3人とも柔道をやっていて、育ち盛りのため、朝から1升も炊くそう! 「朝食で4合、お弁当用が6合くらいですね。練習があるからお腹がすくのと、100キロ超級なのでやせないための“食いトレ”でもあるんですよ。それで食費がひと月20万円くらいになって、ヤバイどうしよう、と思ったんですけど、心配してくれた農家の方から米や野菜をいただいたりしてなんとかやってます。相撲部屋みたいなもんです(笑)」

<プロフィール>
はなわ◎1976年、埼玉県生まれ。佐賀県育ち。バラエティー番組で披露した松井秀喜選手のモノマネで人気となり、'03年にCD『佐賀県』をリリースしブレイク。ガッツ石松にまつわる伝説を歌にした『伝説の男~ビバ・ガッツ~』など、数々の楽曲やネタで人気に。漫才コンビ「ナイツ」の塙宣之は実弟。

(取材・文/成田全)