大東駿介 撮影/森田晃博

 現在公開中の映画『スリー・ビルボード』が本年度アカデミー賞で主演女優賞・助演男優賞を受賞し、映画監督としても注目を集める英国の劇作家、マーティン・マクドナーの最新戯曲『ハングマン』が、長塚圭史演出で日本初上演される。

 イングランドの地方都市を舞台に“1965年の絞首刑廃止の余波”をマクドナー独特のブラックユーモアで描いた作品だ。物語のカギを握る重要人物を演じるのは、大東駿介さん。

 過去11作品の舞台に出演し、今年上演された舞台『プルートゥ』では欧州公演も経験するなど、舞台俳優としてもさらに幅を広げている。

作品を演じるたびに自分が変わる

「『プルートゥ』はヨーロッパ公演も含めて、もう毎日、刺激的でむちゃくちゃいい経験でした舞台は僕にとってとても大切です。出会う作品がすべて自分の人生のターニングポイントになってしまうんですよ。

 単純に3か月とか同じ脚本に毎日、向き合うっていう時間は、かなりエネルギーを使うんですけど、いろんなことを思いめぐらせて考えるから結果的に自分にとっての転機になる。たぶん毎回変わってると思うんです。『プルートゥ』を経て、また変わってると思います」

 その変化が次回作『ハングマン』でどう発揮されるのかは、観客としても楽しみなところ。

「すごく大きな世界観の作品を経たからこそ、今、とても繊細で些細なことを意識したくて。だから『ハングマン』の小川絵梨子さんの台本を読んだときに、言葉の語尾ひとつひとつに違和感があって、同じ言葉でも語尾で変わるきわどいニュアンスみたいなものを探っていきたいなと思います。

 何より、小川さんが翻訳された本がホントに面白いんです。皮肉っぽさが小気味よくて。この台詞をしゃべりたいって思いました(笑)

嫌なやつの役も好き

 大東さんが演じるのは、つかみどころのない謎の青年ムーニー。元ハングマン(絞首刑執行人)の主人公夫婦が営むパブにふらっとやって来て、事件を匂わせる不穏な存在。

「ムーニーはこの作品の中の違和感だと思う。異物ですね(笑)。どこからともなく現れて日常を壊していくみたいな。普通のことをとにかく嫌なように伝える人間なんで、どんどん不協和音を起こしていく人物です」

 いわゆる嫌なやつ?

「まあ、気分悪いんじゃないですか(笑)。でもそういう役は好きですから。人間っぽいなって思うんです」

 長塚さん演出の舞台は昨年の『王将』に続き2作目。尊敬する存在だと言う。

またご一緒できるのがいちばんの喜びです。もう1度お声がけいただいたのが、それだけでもう楽しみやし。“大東、何できんねん?”って言われてるような気持ちがして。

 圭史さんからは、戯曲に対して敬意を払う姿勢や不安とか足かせになりそうなことを全部、好奇心やユーモアでプラスに変換してしまう能力とか。得たことは多いです。それにすごく理論で芝居を構築していく人やのに、もう心は少年っていう。

 好奇心の塊なところにも、僕は憧れますね。とにかく小川さんの台本で長塚さんが演出する舞台が、単純に早く見たいです。俺、出なきゃよかったのかな~(笑)

撮影/森田晃博

「生み出すことが喜びやから」

 俳優デビューして13年目。思い描く役者像を形作ろうともがいていた20代のころよりも、役者の仕事が面白くなっているそうだ。

「『プルートゥ』で世界で仕事をしている演出家のシディ・ラルビ・シェルカウイさんやダンサーや森山未來くんと仕事をして、発見したことがあって。自分の中にある形のない想像を、人前で形作るということが喜びなんだなって思えて。

 もともとそれがしたかったんやなって。生み出すことが喜びやから、もっといろいろ想像しないといけないし、それをどう形にするかってことを考えなきゃいけないし。今はそれ以外に興味がないです

 やってみたいことも次々生まれている。

「先日、大杉漣さんが亡くなられたときに、漣さんがやられていた沈黙劇をやりたいと思ったんです。トリビュートしたいと。漣さんが遺したものやから、引き継ぐべきだと。

 僕が思いついたんだから、絶対ほかにもやりたいと思った役者がいると思うんですよね。今までだったら、思っても“誰かやらへんかな”で終わっていたと思うんですけど、今やったら、“誰も声出せへんのやったら、俺が言おうかな、やれるかな”と。

 もっと残すとかつなげるとか、そういう行為を自然にできるようになりたい。それは30代になって思うようになったことですね

 では、最後に読者にメッセージをお願いします。

「すごく面白い会話劇になると思います。パブが舞台の中心でもあるので、東京公演だったら、劇場のある三軒茶屋で1杯飲んでから来てもいいと思いますし(笑)。気楽な感じで見に来ていただけたらうれしいです」

〈取材・文/井ノ口裕子〉


〈PROFILE〉
だいとう・しゅんすけ 1986年3月13日生まれ。大阪府出身。’05年、俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台などで幅広く活動。’18年は、舞台『プルートゥ PLUTO』が国内外で上演され好評を得る。現在、映画『曇天に笑う』が公開中。主演映画『YOU達HAPPY映画版 ひまわり』は今夏公開予定。

〈公演情報〉
『ハングマン HANGMEN』
1965年、イングランド北西部の町・オールダムにある小さなパブ。死刑制度が廃止になった日、元ハングマン(絞首刑執行人)のハリー(田中哲司)と妻アリスが切り盛りする店に、見慣れないロンドン訛りの男ムーニー(大東駿介)がやって来る。その謎の男と消えたハリーの娘シャーリーをめぐり、スリリングに展開する物語がブラックユーモアで描かれる傑作。埼玉公演:5月12日(土)~5月13日(日)@彩の国さいたま芸術劇場/東京公演:5月16日(水)~5月27日(日)@世田谷パブリックシアターほか、豊橋、京都、北九州にて上演。【問い合わせ】パルコステージ tel.03-3477-5858(月~土11時~19時/日・祝11時~15時)http://www.parco-play.com/