規制線の張られた奥田交番前には献花台が設けられ手を合わせる人が絶えない

 交番を襲撃して警察官を刺殺し、奪った拳銃で小学校の男性警備員を射殺した富山県の拳銃強奪殺人事件。

 逮捕された元陸上自衛官の島津慧大容疑者(21)は、市街戦のゲリラ兵か、はたまたサバイバルゲームのプレーヤーのように人目を避けて俊敏に動き、静かな住宅街の日常をどす黒い血で染めた。

殺害された警察官とは面識があった

 事件を起こした6月26日、交番を襲撃する直前の島津容疑者は、今年4月から短期雇用で勤めていたアルバイト先のファストフード店にいつもどおり出勤していた。

「店長が掃除を頼んだところ何も言わずににらみつけて、突然殴りかかったそうです」

 と同店関係者。

自衛隊入隊前の島津容疑者(『広報たてやま』より)

 殴りかかったのは午後0時半過ぎ。店長は左肋骨の骨折と左手親指脱臼の大ケガ。島津容疑者は上下ユニフォーム姿だったが、上着のポロシャツをその場に脱ぎ捨てて、同1時過ぎには私物の黒いリュックを持って店を出て行ったという。

 事件前のこの行為を、犯罪心理学の専門家、東京未来大学の出口保行教授は、

「この日が決行日と、本人は決めていたのでしょう。仕事先で気に入らないことがあっても我慢する必要はなかった」

 と分析する。さらに、

「交番を襲撃し、小学校に乗り込んでいこうというのが本人のプランですが、極めて計画性が高い犯行です。交番と学校の位置関係が近いところを、だいぶ探したと思います。下見も事前の偵察もしていたでしょう。あれだけの犯行を、場当たり的にできる人はまずいない」(出口教授)

 と用意周到さを見て取る。

 襲撃する交番は事件前に何度か訪ね、殺害された所長の稲泉健一警視(46=2階級特進)との面識もあったという。

 島津容疑者が下見をしていたことは、裏口から交番を訪ねていることからうかがえる。

「裏口があるなんて、全然知らなかったです。交番のすぐ近くに住む人じゃないと知らないんじゃないですか」

 と地元の男性住民(40代)も犯行の計画性を感じ取る。

 島津容疑者は裏口から侵入し、ナイフで稲泉警視をめった刺しにした。

 富山県警は「全部含めると30数か所。深いもので13センチの傷で、内臓に達していた」と明かした。

 交番にはもうひとり、相談員(60代の県警OB)がいた。すぐ交番前の美容院に駆け込み、110番通報を要請した。

「その間、島津容疑者は奪った拳銃を構えながら、まるで戦地の敵施設内を索敵するように数分間滞在。その姿が防犯カメラに残されていたそうです」(全国紙社会部記者)

 交番から小学校までは、直線距離で約80メートル。だが島津容疑者は直接向かわずに、住宅街の路地や地元の人もほとんど通らない農道に姿を隠した。駆けつけた警察官のほとんどは大通りにいたため、細い通りに逃げ込んだ島津容疑者には好都合だった。

2万円するイスラエル軍の止血帯

 住宅地の中、民家の裏の細い路地、用水路に沿った農道をいくつか曲がりながら、小学校へと向かっていく。島津容疑者が通った道には、血のあとが点々と残されていた。

容疑者が目撃された民家の壁には血痕が残る

 移動には側溝を利用した可能性もある。小学校の近くには深さ約1メートル、幅約60センチほど、かろうじて人がひとり通れる側溝がある。

「見つからないように側溝をほふく前進していたのでは」(交番近隣の70代女性)

 地元住民が事件に気づいていない時間帯に、この女性は島津容疑者を目撃していた。

「飼い犬が2匹いるんですが、外に向かってワンワンと鳴きやまなかったんです。どうしたんだろうと思って、網戸を開けてみたら、隣の家と隣接する幅60センチぐらいの隙間にあるブロック塀に腰かけている人物が見えたんです」

 女性はすぐに外に出た。よく見るとその男性は、地面に腹ばいになって、ほふく前進のような姿勢をとっていた。

「てっきり私は“誰か近所の人が草むしりに来たのかな”って思ったんです。次の瞬間、一瞬目が合いました。黒いリュックを背負っていました。すぐにうちの敷地から出て行きましたが、血がついたタオル2枚が残されていました」(前出・70代女性)

民家の隙間に落ちていた血まみれの止血帯

 女性がタオルだと思ったものの1枚は止血帯。ネット上で2万円で販売されるイスラエル軍のものとみられる。

 農道を歩く島津容疑者を目撃した男性は、

「小学校方面から引き返すように歩いてきましたが、私と目が合うとすぐに目をそらして、もと来たほうへ農道を歩いて行きました」

 交番襲撃から約20分後、パン、パン、と2回の銃声。

 目撃した知人に詳細を聞いた男性住民は、こう証言する。

「島津容疑者は、倒れている警備員の中村信一さん(68)のほうに拳銃を投げたそうです。銃弾を撃ち尽くしたんでしょうね。その後は斧を持って警察官に向かったところ、撃たれたそうです」

 この日、容疑者が所持していた凶器は山刀や斧、サバイバルナイフなど数点で、黒いリュックに入れて持ち運んでいたとみられる。

秋葉原の通り魔と同じ“ゆがみ”

 島津容疑者は3人きょうだいの末っ子で、同県立山町で両親と3人暮らし。

「父親はPTA会長をしたりかなり厳格な人。18歳になったとき、自衛隊に無理やり入れたのも父親だと聞きました。昨年3月の除隊後、実家に戻ったとのことです」

 と島津家の事情を知る人物。

 中学校3年のとき不登校になり、高校には進学していない。家庭内暴力が最近もあったという一部報道もある。6月27日の容疑者宅捜索ではマシンガン型モデルガンや模造刀といったミリタリーグッズなどが大量に押収された。軍事オタクだったのだろうか。

 犯行動機など事件の全容解明は容疑者の回復を待つしかないが、無差別殺傷を想起させるこの事件は6月9日の東海道新幹線殺傷事件と共通点がある。

 島津容疑者は同事件の小島一朗容疑者同様、中学時代は剣道部で、腕に覚えがあった。個人的な恨みや怒りの矛先を関係ない人に差し向けた疑いがある。

 前出・出口教授は、犯行心理について、こう見解する。

「テロですね。誰でもいいから殺傷して社会に動揺を与えようとする事件。社会に評価されてこなかった、その原因は社会にあるとぶつける。秋葉原の通り魔事件と同じゆがみです。注意しても防ぐのは難しいですよ」