45歳から顕微授精などの不妊治療にトライし、昨年8月、次男を出産した加藤貴子 撮影/山田智絵 

「どうしてもっと早く取り組まなかったのか……。後悔と焦りからのスタートでした」

 そう語るのは、44歳で初産、46歳10か月で第2子を出産した女優の加藤貴子。高齢で妊活に挑む人たちの希望の星ともいえる存在だが、その内情は決して“成功物語”といえるものではなかった。

妊娠するも、3度の流産に見舞われる

「私が不妊治療を始めたのは42歳のとき。30代のころからタイミング法を試みて自然に授かるのを待っていたのですが、できなくて。ある人の紹介で不妊クリニックを訪れたとき、37歳を過ぎると卵子の老化が加速するという厳しい現実を初めて知って。

 生理があれば、そのうち子どもはできると思っていた自分の無知を悔やみました。しかも、4歳上の夫の精子の数が少なくて運動率が低いことも検査をして発覚したのです

 待ったなしの不妊治療が始まった。卵子に顕微鏡で確認しながら精子を直接注入する顕微授精を試みると同時に“1日45分間、歩く”“午後11時までに就寝して7時間は寝る”など生活習慣を改善して自然妊娠も狙った。

「治療を始めて4か月目で妊娠。でもある日、赤ちゃんの心拍が止まって……」

 その後も2回の流産を経験。

「自責の念と悲しみで、声をあげて泣きました」

 4度目の妊娠で、無事に生まれた赤ちゃんを抱いたときの喜びはひとしおだった。

「喜びはみなさんと同じです。ただ、私は不妊治療の時間も含めて命を育んでいた感覚なので、育み期間が長い分、今まで一体だった赤ちゃんと離れてしまう寂しさもありました」

 そして、高齢出産は“産んだあともしんどい”という。

「母乳は少ししか出ないし。ずっと抱っこを続けていたら腱鞘炎になるし、続いてぎっくり腰にもなるし……。産んでからも病院のお世話になりっぱなしでした」

 長男の卒乳を待って、すぐに第2子の妊活を始めた。周りからは、“1人いるんだから、もういいのでは”と反対する声もあがった。

7月13日、2人目の出産日の約1か月前に撮影 著書『大人の授かりBOOK 〜焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ〜』(ワニブックス刊)より

 しかし、加藤の心に迷いはなかったという。

「実は長男のサクは双子だったが、もう1人は育たなかった。その子と“もう1度、会えるチャンスをつくるね”と約束してお別れしたんです。それと、夫と私が高齢だからこそ、将来、サクがひとりにならないようにきょうだいをつくってあげたかった

 45歳から46歳にかけて6度チャレンジしたが、着床しなかった。そして挑んだ7回目で妊娠。大出血のおそれがある全前置胎盤の状態で、数人の医師が待機するなか、帝王切開で次男を出産した。

産んだあとも親の責任はなくならない

 望みどおり2人の子を授かったが、加藤は“妊活は46歳まで”と決めていた。不妊治療はやめどきが難しい。世の中には50歳で出産する人もいて、その可能性にすがると踏ん切りがつかなくなる。

子どもは産んだら終わりではなく、ひとり立ちできるように育てるまでが親の責任。うちは私が70歳までには、子どもの大学生活を終わらせたい。浪人することも考え、逆算すると46歳だったんです」

 金銭的な負担も無視できなかった。

「体外受精などの高度生殖補助医療は、手術代だけでなく、受精卵を凍結保存する費用、検査代、ホルモン注射代、トータルすると不妊治療1回で100万円近くかかることも。

 私はずっと子どもが欲しくてコツコツ貯金していたんですが、2人目のときにはほぼ使い切り、夫は本業のほかにアルバイトもかけ持ちし、私もできる限り仕事をして費用を工面していました」

 不妊治療中は“妊活クライシス”に陥りかけたという。

「夫は協力的ではあったけど、仕事が忙しいですし、“できること、間に合うことはすべてやる!”という私とは温度差がありました。そんな夫に対して怒りが爆発したことも。でも吐き出したことで私はラクになりました。

 何より夫が“私が追い詰められていること”に気づき、妊活中の心の揺れに寄り添ってくれるようになったのが大きかったですね。妊娠の壁になるのも妊活クライシスを招くのもストレスの蓄積が原因。それをいかに軽減するかがカギだと思います。旦那さんの役目は大きいですね(笑)

 これまでも体験談をブログなどで発信してきた彼女は、自らの体験をまとめた著書を上梓した。

「後悔、失敗も含めた私のいろんな思いや経験を参考にしてもらえたら幸いです。そしてストレスの軽減に役立ててほしい」

 こうした活動や人々との交流を通して世の中の問題点にも目を向けるようになった。

「妊活は早くスタートして」

「治療によっては、手術前後1か月ほど毎日通院してホルモン注射を打つ必要があるんです。働きながら妊活する人に“治療時間をどう確保するか”という相談をよく受けます。仕事先の近くにホルモン注射を打ってくれる病院があればいいけど、不妊治療を謳っていても代理で注射を打ってくれる病院は少ないのが現状。

 私も地方の仕事のときは困りました。新生児の20人に1人が高度生殖補助医療で生まれている今、病院側の対応環境を早急に整えてほしいと願います」

 もちろん高齢妊活を奨励しているわけではない。

「高齢になれば流産のリスクも高まる。私は“妊活はなるべく早くスタートしてほしい”と、みなさんに伝えています」

笑顔を見せる加藤貴子 撮影/山田智絵 

 一方で、自身は妊活で得たものがたくさんあると話す。

「体外受精などの不妊治療って人工的で冷たい印象がありますが、お医者さんや看護師さんをはじめいろんな人の力を借りて命を育むというのは心の通った温かいもの。不妊治療中はいやおうなしに自分の内面と対峙しなければならないし、夫婦関係を見つめ直す場面が何度もありました。

 そのなかで夫婦の絆も深まっていった。私たちは授かる前に“親になるとはどういうことか”を学び、ともに生きる力をもらった気がします

 治療前はそれほど子どもを望んでいなかった夫も、今では息子たちにデレデレだとか。

「こんなに子どもが好きなら、もっと早く取り組めばよかったのにと思うけど(笑)。今だから夫もこうなったのかも。やはりタイミングですね。私たち夫婦に授かるべきタイミングで子どもたちが来てくれた。今はそう思えます

(取材・文/村瀬素子)


加藤貴子(かとう・たかこ)◎女優 1970年、静岡県生まれ。『温泉へ行こう』シリーズの主演をはじめ『科捜研の女』シリーズ、『花より男子』『とんび』など数多くのテレビドラマや舞台で活躍。3月22日に、妊活中に起こったさまざまな出来事をつづった著書『大人の授かりBOOK 〜焦りをひと呼吸に変える がんばりすぎないコツ〜』(ワニブックス刊)を発売。