1986年『女が家を買うとき』(文藝春秋)での作家デビューから、70歳に至る現在まで、一貫して「ひとりの生き方」を書き続けてきた松原惇子さんが、これから来る“老後ひとりぼっち時代”の生き方を問う不定期連載です。

シングルで少しでも明るく生きるには、身近な友達の存在が不可欠(写真はイメージ)

第6回「友達がいない? 友達が多い?」

 30代は人生の中で最も迷うときではないだろうか。なぜなら、出会う人により人生が大きく変わる可能性がある年代だからだ。

「わあ、どうしよう。このままでは一生独身かもしれない」と、ひとりになると落ち込んでいたあなたが、ひょんなことから彼と出会い、フランスに住むことになるかもしれない。

 変化の可能性は、いいことばかりではない。堅い会社に就職したつもりが、合併により地方の出張所勤務になることもある。倒産することもある。30代の将来は誰も予測できない。

 ちなみに、30代のころのわたしは、暗いトンネルの中をさまよっていた。ニューヨークに留学といえばカッコいいが、自分探しの時間潰し。留学しても英語は身につかず、見た目のファッションセンスとは裏腹で、目標も見つけられずに帰国。立っていたのは、35歳独身アルバイトの自分だった。

 ボーイフレンドはいた。ボーイフレンドといっても、正直、いただけで自慢できる相手ではなかったが、彼氏がいることが、35歳のわたしにとり救いだった。シングルで少しでも明るく生きるには、だれでもとは言わないが、身近な友達という存在が不可欠だ。

 既婚の方は、家族という存在があるので、特に友達の必要性を感じないだろうが、シングルの人にとり、友達は、迷いのトンネルから抜けるための必要条件だと思う。

 シングルの人の中には、孤独好きな人もいるだろうが、「孤独大好き! 誰もいなくても平気」と、神に誓って言えるようになるのは、65歳過ぎからではないかと経験から言いたい。

 よく、世間では、「男性は親友ができるが、女性には親友ができにくい」と言われている。確かに男性同士の友人関係は長く続いているようだが、自分の経験からも女性同士の友人関係は短いような気がする。

 あなたにも経験があるだろう。親しかった女友達の急変ぶりを。結婚した女友達と久しぶりに会ったときの会話が「ひとりで寂しくない?」。シングル同士のときは「ひとりって気楽でいいよね」と盛り上がっていたのに、それを否定するような発言を聞くことがあったに違いない。へこみますよね。

 わたしも30代のころは、「友達って何なの?」と裏切られた気がしていたが、そうではなく、シングルのときと結婚してからでは、「友達」の優先順位が違ってくるので、友達への関心が薄れただけなのだ、と捉えられるようになった。

 シングル女性の「大切な人のランキング」第1位が「友達」だったとしたら、既婚者の第1位は「家族」になったというだけのことだ。

 現在、代表理事を務めるNPO法人SSS(スリーエス)ネットワークで何百人というシングル女性と関わっていて思うことは、人間は似た者同士が引き合うということだ。似た環境だからこそ話が合う。シングルはシングル同士引き合う。心が狭いように感じるが、それが現実だ。

 現在、シングルの女性へ!

 あなたも、いつか結婚するかもしれないが、そのとき、シングルの友達を捨てないようにしよう。仮に、現在、親しくしている女友達が、抜け駆け結婚をしたとしても、今は舞い上がっているだけだからと、大きな気持ちで送ってあげよう。

 シングルでも既婚でも本当は、どっちでもいいことだが、老いてくると「友達」こそが宝になるので、友達は大事にしたほうがいい。多少、気に食わなくてもね。相手だって、あなたのことを100%好きなわけではないのだから。

友達にもランクがある

 わたしは、最近、友達にもランクがあることに気づいた。我流なのでお役に立つかわからないが、教えますね。

 友達を、わかりやすいように、大好きなうな重のようにランク分けしてみた。実は、うな重を食べているときに思いついた。

 友達のランクも、目の前のうな重のように「特上」・「上」・「並」と3ランクあるのではないかと。

 説明するとこうなる。

「並」とは……趣味のクラスで一緒とかの友達。会ってランチしてさよなら。ジムで会ってしゃべって、じゃまたね。そんな軽い関係の友達。わたしもバレエの習い事をしているので、スタジオで会うと楽しい友達が数人いる。日々のにぎわいとしてつきあっている人たちのこと。

「上」とは……話が合う人。いつまで話していても話題のつきない人。つまり価値観が同じ人。

「特上」とは……自分の部屋の鍵を渡せる人。実際に鍵を渡すかどうかではなく、そのような信頼関係を持てる人。親しいお友達の顔を浮かべてみてほしい。旅行に行く仲だが、やっぱり鍵は渡せないと思うなら、その友達は、今の段階では「上」の友達だ。

 還暦を過ぎて気づいたことなのだが、わたしのように生涯ひとり身の人は、実際に鍵を渡せる人が本当に必要になる。

 同居人のいない高齢者には、緊急時に駆けつけてもらえる人が必要。そのためにも実際に鍵を預かってもらう必要がある。事実、SSSネットワークの会員で、親しい友達がいなかったため、隣人からの「隣から異臭がする」という連絡によって、亡くなっているのが発見された例がある。

 何が言いたいかというと、20代、30代で「上」の友達がいなくても、悲観しなくてもいいが、問題は老いてからよと。

 もし、あなたが今、仲良しを装って友達づきあいしていたとしても、それはふつうのこと。毎日を生きていくには、にぎわいも必要なので、落ち込むことはないが、老いてからのことを少し想像してもらえたらうれしい。

 実は、「上」・「特上」の友達と出会うのは結婚相手に出会うより難しい。だから、自分が結婚できたからっといって、ポイっと友達を捨てないでください。ちょっと嫌だと切ってしまう性格のわたしの後悔からのお願いです。人生は長い、そして人生の後半ほど友達が大事になるとわたしは言いたい。

 昨日、一緒にショッピングに行った女友達が、もしかして「特上」の友達かもしれない。帰り際に「あの人って……」と舌打ちしたとしても。逃がした魚は大きいかもしれない。長い目で相手を見る癖をつけよう。そして、「特上」の友達に育てよう。

 たとえ結婚して家族を持ったとしても、子供はいつしか離れ、夫婦関係も結婚当初と同じではない。老いとともに、にぎやかだった人間関係も寂しいものになっていく。わたしも、還暦を迎えたときに、誰もいない寂しさを実感させられた。自分がノリノリのときには気づかない、大海原にひとりで立っている寂寥(せきりょう)感だ。

『1周回って知らない話』というテレビ番組があるが、友達もまた同じだ。

 幸いにも、わたしには、お互いの鍵を渡しあえる友達がいるが、30代で知り合ったとき、彼女は結婚していた。1周回って現在はひとり身。長い間には疎遠になっていた時期もあったが、気が付くと「特上」の友達になっていたのだ。

 さあ、夏だ! 元気がほしい! 友達を誘って、特上のうな重を食べに行きませんか。「並」だと思っていた友達が「特上」かもしれないですよ。この話をうな重食べながらするの、どうですか?


<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP文庫)、『老後ひとりぼっち』(SB新書)など多数。