左上から時計回りに、中村獅童、北斗晶、渡辺謙、大杉漣さん、星野源、川島なお美さん

 先月、俳優の大杉漣さんが突然亡くなったニュースは衝撃を与えた。家事に仕事に、慌ただしい日々を送る人は、思わずわが身を振り返ったのでは?

 命にかかわるような大きな病気のなかには、早期発見、早期治療が重要になるものが珍しくない。

人間ドックで早期発見のケースも

 例えば'16年に、早期の胃がんを患い手術したことを発表した俳優の渡辺謙。渡辺はツイッターで、妻である女優の南果歩がすすめた人間ドックで早期発見したことを明かし、

《この段階での発見は奇跡、点検は大事ですわ》

 と述べている。

 医学博士で医学ジャーナリストの植田美津恵さんは、

「渡辺さんは、20年前に白血病を患っているので、免疫系が少し弱いのかもしれません。たとえ治っても、過去に大病をした人にとって、定期的な検査は大切です」

 と指摘する。

 また、歌舞伎俳優の中村獅童も、人間ドックの受診により、がんを早期発見できたひとり。昨年5月、自身が患った肺腺がんについて、

《今見つかったのが奇跡的と言われる程の早期発見で、この状況ですぐに手術をすれば完治するとの担当医師からのお言葉でした》

 とコメントを発表。同年11月には舞台へ復帰している。

「中村さんは新婚であったことが幸いしていると思います。妻のすすめに素直に従ったことが運命を分けたのでは?」(植田さん、以下同)

 定期健診で食道にがんが見つかったのは歌手・大橋純子だ。15日の会見で、胃カメラで異常が見つかり、再検査をしたところ「ステージ1ぐらい」の食道がんと宣告されたと明かした。大橋に自覚症状はなかったそうだが、がんが食道の粘膜にとどまる早期の場合、食欲減少などの症状が現れにくく、無症状の人も多いという。

 このとき、発見が早ければ早いほど、食道がんと診断されてから5年後に生存している割合を示す「5年生存率」が高くなることは言うまでもない。5年生存率は、治癒の目安とされている。

 一方、元女子プロレスラーでタレントの北斗晶は、乳がん検診と婦人科検診を毎年、欠かさなかったにもかかわらず、進行度・ステージ2bの乳がんを発症、右乳房の全摘出手術を行っている。

早期発見できるものとそうでないもの

 北斗はブログで、うつぶせになったとき、右胸にチクッとする痛みを感じたことが、病気を疑うきっかけだったと伝えている。

 乳房の左右の位置が違って見え、痛みを伴ったことから、毎年秋に行っていた検診を待たずに初夏に病院を訪れたという。

 植田さんも乳がんを経験している。北斗と同じく、検診で発見したのではなく、乳房のへこみに自分で気づいたことでわかったと話す。

「乳がんを発症する2年前に、マンモグラフィーとエコー検査を行いましたが、異常は見つかりませんでした。その後、自分で異常に気づき、検査を受けたところがんとわかり、乳房の全摘出手術を受けました」

 こうした検査や健診は、早期発見に本当につながっているのだろうか?

「乳がんに関しては、私を含めて自力で見つける人もいますが、予後がいいといわれる大腸がん、乳がん、子宮がん、前立腺がんなどは検診によって早期発見することができます。そうなれば早期治療にもつながります」

 乳がんの検診受診率は全国平均の36・9%からして、決して高いとはいえない数字だ。

 ただ、検診で早期発見が期待できる病気と、そうでない病気がある。今年1月に亡くなったプロ野球・楽天球団副会長の星野仙一さんは、すい臓がんの発覚後、およそ1年半にわたる闘病生活を送っていた。すい臓がんは、発見しにくいがんの代表的なものとして知られている。

「すい臓は、肺や胃に隠れた臓器のため、エックス線やエコー検査だけではがんの発見が難しく、予後も悪いがんといわれています。川島なお美さんの命を奪った胆管がんも、発見しにくいがんのひとつです」

 では、がん以外の病気はどうだろうか。

「例えば、声優の鶴ひろみさんが亡くなる原因となった大動脈解離は、交通事故のようなもの。血中脂肪や頸動脈エコーでは、この病気のリスクを知ることはできません。

 星野源さんやKEIKOさんを襲った、くも膜化出血も同じといえます。原因と考えられる脳動脈瘤の有無は脳ドックを受ければわかりますが、破裂予防のための手術もリスクが伴います。何でもかんでも検査を受ける必要はないし、何でも治せるわけではありません」

人間ドックの賢い選び方

 それでも医師たちが検査をすすめるのは、早期発見ができ、治療法が確立している病気を見つけだすことができるからだ。そこで植田さんは、

「40歳を迎えたら人間ドックを受けてみるといいと思います」と話す。

「ただし、お金がかかることですし、身体への負担もゼロではありません。自分に合った検査選びが重要になってきます」

 健康状態や病気の有無を調べる検査は、大きく3つに分けられる。

「地方自治体や企業が行う健康診断、病院に併設された人間ドック、それから不調に伴い病院を訪れるなどして個別に行う検査です。人間ドックと個別検査は保険適用外となり、自費となります。

 ただ、人間ドックは健康保険組合などから補助金が下りる場合もある。健康診断はベースとして毎年受けて、40歳を目安に、人間ドックや個別検査を考えるのがいいでしょう

 どんな検査を、どのタイミングで受けるべきか。家族が賢く選ぶには、どうしたらいい?

「遺伝、体質、リスクを考慮して選びましょう。血縁のある家族(両親、祖父母、兄弟姉妹)の病歴をピックアップして、家族がかかったがんの検査は優先的に行いましょう。

また、故・川島なお美さんのように“ワインで身体ができている”というほどお酒を飲むなら、消化器系のがん検査。タバコを吸う習慣があるなら肺がん検査など、生活習慣によるリスクの高さから検査を選ぶのがポイントです

 受診する年代によって方法を変えたほうがいい検査もある。乳がん検診が代表例だ。

「乳房専用のレントゲン検査を行うマンモグラフィーは、しこりが白く映ります。しかし、乳腺が発達している20~30代は乳腺が白く映り、しこりが見つけにくいという難点があります。20~30代はエコー検査や視触診を中心に、40代以降からマンモグラフィーを受けることをおすすめします」

すべてを受ける必要はない

 さらに検査に伴うX線による被ばくも心配だ。

「健康診断や人間ドックで考えてほしいことは被ばく量です。レントゲン、CT、PET、胃バリウム、マンモグラフィーなどは、放射線を人体に当てて検査を行うため、被ばくのリスクを伴います」

 検査はメニューに含まれているからといって、すべてを受ける必要はない。

 定期的に胃の内視鏡検査を行っている人は、バリウム検査を除くなど、被ばく量とほかで受ける検査との兼ね合いを考えることも大切だ。医療の進化にともない、検査技術の発展もめざましい。

 植田さんが指摘する。

「医療機器メーカー、製薬会社、バイオメーカーなどの技術開発で検査技術は進歩し続けています。“痛くない、すぐ終わる”をキーワードに身体に負担のない方向へシフトしています」

 ここ数年で導入する医療機関が増えてきたのは、小腸や大腸を調べる「カプセル内視鏡検査」。20~30mm程度の、やや大きめのカメラを搭載したカプセルを飲み込み、画像を撮影するという方法だ。

 また、少量の唾液や血液、尿を採取するだけという「スクリーニング検査」も近年に続々登場している。

「ふるい分け検査といわれるもので、病気の疑いがある人を発見する検査です。レントゲンも、スクリーニング検査のひとつです。この検査で知っておいてほしいことは、あくまで“病気の可能性”を知るもの、ということです。例えば、がんを確定するには、病理検査などが必要になります」

 血液でわかるスクリーニング検査は、脳梗塞や軽度認知症のリスクを評価する血液検査もあり、広がりをみせている。


植田美津恵さん◎医学博士・医学ジャーナリスト。首都医校(東京)教授。医学番組の監修、テレビコメンテーター、講演活動をこなす。著書に『忍者ダイエット』(サイドランチ)ほか多数