かつてお家芸だったドラマから、復活の兆しが見えてきているフジテレビ

 7月26日の昼ごろに何げなくインターネットを開いたところ、Yahoo!のトップ画面に「フジの稲垣起用 芸能界に衝撃」(日刊ゲンダイ)というニュースを見つけました。

 その内容は、「昨年9月にジャニーズ事務所から独立して以降、稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんの3人は、民放地上波のテレビ番組にほとんど出演していなかったが、フジテレビが8月18日放送の『ほんとにあった怖い話 ー夏の特別編2018ー』に稲垣さんを起用すると発表した」というもの。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 この情報自体は知っていましたし、「いやいや、出演と言ったって、本格的なドラマではないし、俳優としてではなく、例年どおりのストーリーテラーでしょ」と冷静に受け止めていました。

 そもそも3人の独立後も、今年2月に「欽ちゃん&香取慎吾の第95回全日本仮装大賞」(日本テレビ系)へ香取さんが出演するなど、民放地上波の番組への出演は初めてのケースではないのです。

 実際、27日に行われたフジテレビの定例会見で編成担当の石原隆取締役が、「もともと(稲垣さんに)レギュラーで出演いただいていた番組で、『これまでどおり』ということ」「その番組にとっていちばんいい形を選んだ」とコメントしていました。

 ただ、よくよく考えてみると、「もしかしたらこれは3人にとってきっかけの第一歩になるかもしれない」「フジテレビも逆境を覆す最大のチャンスかもしれない」ということに気づいたのです。

「独立から1年」という節目のタイミング

 前述したように、3人がジャニーズ事務所から独立したのは昨年9月。

 まもなく1年になることで、いわゆる芸能界独特な商慣習としても「そろそろ地上波の番組に出てもいい」と言われる節目のタイミングです。たとえば、「今、3人に番組改編期の秋や年末特番へのオファーをしても問題ない」ということになります。

 また、3人を見る世間の目は優しくなる一方。「育ててもらった以上の利益を長年ジャニーズ事務所にもたらしてきたはず」「40代になるまで独身のアイドルとして事務所に貢献してきたのだから、もう自由にしてあげてほしい」という見方が大半を占めているほか、独立後も明るく前向きに活動する姿を好意的に受け止めています。

 さらに、SNSやインターネットテレビ、動画配信サービスなどが普及し、テレビ出演を制限されたところで、その効果は限定的に過ぎません。

 むしろ、「テレビ局がジャニーズ事務所への忖度(そんたく)で3人の出演を見送り続けることで、イメージダウンはおろか猛烈なバッシングを食らいかねない」というリスクがあるくらいです。

 もう1つ見逃せないのは、「芸能人の独立・移籍に制限をかける行為は、『独占禁止法』に抵触するおそれがある」と公正取引委員会が調査に動いていること。当然、芸能事務所も、テレビ局も承知していることだけに、露骨な圧力や忖度はできない状況に変わりつつあるのです。

 さまざまな点から「芸能事務所への忖度」という不透明な商取引が限界に近付いていることが理解できるのではないでしょうか。そんな状況の下で、稲垣さんとフジテレビにひさびさの接点が生まれたのです。

 もともと稲垣さんは、フジテレビの連ドラ4作に主演したほか助演も多く、「ほんとにあった怖い話」も14年間にわたって出演。草なぎさんも、フジテレビの連ドラ13作で主演を務めたほか、「チョナン・カン」「僕らの音楽」「FNS歌謡祭」などでMCも務めました。香取慎吾さんも、フジテレビの連ドラ8作に主演したほか、「おじゃMAP!!」「笑っていいとも!」などに長年出演。

 SMAP時代の看板番組「SMAP×SMAP」を放送していたことも含め、フジテレビは、どの局よりも3人を起用していました。そんな過去を振り返ると、双方に「リスタートはフジテレビから」という思い入れがあったとしても不思議ではないのです。

ドラマが支持されはじめたフジテレビ

 一方、2010年代に入って激しくなっていたフジテレビへの批判は、ようやく収まりつつあり、視聴率も下げ止まりの感があります。

 その要因となっているのは連ドラの好調。現在フジテレビがプライムタイム(19~23時)で制作している連ドラは、「月9」(月曜21時~)と「木曜劇場」(木曜22時~)の2本(火曜21時~は関西テレビ制作)ですが、昨年秋あたりからそろって視聴者の評判がいいのです。

 月9では「海月姫」「コンフィデンスマンJP」、木曜劇場では「刑事ゆがみ」「隣の家族は青く見える」「モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―」が視聴率こそ1ケタで低迷したものの、ネット上の評判はつねによく、ひいては「フジテレビのドラマは面白くなった」という声が徐々に広がっていきました。

 私自身も審査員を務める「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」(オリコン)でも、昨秋に「刑事ゆがみ」が作品賞と主演男優賞(浅野忠信さん)を、今春に「コンフィデンスマンJP」が主演女優賞(長澤まさみさん)と脚本賞(古沢良太さん)を、「モンテ・クリスト伯」が主演男優賞(ディーン・フジオカさん)を受賞するなど、優れた作品を連発しているのです。

 そんな追い風に乗った今夏の連ドラも、月9の「絶対零度 ~未然犯罪潜入捜査~」、木曜劇場の「グッド・ドクター」の両作とも2ケタ視聴率をキープしています。連ドラは話題性の高さから、視聴率の数字以上に視聴者のイメージを左右するテレビ局にとって重要なコンテンツ。

 たとえば、TBSが不振を脱出できたのも、「半沢直樹」「下町ロケット」「逃げるは恥だが役に立つ」などの連ドラで勢いをつけてからバラエティを立て直したからと言われています。

 7月27日に公開された劇場版「コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―」が興行収入100億円を視野に入れたロケットスタートを切ったことも含め、「かつてお家芸だったドラマから復活させる」という第1段階はクリアしているのです。

日テレはバラエティ好調だが油断できない状態

 フジテレビに取って代わる形で視聴率トップの座に君臨する日本テレビに目を向けると、現在はTOKIOとNEWSの不祥事で直接的なダメージを受けたほか、「ジャニーズ事務所への忖度を感じた一般の人々から批判を受けはじめている」という波乱含みの状態。

 バラエティの好調もあって「全体の視聴率に影響はなさそう」に見えますが、かつてフジテレビもそうだっただけに、油断できない状態とも言えるでしょう。

 前回のコラム「苦境ジャニーズが各局に仕掛けた全方位営業 テレビの『Jr.』大量露出は先行投資か、忖度か」で、民放各局は若手ジャニーズタレントの大々的なPRに協力していることを書きました。

 ただ、春以降に出演を増やした他局に対して、フジテレビはジャニーズJr.の冠番組を3月で終了。「両者ともに、取引先としての優先順位が落ちているのではないか」と感じてしまうのです。

 これまでジャニーズ事務所は、強気の営業で各局のさまざまな時間帯とジャンルの番組にタレントを送り込んできましたし、私自身テレビや雑誌の現場でその様子を見聞きしてきました。

 言わば、BtoB(企業間取引)の強さをBtoC(企業対消費者間取引)につなげてきましたが、この強気の営業スタイルがうまくいかなくなりはじめているのです。

 SMAPの解散騒動以来、ジャニーズのタレントを応援しているファンの人々ですら、ネット上に事務所への不信感をこぼすようになりました。

 さらに、稲垣さん、草なぎさん、香取さんが地上波の番組にほとんど出られない中で、TOKIOとNEWSの不祥事が起きたことで、世間の目はますます厳しいものになっています。

BtoBに強い反面、BtoCにカゲリ

 騒動が続いたことで、「BtoBはまだ変わっていないけど、BtoCがうまくいかない」という危機がジワジワと進行……。ファン離れ、新たなファンが生まれない、ファン以外からの猛反発など、C(消費者)にネガティブな意識と行動が見られるのです。

 だからこそフジテレビは、他局とは異なる「ジャニーズ事務所に忖度しない」「視聴者ファースト」のスタンスを世間の人々に見せるチャンス。その世間の中には、テレビ局にとって極めて重要なスポンサーが含まれているのは言うまでもありません。

 テレビ業界や芸能界は多くの人とお金が動くこともあって、根回しや調整が重視される世界。「自社の経営判断が絶対」というより、「スポンサーや業界内、世間の声を踏まえて意思決定していく」ことが多く、物事が動くペースが遅いところがあります。

「ジャニーズ事務所への忖度で3人にオファーしない」のも、チキンレースのような状態が続いているからと言えるでしょう。

 しかし、独立からまもなく1年というタイミング、フジテレビの連ドラ復活の兆し、ジャニーズ事務所との結び付きが強い日本テレビへの批判……あらゆる意味で、フジテレビにとって今がチャンスではないでしょうか。

 今やらなければ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京に先んじられる可能性もあるでしょう。忖度に風穴を開けるのは、どのテレビ局なのか? フジテレビは業界にも大きな影響を及ぼすであろう英断を迫られているのです。

「SMAP解散前のように、稲垣さん、草なぎさん、香取さんをテレビで見たい」「視聴者より芸能事務所優先の姿勢に辟易としている」という人々の思いに応えられるか。いきなり3人の冠番組を始めるのは難しいかもしれませんが、連ドラや音楽番組に登場させるだけでフジテレビのイメージ回復は進み、復活が本格化していくでしょう。

偉大なるSMAPの中間管理職

 最後に、今回の主役である稲垣さんについて。

 もともと稲垣さんはSMAPメンバー5人の中でも連ドラ初主演の時期が最も早く、エース格の存在でした。当時まだ18歳だった1992年、月9「二十歳の約束」で初主演を飾ったほか、翌年には『プライベート・レッスン』で映画初主演も務めるなど、華々しいスタートを切っていたのです。

 その後は、トーク力を前面に出した中居正広さん、カッコよさを前面に出した木村拓哉さん、人の良さを前面に出した草なぎ剛さん、元気を前面に出した香取慎吾さんとは一線を画すように、稲垣さんは中庸的な立ち位置へ。

 年上の中居さんと木村さん、年下の草なぎさんと香取さんに挟まれた真ん中世代ということもあり、「まるで調整役のように一歩引いたところから見ている」という印象を与えていました。

 稲垣さんをビジネスパーソンにたとえると、「同期の成績トップで入社したけど、しだいに成績が真ん中に落ち着き、中間管理職としてバランサー役に回るようになった」という状態です。

 稲垣さんはSMAPメンバー内だけでなく、俳優としても主演を引き立てる助演に回ることが増えましたが、むしろそのことで魅力アップ。共演者から「稲垣さんと共演したい」、制作サイドから「ゴローちゃんに悪役をやってもらいたい」などと求められるタイプの俳優になりました。

 これをビジネスパーソンにたとえると、同僚から「稲垣さんと一緒に働きたい」、経営者から「稲垣くんにプロジェクトのサポートを頼みたい」、取引先から「この仕事は稲垣さん担当でお願いします」と言われているようなものです。

 SMAPという偉大なグループの中間管理職を務め、個人では社内外から幅広い役で求められる。そんな過去を持つ稲垣さんだからこそ、「地上波本格復帰への突破口となるのではないか」という期待感を抱いてしまうのです。

 取材で会ったときの稲垣さんは、テレビ画面から伝わるとおりの穏やかな人柄でした。共演者も視聴者も気軽にツッコミを入れたくなる等身大のたたずまいも含め、年齢を重ねるごとに魅力を増し、愛されるタイプだけに、フジテレビに限らず活躍の場が増えることを願っています。


木村 隆志(きむら たかし)◎コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。