鋭い視点で人間の真理をあぶり出すタレント論が人気のライター・仁科友里さんが、話題のドラマを深読みします。

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 火曜ドラマ『きみがこころに棲みついた』(TBS系 毎週火曜 22時〜)をご覧になっていますか?

小川今日子役の吉岡里帆、星名漣役の向井理

 自己評価が低いがために、他人の前で挙動不審になってしまう小川今日子(吉岡里帆)。大学の先輩、星名漣(向井理)だけが「ありのままでいい」と今日子を肯定してくれましたが、その一方で、星名は今日子の心と身体を平気で傷つけました。社会人となり、星名の記憶も薄れ、やっと吉崎幸次郎(桐谷健太)という彼氏もできたころ、星名が今日子の勤務先である下着メーカーに上司として現れるというストーリーです。

 番組公式ホームページには、今日子と星名、吉崎の「三角関係ラブストーリー」と書かれていましたが、このドラマは恋愛ではなく、依存を描いているように私は感じました。

 愛情と依存は紙一重です。自分が愛情だと思っていることが、結果的に依存でしかなかったというのは、多くの女性が一度くらいは経験することかもしれません。たいていは時が経てば笑い話になりますが、依存の度が過ぎると、自分の心身を傷つけることにもなりかねません。そこで、今回はこのドラマから、恋愛と依存の境目について考えてみたいと思います。

 自分ではそんなつもりがない、依存したくないのに、なぜか依存してしまう女性の思考回路には、3つの特徴があるように思います。

 まず、1つめの特徴は、最初に結論を決めてしまっていることです。

 たとえば、今日子は星名に出会い、初めて「ありのままでいい」「今日子から逃げない」と言ってもらいます。友達もおらず、母親にまで「あの子を見てるとイライラする」と言われて育った今日子は、さぞ、うれしかったことでしょう。しかし、言葉とはうらはらに星名は今日子の髪を強引に切るなど、その行動は暴力的なものばかりです。

 非依存型の人なら、この時点で「このオトコはヤバい」と逃げ出しますが、今日子はそれをしない。なぜかというと、星名に「ありのままでいい」と言われた時点で、「この人についていく」と決めてしまっているからなのです。「ついていこうと思ったけど、やめた」という軌道修正が利かないのは、自分が相手に抱いていた理想が壊れるのがイヤという恐怖心と、早く依存先を決めて安心したいからではないでしょうか。

 2つめの特徴は、依存する女性ほど、言葉を欲しがること。

 このドラマには、「認める」「受け入れる」「理解する」と言った言葉が多用されます。確かに、誰もが他人には認めてもらいたいものですが、依存型女子の特徴は、証拠(言葉)がなければ、納得できないことなのです。今日子がエサを求める犬のように星名の要求をのんでしまうのは、星名は時折、ご褒美の言葉をくれるからでしょう。

 しかし、今日子には認め合う人間関係を作る能力が、すでにあるのです。今日子は先輩デザイナーの八木泉(鈴木紗理奈)と組んで、新ブランド設立のためのプレゼンテーションを勝ち抜きました。口の悪い泉は「認めている」といった意味合いの言葉をかけませんが、自分の仕事をきちんとする今日子を信頼していることが感じられます。相手に対する気持ちは、言葉よりも行動に如実に表れるものなのです。

 3つめの特徴は、依存型女子ほど、理由を説明しないこと。

 吉崎からもらったネックレスを星名に切られてしまったなど、何らかのハプニングが起きても、今日子は決して自分の口から理由を説明しません。吉崎を怒らせたり、嫌われるのが怖いのでしょうが、その中に「何も言わなくても、自分のことをわかってほしい。何があっても許してほしい」という依存心も潜んでいるのではないでしょうか。今日子が話さないことには、理解することも許すこともできないのですが、依存型女子には極度に怖がりな部分と、図々しさが同居しているように思います。

星名と今日子は共依存の関係

 星名も今日子と同様、母親との問題を抱えています。星名が父親から暴力を振るわれているのに、見て見ぬふりをした母親。母親に見捨てられた経験のせいか、星名は自分から決して逃げない女性を求めていて、それが今日子だったわけです。二人は共依存の関係と言えるでしょう。

 今日子の嫉妬心をあおるために、星名が口説いた今日子の同僚の飯田彩香(石橋杏奈)も、実は依存的な思考の持ち主です。星名の心が自分から離れていると知ると、叔父の経営する紡績工場を利用して、星名の関心をひこうとします。

「あなたの役に立ちたい」という彩香の言葉は、本心でしょう。日本は女性の献身をよしとする風潮があるので、「愛情深い女性だ」と褒められるかもしれません。しかし、相手に何か与えなければ自分の存在意義を見出せないのなら、それもまた依存なのではないでしょうか。現実世界には、今日子型ではなく、彩香型の依存女子が多いように私は感じます。

 ドラマも最終回まで、あと数回。キーパーソンとも言える星名の母親・郁美(岡江久美子)が登場し、彩香が郁美に接近するなど、先が読めない展開となってきました。ストーリーを楽しむとともに、ドラマにちりばめられた依存の“芽”を探してみるのも、楽しいかもしれません。

(文/仁科友里)

<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。近刊は、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。