左上から時計回りに安藤玉恵、池田鉄洋、野間口徹、江口のりこ、長谷川朝晴、木南晴夏、平岩紙、キムラ緑子

「前に出ないけど、自分をちゃんと主張できる技を持っている。しかも主役の演技を殺さない。それが名脇役です。彼らは画面の奥にいても自分に目がいくような演技ができるんですよね」

 と話すのは、映画『らせん』『アナザヘヴン』などで知られる映画監督の飯田譲治氏。主役には数字が求められるが、脇役は業界関係者にウケがいいと出演数も伸びていく。その代表的な名脇役、でも、彼らの名前は何だったっけ……?

一度見ると忘れられない

 まずは江口のりこ。現在も『海月姫』(フジテレビ系)と『anone』(日本テレビ系)、2つのドラマに出演中の大人気バイプレーヤーだ。

「どんな役でも、頼まれたらやる精神がいい。『海月姫』にインド人役で出演していますが、インド人に見えるから不思議です」(ドラマ助監督)

「最近はコメディーな役が多いけど以前、僕がお願いしたのはシリアスな役。その役もハマっていたから、本当に勘がいいんだろうね」(飯田氏)

 そして『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)に出演中の野間口徹。ドラマではまじめなインテリ役で見かけることが多い印象だが……。

「以前は妻に高圧的に接したりするなど冷淡な役が多かったんです。でもある日、ミスキャストじゃないかと思えるインテリの役を演じたら、それがうまくハマったようですね。その役からまじめ役のオファーが多くなったんだと思います」(芸能プロ関係者)

「2回ご一緒しましたが、感性がよく、現場での物腰もいい。やわらかい雰囲気を出してくれるんです」(飯田氏)

 1度見ると忘れられない顔と演技が特徴なのは池田鉄洋。『TRICK』(テレビ朝日系)での個性的な役で話題に。

「この人はコミカル専門ですよね。役の振り幅はそこまで大きくないですが、彼に求められているのはクセの強いコミカルさ。そういう意味ではこれからも注目です」(前出・ドラマ助監督)

 飯田氏からは「仕事はまだご一緒したことないけど、ご飯は食べたことありますね(笑)。いま僕が手がけているドラマにも出てほしいと思っていたんだけど、ちょっと合う役がなくて。今度、声をかけるときは、彼が今までやったことがない役をお願いしたい」と、公開オファーも。

 この人も池田同様、ひとクセもふたクセもある安藤玉恵

「渋い作品に数多く出演されていますが、やはり一般的には、NHK朝ドラ『あまちゃん』で演じた観光協会の職員役でしょう。ほかの作品でも妙に不機嫌なウエートレスや風俗嬢など、彼女しかできない役ばかり。だから出演シーンが少なくても、見るものに強烈な印象を残すんです」(テレビ誌ライター) 

 キムラ緑子も朝ドラで注目を浴びた脇役のひとり。『ごちそうさん』での主人公をいびる小姑役が見事だった。

最高ですね。しゃべっているだけでパワーがあるし、美人の顔じゃないのがいい。そのほうがいろいろな顔になれるから。美人は役が限定されるし、何もしないことを要求されがち。キムラさんのようにさまざまな役の立場になれる人は幸せですね」(飯田氏)

どんな役にも染まれる

 漫画の実写化が多い今、これから重宝されそうなのが、木南晴夏だ。

「この子はまさにバイプレーヤー。現在、漫画が原作の『海月姫』で枯れ専のオタク女子・ジジを演じています。コメディーが上手ですね。映画『20世紀少年』の小泉響子という役で原作にそっくりと言われ、評価を得たんです。漫画原作ものには使い勝手がいい役者さんですね」(前出・芸能プロ関係者)

『相棒』(テレビ朝日系)や2時間ドラマによく出演している羽場裕一は、飯田氏が「脚本を読んで、それ以上のことをやってくれる俳優」と絶賛。

「いろんなアイデアを出し、いろんなパターンを演じて、監督にどれがいいかを選ばせてくれる。6月放送のドラマ『アイアングランマ2』(NHK)でも重要な役どころをお願いしていますね。主演の大竹しのぶさんの演技を上手に生かしてくれている。大御所の役者さんとのパイプにもなってくれるんですよ」(飯田氏)

 演じられる役の幅が広いといわれるのが長谷川朝晴。『ドクターX』(テレビ朝日系)などに出演していた。

どんな役もできる方です。大河『真田丸』で伊達政宗も演じていました。誠実そうな役もできるし、キレものもできる。ニュートラルな顔をしているので、表情で怖さも弱さも表現できる。中肉中背なのもいいですね。荒川良々さんと同じで、どんな役にでも染まれる感じがあります」(前出・ドラマ助監督)

 平岩紙は、『ファブリーズ』のCMでのお母さん役が代名詞。そう聞くとパッと頭に浮かぶ特徴的な顔をしている。「彼女は“ブスと美人の境界線上にいる”と評される絶妙な顔。ブス役も美人役もできるという稀有な顔つきなんです。この振り幅がある女優はほかにいないんじゃないかな」(前出・テレビ誌ライター)

 一方、美人だけど苦労していそうな顔で重宝されるのが奥貫薫。放送中のドラマ『トドメの接吻』(日本テレビ系)でも、行方不明になった息子を探す母親役を演じている。

「顔の感じからなのか、幸が薄い役がハマりますよね。西田尚美さんも同じラインに当てはまるかもしれません。どのドラマにも薄幸な役は必ず1人はいるから、配役されやすいのかもしれませんね」(前出・ドラマ助監督)

見ためで勝ち!

 名脇役にはお笑い芸人出身の人も多い。その代表格が『花より男子』(TBS系)にも出演していたデビット伊東

「2時間ドラマの犯人役が多いかな。悪役も実直な役もできる。デビットさんはラーメン店も経営しているので、差し入れがラーメンなのもうれしいですね(笑)」(前出・芸能プロ関係者)

 朝ドラ『ひよっこ』や映画『シン・ゴジラ』にも出演していた津田寛治の演技は、業界人からもかなり高評価だ。

「かなりメジャーになってきていますが、この人はすごくお芝居が上手。刑事ドラマだったら、主人公に反発する役や悪徳刑事もできるし、ちょっと気の弱い人もできる。主人公が女性なら、尻に敷かれる男からDV男まで。しかも、本当にそういう人だと思わせちゃう演技力がある。この人がいたら間違いない。安心してキャスティングできますね」(前出・芸能プロ関係者)

 そして、「彼らは傾向が似ている」と飯田氏が話すのが、中村靖日古舘寛治の2人。

中村靖日(左)と古舘寛治(右)

「何もしないけど、何かしているような演技をする役者。ボーッとしているけど、見ていて退屈しない」(飯田氏)

 『ゲゲゲの女房』『ごちそうさん』(ともにNHK)と出演作にヒット作が多い中村は、

もう見た目で勝ちですね(笑)。セリフが少なくても、佇まいで雄弁に語れる役者さん。実は脇役だけじゃなく、映画『運命じゃない人』では主役を演じられています」(前出・テレビ誌ライター)

 一方、古舘寛治は舞台で活躍していたが、'07年の英会話スクール『NOVA』のCMで一躍、有名になった。

「ひげ、ボサボサ頭がトレードマーク。最近は『コウノドリ』(TBS系)のぶっきらぼうで厳しい医者役が印象的でした。素と演技の境界線がない微妙なトーンにやられます」(前出・芸能プロ関係者)

 名は残さず、作品のために自分の与えられた役割だけを全うする─。今後はそんな真のバイプレーヤーたちに注目してみよう。