全焼した住宅を調べる千葉県警。周囲の住宅への延焼はなかった

「よし子の遺体とは21日に葬儀会社で対面しました。真っ黒焦げで頭に包帯が巻かれていて、熱かったね、苦しかったねって声をかけてね……」

頻繁に出入りする若い男女

 そう声を絞り出すのは、20歳の男女3人と16歳の少女に焼き殺された無職・海老原よし子さんのいとこの女性(59)だ。沈痛な面持ちで、

「最初に聞いたときは、なんでなんで……って感じで。まさかこんな死に方をするとは思いもしませんでした」

 2月17日夕、千葉県印西市で木造プレハブ平屋建てが全焼する火事が発生した。

「午後4時半くらいだったかなぁ。トイレに行った妻が、“隣が燃えている”って叫んだので、すぐに119番通報をしたんです」

姪の運動会を見に行った30歳ごろのよし子さん

 と隣家の70代の男性住人。反射的に考えたことは、

「お姉ちゃん(よし子さん)、逃げたかなって……」

 焼け跡から、身元不明の焼死体が発見された。DNA鑑定の結果、よし子さんであることが判明した。

 数週間前から近所の住民は、よし子さんの家に頻繁に出入りする、場違いな雰囲気の若い男女の姿を目撃していた。

「2月10日には、逮捕された20歳の女の子が窓から家に入るのを見ました」

 そう証言するのは60代の女性。70代男性は、

「シルバーの軽自動車が止まっていましたね。誰の車なんだろうと思いましたけど」

 畑や民家が広がり、商店もないのどかな一帯に突如、現れた若い男女の姿。よし子さんとの接点は?

 取材の過程で両者を結びつけた人物が浮かび上がってきたが、その人物に言及する前に生前のよし子さんの暮らしぶり、人となりを─。

「燃えたあの家は、以前はよし子のおじが住んでいたんです。15年ほど前におじが亡くなり、よし子さんが母親と2人で越して来たんですよ。父親は元からいなくてねぇ、母親が約6年前に他界してからは、ひとり暮らしでした。2年半前に自転車で転倒して骨折してから足を悪くしてね。心配なので、1~2か月に1度は見に行っていました」

 と地域の民生委員の男性。

生活保護を受給していた

 2人の暮らしは、母親によって支えられていた。

「若い時分は地元の旅館で働き生計を立てていて、亡くなる直前は畑で野菜を作ったり、仕事を手伝いに行ったりして、やりくりしてました。よし子さんの働き口を何とかしていたのもお母さんでした。

 よし子さんには少し常識が足らないというか、ピントはずれなところがありましたが、お母さんがちゃんと導いていたんですよ」

 そう振り返る近所の主婦は母親が“よし子にはもっと節約させなくちゃ”と話していたのを記憶している。そして、

「お母さんが亡くなってからですよ、よし子さんの生活がガラッと変わったのは」

 と付け加える。

 心配した近隣住民が手続きを手伝い、2年ほど前からよし子さんは生活保護を受給していた。近所の人は、きちんとした暮らしを期待したのだが……。

「以前は近くにコンビニがあって、よし子さんがよくジュースやタバコを買うのを見ました。お金が入ったら使っちゃうから、ちゃんと管理しなきゃだめだと話したこともありました」(同・民生委員)

よし子さんの写真を見つめながら思いを語るいとこの女性

 前出のいとこの女性も、

「私や私の親からも金を借りて返さなくて……。母から“よし子とは縁を切ってもいい”と言われたんですが、最後の引き取りは私がするからと、縁をつないでいたんです」

 と振り返る。ケガで働けずお金がなくなるとよし子さんは地域の絆に甘えた。

「“お金を貸してほしい”とうちに来て言うんです。断ろうとしたら主人が、かわいそうだからと言うので、あげるつもりで5000円を渡しました。結局、返してもらっていませんが……」(70代女性)

 前出・民生委員は、

「たけのこの時期になると“いつもお世話になっているから1000円で持っていっていいよ”と電話があってね。しょうがないと思いながら掘りに行って、2000円を置いてきました。同じ地区に住んでいる人間ですから、何かあったら力になってあげたい。地域の人はみな、よし子のことを心配していたと思いますよ」

断れなかった頼みごと

 地域に育まれて暮らしていたよし子さんのもとに、いつの間にか出入りするようになった若い男女。人の気配を不思議に思った食料品店の店主が「誰なのか?」と確認すると、

「知り合いの子がね、とぶっきらぼうに話していました」

 よし子さんは中学卒業後に製糸工場で働き、発泡スチロール製造会社、ビルの清掃や警備会社など転々としていたが、働き先のひとつに鉄くず回収業者があった。

「鉄くず回収業を営む男性がいて、よし子さんも手伝うことがあった。足が悪くなったよし子さんを車に乗せて買い物に連れて行くなど面倒をみていたようですが、若い男女のことを、“行く場所がないから数日、置いてやってくれ”と、よし子さんに頼んだそうです。よし子さんも助けてもらっているため、断れなかったようです」(全国紙記者)

 放火の翌18日、静岡県富士市の『道の駅』で、その男女4人は身柄を確保された。

 19日に現住建造物等放火と殺人の疑いで逮捕されたのはいずれも職業不詳で住所不定・菅野弥久容疑者(20)、自称・東京都墨田区在住の仲内隼矢容疑者(20)、自称・千葉県印西市在住の金崎大雅容疑者(20)、自称・東京都在住の少女(16)の4人。

 菅野容疑者が、鉄くず回収業者の知り合いだったという。

「菅野容疑者は男性の車のスペアキーを持ち、車を使用していた。逃走に使ったのもその車です」(同・全国紙記者)

 週刊女性の直撃取材に、回収業者のその男性は、「話すことはないよ」と口を閉ざす。

「よし子さんにお金を取られた」と容疑者が供述しているという一部報道も出たが、真相は今もやぶの中。容疑者らは20日、送検された。

 人に頼まれ、居場所を提供したばかりにトラブルに巻き込まれてしまったよし子さん。

「玄関のそばで亡くなっていたのは、はって逃げようとしたんでしょうね。明るくて人懐っこい、いい子だったのに。ひどいことをする。かわいそうに」(60代の近隣女性)

 地域が見守り続けた人生は無謀な若い男女4人の手で無残にも葬り去られた。