古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、TV業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第44回は山名宏和が担当します。

陣内智則 様

 今回、勝手に表彰させていただくのは、陣内智則さんである。

陣内智則

 最初の結婚で世間の注目を集めて以来、紆余(うよ)曲折あったが、今の陣内さんは“それなりに売れている中堅芸人”というのが、世間のイメージではないだろうか。そして「イイと思うところを挙げてください」と尋ねられても、正直、たいていの方は返答に困る芸人の一人だと思う。

 しかしながら、番組の制作現場の声を聞くと、テレビを観ているだけではわからない、陣内さんの一面が見えてくる。

「今、必要なことをちゃんとわかって発言してくれるんですよ」

 陣内さんと仕事をする機会が多いディレクターが、そう言っていた。

 収録前に細かな打ち合わせをしなくても、その場の空気を読んで、的確に立ち回ってくれるという。たとえばトークが苦手なゲストがもたついていた時、すかさず助け舟を出してくれる、といったようなことだ。

「裏回し」と呼ばれるこの役割は、複数のゲストが並ぶ番組ではよく必要とされるが、実は難しい役割だ。前に出すぎると、本来の司会者の邪魔をすることになる。特に腕のある司会者の場合はなおさらだ。しかし、この手のことには厳しいダウンタウンの浜田さんも、『ダウンタウンDX』(読売テレビ・日本テレビ系)で裏回しをする陣内さんのことを悪く言ったことは一度もないという。

 一方、自分のネタに関しては、また別の面を見せる。

「めちゃくちゃ細かく詰めるんですよ」

 これは別のスタッフの言葉。

 ネタといっても『エンタの神様』(日本テレビ系)でやるような一人コントではない。自分のエピソードトークでも、スタッフと入念に打ち合わせをするという。

「この話はこういうオチをつけようと思ってるんだけど、どう思う?」

「このオチとこのオチ、どっちのほうがいいと思う?」

 こんなことを聞いてくる芸人はなかなかいない。普通は「こういうことを話します」と言われて、それで終わり。だから、こんなふうに意見を求められるのは、スタッフとしてはうれしい。もちろん、スタッフの意見をそのまま採用するわけではない。意見を参考にして、さらにネタをブラッシュアップしていくのだ。これも『DX』での話だが、ギリギリまで粘って、本番では打ち合わせの時とトークの構成やオチを変えてきたこともよくあるそうだ。

 今回、紹介した2つの面は、テレビを見ているだけではさっぱり伝わらないだろう。だが、そこがいいのだ。「こんなに気を使ってます」「こんなに考えています」というのが透けて見えるうちは、まだまだ。そんなふうに見えないのに、陰で実は……というのが、腕ある芸人だと思うのだが、そんなふうに見えないから視聴者から評価されることも少ない。

 そこで陣内智則さんには今回「実はいろいろちゃんとやってますよ!」賞を勝手に差し上げ、「俺の手の内をバラすなよ」と思われるかもしれませんが、勝手に表彰します。

<プロフィール>
山名宏和(やまな・ひろかず)
古舘プロジェクト所属。『行列のできる法律相談所』『ダウンタウンDX』といったバラエティー番組から、『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』といった経済番組まで、よく言えば幅広く、よく言わなければ節操なく、放送作家として活動中。