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「また下がった」「切り詰めるのも限界」──、2か月に1度の年金支給日に、そうため息をつくシニアも多いのではないだろうか。一方で、公的年金の保険料は、これまで10年以上にわたり引き上げが続いてきた。

現役世代2・2人でお年寄り1人を支えている

 一体いつまで、そもそもどうしてこんなことが続くのか? “年金博士”としておなじみの社会保険労務士・北村庄吾さんが解説する。

「なぜ年金保険料がアップし続けたのか、まずはそこからご説明しましょう。

 そもそも日本の年金制度は、現役世代が納めた保険料や税金を、お年寄りの年金として配る“世代間扶養”という仕組みになっています。現役世代は自分で年金を積み立てているのではなく、お年寄りに仕送りをしているというイメージですね。ところが少子高齢化によって、この仕組みを維持することが難しくなってきたのです」

 高度経済成長期と呼ばれる1955年、現役世代11・5人でお年寄り1人を支えていたのが、いまは現役世代がたったの2・2人でお年寄り1人をサポート。高齢化はさらに進み、内閣府の高齢社会白書(H30年版)によれば、2060年には1・3人で支えることになると予測されている。

「お年寄りを支える世代が減る中で、仕送り方式の年金制度を維持するには、3つの方法しかありません。すなわち、(1)年金の給付を減らす、(2)保険料を上げる、(3)年金をもらい始める年齢を引き上げる。

 '04年の年金制度の改正では、保険料の段階的な引き上げと年金給付の抑制が決まりました」

 現役世代と年金世代それぞれが負担を分け合う、痛み分け的な改正が行われたというわけだ。

 しかし、'04年の改正以前から年金保険料は負担増の一途をたどってきた。保険料の値上げはいつまで、どこまで続くのだろうか?

年金制度はさらなる改悪の可能性大

「会社員が加入する厚生年金の保険料率は年々アップしてきましたが、昨年9月を最後に引き上げが終了しました。厚生年金保険料は、収入に対してひとまず18・3%で固定されます。国民年金の保険料についても、すでに昨年4月で引き上げが終了しています。

 来年から月額100円アップしますが、これは自営業者やフリーランスが産前産後の際、保険料が免除になるためのもので、これまでの値上げとは種類が違います」

 だが、安心するのはまだ早い。

「少子化はどうにも止まらず、労働者人口は減り、高齢化は加速するばかり。そんななか、世代間扶養の仕組みを維持しようだなんて、どだい無理な話なのです。今後、年金制度はさらなる改悪を余儀なくされることでしょう。次の年金制度改革で、また負担増の話が出るかもしれません」

 少子高齢化の進行とともに、年金給付も引き下げが続いてきた。そのため、年金の受給額に世代間格差が生じている。

「団塊の世代は“年金逃げ切り世代”などと現役世代からうらやましがられていますが、実はそうとも言い切れません。人数の多さゆえに、給付引き下げの対象になっています。

 1985年の年金制度改正では、生年月日に応じた給付水準の引き下げを実施。昭和21年4月2日以降に生まれた人の年金額は、大正15年4月1日以前に生まれた人と比べると、同様に働いていたとしても約30%も引き下げられています

 もちろん、その後の世代も、あの手この手で年金が減らされていく。

「平成6年、平成12年の年金制度改正で、老齢厚生年金の受給開始が60歳から65歳に段階的に遅らされました。60歳からもらえた世代と比べると、65歳からもらう世代(男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれ)は、5年分の年金をもらい損ねることになります。

 その額、モデルケースでは計1200万円! もらえると思っていたものがもらえなくなるわけですから、加入者にとっては詐欺みたいな話です

 若ければ若いほど損をする年金制度、なんとか正す方法はないのだろうか。

「世代間格差を是正しようという動きはあります。かつては物価や賃金の上昇に合わせて年金額が引き上げられていましたが、'15年からは『マクロ経済スライド』という仕組みが発動し、賃金や物価の伸びほどには年金額が伸びないようになっています。

 年金世代にはたまったものではありませんが、残念ながら、それでも制度が維持できるようになるわけではありません。この30年間、有効な少子化対策が打てなかったので、年金制度そのものに無理が生じているのです」

年金がもらえない!?

 頭に来るのは、年金が減らされるばかりか、手続きミスなどできちんともらえないケースがあること! 

 '07年に発覚した「消えた年金記録」問題の解決は道なかば。昨年9月には約10万人が年金を過少支給されるという「未払い年金」の問題が発覚した。

 これは、主に元公務員の妻のうち、「振替加算」という加算金がもらえるはずの人が、日本年金機構と共済組合の連携不足や機構の処理ミスなどが原因で、もらえていなかったというもの。いったい、どうなっているのか。

「国民ひとりひとりの何十年にもわたる年金データを管理する責任は重大です。なのに、それを取り扱っていた旧社会保険庁、その職員の意識がとんでもなく低かった。年金記録問題が発覚して旧社会保険庁が解体され、日本年金機構に変わってからも、その無責任体質は変わらなかったということですね。

 以前からの年金記録問題については、会社員の年金手続きが各企業にゆだねられていて、そこでのミスも多発したという事情もあるでしょう。元号改正も控えていますから問題が出ないか心配になります」

 これから年金制度はどうなっていくのだろうか。保険料アップや給付減、受給開始年齢の引き上げがささやかれているが、いつ実施されるか気になるところ。

受給開始年齢は70歳に?

「まず検討されるのが、年金の受給開始年齢の引き上げでしょう。すでに法律面での外堀は埋められつつあります。例えば雇用保険。かつては“年金を受給できる65歳からは不要”として64歳までしか加入できなかったものが、昨年1月から65歳以降の人でも加入できるようになりました。

 これは、“年金に頼らずにすむよう働けるうちは働いて”という国からのメッセージです。年金受給者が働いた場合、収入しだいで年金が減らされる『在職老齢年金』も、高齢者の働く意欲を損なうとして、廃止することを政府が検討し始めたところです。65歳以降も働ける環境が整えば、現在の年金受給開始年齢も引き上げられるでしょう

 そのXデーは着実に迫りつつある。

「さしあたっては67歳か68歳あたりになるでしょうか。私は、オリンピックに関心が集まる来年あたりから本格的な検討が始まるのではないかとにらんでいます。

 自分の意思で受給開始を遅らせて年金額をアップさせる『繰り下げ受給』についても、従来は70歳までしか遅らせることができなかったのが、それ以降の年齢も選べるよう検討されています。

 いずれは、受給開始年齢そのものを70歳にすることも視野に入れていることでしょう

 さらにトンデモないプランがある。自民党が6月にまとめた「一億総活躍社会の構築に向けた提言案」によれば、老齢基礎年金の目減りを補うため、高齢者住宅の提供など現物給付を検討するというのだ。

「実現性は低いと思いますが、それだけ財源不足が差し迫っているということ。年金だけでは暮らしていけません、生涯働き続けてくださいというメッセージだと、私はとらえています」

 先が見えない年金制度。私たちにできる対策は?

まず、もらえるはずの年金はきっちりもらうこと。年金記録に保険料未納扱いになっている空白期間がないかチェックしてみましょう。日本年金機構の『ねんきんネット』や年金事務所の窓口で調べられます。

 また、年金給付ダウンを見越して、自分でも年金を用意しておくこと。個人年金保険やiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用すれば、節税メリットも受けられます。そして、長生きリスクを考えて、心と身体の健康を維持するよう心がけましょう」