事件のあった容疑者宅のインターホンに応答はなく、人の気配もなかった

 群馬県高崎市の生後2か月の男児、飯塚つぐみちゃんが暴行を受け意識不明の重体になった事件。5日に殺人未遂容疑で逮捕された無職・森田誠容疑者(32)は、つぐみちゃんの実の父親だと話しているという。

「3月4日午前、自宅において被害者を殺害する目的で、手で鼻と口をふさいだり、抱き上げて全身を揺さぶるなどの暴行を加えたが、全治不能の傷害を負わせたにとどまり、その目的を遂げなかったもの」

 という群馬県警本部の報道発表が、事件のおぞましさを物語る。

 森田容疑者の内縁の妻で、つぐみちゃんの母親(29)は、昨年11月28日、臨月のお腹を抱え途方に暮れ、市内の西部児童相談所に電話を入れた。

「お金がなくて子どもを育てられないという相談です。パートナー(森田容疑者)はいるが、病気で働けないと言っていました」(同児相担当者)

 虐待や子ども問題に詳しい家族問題カウンセラーの山脇由貴子さんは、

「お母さんが育てられませんと言ったら、本当に育てられないんですよ。生まれる前から言っているんだから、それは育てられないんですよ。しかもパートナーは病気で働けないと言っている。これはものすごく養育環境が低い家庭です」

無職はリスクを高める

 出産直前の昨年12月14日、母親と病院担当者、児相、市の担当者で四者対話をもった際、母親は「親族に相談する」と話した。出産後の同28日、病院から市職員が付き添って家庭訪問した。

「家庭での養育環境を確認しています。その日は母方の祖母(乳児から見て)が病院にいて、一緒に自宅のマンションに行きました」(市の担当者)

 親族の育児支援を得られて問題解決に向かったようにみえた。しかし、森田容疑者はその日、母親とわが子の退院を手伝うでもなく、自宅にいたという。

 それは最悪の養育環境だと、前出・山脇さんが指摘する。

「無職であるということは、リスクを高めてしまうんです。ずっと一緒にいるじゃないですか。赤ちゃんはうるさいですから、働いている人でも夜泣きで夫婦がもめたりする。うるさくてカーッとなってしまうケースもありますから」

 事件現場となるそのマンションは、JR高崎駅から車で約10分の場所に位置し、管理費込みの家賃は月約7万円。

「ここのマンションは、ペット可なので、建物自体が丈夫な造りで防音がちゃんとしている。犬の鳴き声も聞こえてきませんし、赤ちゃんの泣き声も聞いたことはないですね。隣の人とすれ違ってもあいさつとかもしないです。引っ越しのあいさつなんて、まったくありません」

 と、同じマンションの住人が隣近所との薄い関係を話す。

「お母さんは29歳の年相応の女性という感じ。男の人は見たことないですね。女の人がひとりで住んでいるのかなと思いましたけど、ベランダにたくさんの洗濯物が干してあったので、もしかしたら家族が住んでいるのかとは思いましたけど」(同じ住人)

 事件後は、洗濯物が干されることもなく、電気の明かりがもれることもなく、内縁の妻がそこにいる気配はなし。ひっそりと姿を消した……。

 出産前からお金の心配をし、内縁の夫は無職という状況で、世間が浮き立つ正月直前に退院する母子の不安。

「本当に生活が困窮してしまえば、生活保護とかありますが、まだそこまでの状況ではなかったということですね」

 と市の担当者は親子3人の暮らしぶりを説明。母親は介護職で、育休中だったという。

出産する前に母親は高崎市役所に「お金がないので子どもを育てられない」という旨の相談をしていた

 祖母は孫の養育について

「養育する気はあるということでした」

 と市の担当者は確認している。そして続ける。

「実家のお母さんのところに行って育てるつもりだったと思うんですけど、まあ途中で本人の希望もあって、内縁の夫と育児をしていきたいとのことで、マンションで育児をしていたという状況だったと思います」

 1月24日が1か月健診の日だった。市の担当者が付き添ったのだが、

「子どもも順調に成長していて、母親も回復していました。1月には家庭訪問にも1回行っています。ただ1か月健診の付き添いを最後に、それ以降、母親と電話連絡がとれなくなりました」(市の担当者)

児相も市も対応が中途半端

 防音が行き届いたマンションの中で、一体どんな暮らしが営まれていたのか。母親も日常的に内縁の夫の暴力を受けていた、ということも明らかになっている。

 前出・山脇さんは、

「暴力も幼稚でプライドが高く、社会的適応性が低い人にありがちです。俺はなんでもできるんだ、みたいな子どもじみた万能感があっても実際仕事をするとうまくいかない。

 女性側も怖い。“働いてよ”と言えば、“うるせぇ”と暴力をふるわれる。だから次第に言わなくなり、機嫌をとるようになる。自分への暴力も怖いし、子どもへの暴力も怖くて、なにも言えなくなる」

 と負の連鎖を解説する。

 児相、市役所、母親と祖母が、赤ちゃんの将来を心配したが、そこに森田容疑者と森田容疑者の身内は登場しない。森田容疑者が育児の分担をすることは考えにくく、つぐみちゃんの母親が、金銭的にも肉体的にもきつい状況下で、ワンオペ育児に忙殺されていたのが真相のようだ。

 取材の過程で浮かんできたのは、児相も市も一家への踏み込み方がイマイチという中途半端感。その判断が最悪を招いてしまった。市は、

「子どもを預けたいと言った時点で、お母さんとしてもかなり厳しい状態だったのかなと思います。施設に入れるのがよいというわけではないですが、子どもと母の様態をよく確認しつつ、早い時点で児相に受け入れてもらうなどのことは考えていかないといけないかもしれませんね」

 と反省を口にするが……。大人たちの不作為が、つぐみちゃんへの虐待を生んだ。