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『週刊女性』の短期集中連載「動物虐待を許さない!」、第3回では、民家から白骨化した犬の頭蓋骨などが22点も見つかったという、おぞましき事件を追う。悲劇の幕はいかにして開かれてしまったのか──。

〈連載の過去記事はこちら〉
動物虐待、荒んだ現状に犬猫1700匹を救った女性が喝「エサだけあげる人は加害者」
虐待受け全身血だらけ、ふらふらの猫「ぶさお」がそれでも人間とつないだ絆

20数匹が犠牲に

「以前は窓も開けられず、閉め切ったままでずっとエアコンをかけるしかなかった。犬の糞尿のにおいが強烈でベランダに洗濯物を干すとにおいが移るほど。鳴き声もすごかった。多くの周辺住民が苦情を訴えていたけど、まさか室内からそんなに犬の白骨死体が見つかるなんて……」

 と愛犬を散歩させていた近所の主婦は眉をひそめた。

 岐阜県警大垣署が住所不定のアルバイトの男性(69)を逮捕したのは今年4月11日のこと。かつて自宅としていた同県大垣市内の木造2階建て家屋に飼い犬を閉じ込め、エサや水を与えず、糞尿の掃除などもしなかったとして動物愛護法と県動物愛護条例に違反した疑い。いわゆる多頭飼育崩壊の末路だった。

 大垣簡易裁判所は6月6日、検察の求刑どおり罰金10万円の有罪判決を言い渡した。

 きっかけは、今年2月14日に西濃保健所が立ち入り検査をしようとしたところ、男性が拒否したことだった。通報を受けて翌15日に大垣署が同保健所職員を伴って家宅捜索に入った。同保健所を管轄する岐阜県生活衛生課は、

「保健所は周辺住民の苦情を受け、何度もお宅を訪ねるなど対応をとってきました。6年前には狂犬病の注射や掃除、避妊・去勢手術を行政指導しています。昨年11月には犬6匹が外に出ていたので男性に所有権を放棄させて捕獲・保護しました。ほかに20数匹いたことも確認しています

 と、事件を振り返る。

ご主人さまは車上生活

 登記簿などによると、男性宅は1、2階合わせて約93平方メートル。土地・建物とも男性は所有しておらず、月約1万6000円の借地料を払っていた。ところが男性の居住実態はここになく、約5年前から渋いカラーリングの人気国産車で車上生活を送っていた。

犬の白骨死体だらけになった現場。木造2階建ての男性宅は朽ち果て、一部をブルーシートで補強。犬を飼うためだけの家になっていた

 保健所職員が男性と接触するのは容易ではなかったはずだが、携帯電話に連絡しても出ないなど不誠実な対応を繰り返したという。

 家宅捜索時の室内のようすを捜査関係者が語る。

「強烈な糞尿のにおいが漂い床は抜け落ち、糞の塊や動物の毛が大量に堆積していた。そうした堆積物の中から白骨化した犬の頭蓋骨など22点を押収している。きわめて凄惨な光景だった」

 かろうじて生存していた雑種犬が2匹いた。栄養不良で細菌性皮膚炎を発症していた。男性は、

「1月下旬に10日分のエサと水を与えたが、それからはあげていません。決して室内に閉じ込めていたわけではないし、保健所の立ち入りを拒否したわけでもない。急に来られても……」

 などと容疑を一部否認。

 一方、1月下旬にエサをあげたにもかかわらず、2月中旬に家宅捜索を受けるまでの短い期間ですべて白骨化するとも考えにくいが──。

「おそらく最後にエサや水を与えた時点で、すでに餓死や病死、共食いなどで死んでいた犬も多かったのではないか」(前出の捜査関係者)

 裁判では男性の無責任なふるまいが明らかになった。エサをあげなかった理由について男性は、

「(エサを与えるため家に)帰ろうとしたが、犬の鳴き声が近所迷惑になると思い、ずるずると帰れなかった。本当は動物が大好き。かわいそうで申し訳ないことをしました」

 と弁明した。

 周辺住民によると、男性は1週間に1度のペースでエサをあげるため“一時帰宅”していた。男性の車が近づくと、それとわかるのか犬が一斉に激しく吠えるという。部屋をきれいに掃除して毎日エサをあげていれば、そこまで吠えることなどなかっただろう。

 内山真理子裁判官は、「動機は不合理で身勝手。不衛生な家屋で飼育し、1か月以上もエサも水も与えず、動物虐待の態様は悪質。もう2度と、かわいそうな動物をつくることがないよう、気をつけてください」と諭した。

男性はギャンブル依存症、女性に興味ナシ

「2度とかわいそうなことをしないように」と罰金刑を下した大垣簡易裁判所

 古参の近隣住民らによると、現場は男性の実家だった。両親と2男2女の6人家族で、男性は末っ子。「おとなしくて可愛い子だった」(一家をよく知る近所の男性)という。

 小・中学校の同級生は、

「小学生時代から足は恐ろしく速かった。中学生になると体格ががっしりしてきて誰も仕掛けてこないほどケンカが強くなった。学業成績は中くらい。近所の1、2歳上の先輩とつるんで遊んでいたけど決して不良ではなかった」

 と証言する。

 動物にやさしい一面も持ち合わせていたという。

「野良の子猫が雨に濡れていたら、タオルでふいてあげていたぐらいだから」(同)

 高校を卒業後、実家を出て大阪で電気技師の資格を取得し、Uターンして地元の紡績会社で働いた。

「実家には戻らず、夜勤シフトの寮生活だった。20代から競輪に夢中になってね。あれはギャンブル依存症だよ。大垣競輪だけでなく、岐阜、一ノ宮まで行く。“昼間は競輪で忙しいから夜勤をやっているんだ”って言うのよ。

 メシと寝床は確保しているから給料なんて5日でなくなっちゃう。パチンコはやらない。勝っても桁がちがうでね」(同)

 酒も強かったが「水と一緒だから」と飲まなかった。酒に金を使うのはもったいない感じという。女性にも興味を示す素振りはなく、独身を貫いている。

 転機は、40数年前。母親が他界し数年後に父親も亡くなった。さらに3年後、11歳上の実兄が仕事中に事故死。実家で生活する家族がいなくなり、ひとりで暮らすようになった。その当時、そこらにいた捨て犬を拾って、飼い始めたのが多頭飼育のきっかけだったようだ。

「最初は2匹のつがいだったけど、避妊・去勢をしないから、あっという間に増えたみたい」(前出の近所の男性)

 その後、大垣市内の大手化学関係会社に転職し、定年延長して65歳まで勤めた。

「仕事はセロハンの製造部門でしたが、無遅刻、無欠勤でまじめでした」と元同僚。

 男性は有罪判決後、車上生活に戻ったとみられ、また新たな問題が発生しつつある。男性宅に猫が3匹ほどすみついており、その猫たちに男性はまた週に1度の割合でエサをあげに訪れている。

現在は猫が3匹すみついている

 今年1月初めに28匹いた犬を、ほぼ餓死させた事実を忘れてはいけない。昨年11月に生きて捕獲・保護された6匹のうち1匹は里親が見つかって譲渡されたものの、残る5匹は殺処分された。2月に生き残っていた2匹もすでに殺処分になっている。

 週刊女性はさまざまなかたちで男性と接触を試みたが、男性からは連絡をもらえなかった。

(フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班)


〈PROFILE〉
やまさき・のぶあき 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物などさまざまな分野で執筆している