容疑者の自宅アパートのベランダには、長男のものと思われる緑色の子供用の靴が置かれていた

 埼玉県草加市ーー。今年1月13日から14日にかけての、事件現場付近の最低気温は氷点下1・2度。暖房がなければ、家の中でも凍える厳しい寒さ。

 そんな状況下で、生後8か月の女児は、自宅トイレで約20時間にわたり放置された。

「着衣は紙オムツのみで、首元から下はビニール袋に入れられていました。スーパーのレジ袋のようなものです」

 そう話すのは捜査関係者。

左足の指先が青色に変色

 放置したのは、母親の無職・上久保明日香容疑者(24)。8月13日、保護責任者遺棄致傷の疑いで、埼玉県警草加署に逮捕された。

「ビニール袋に入れた理由は、おむつを交換しておらず、便や尿が床に漏れるのを防ぐためと供述しています」

 と同捜査関係者が明かす。

 女児は左右両足に、全治約3~6か月の凍傷を負っていたという。異変に気づいたのは、女児の祖母だった。

「1月15日に被疑者と子ども2人が、都内にある母(女児の祖母)宅を訪れ、祖母が女児の足の先が青色に変色しているのを見つけ119番通報した。救急搬送先の病院が情報提供し、発覚しました。

 搬送時には低体温症の状態で、栄養不良、意識障害を起こしていました」(同捜査関係者)

 変色していた女児の左足の親指と中指は、欠落……。さらに全身には約20か所の骨折があり、日常的に虐待が行われていた疑いで捜査が進められていた。

 埼玉県の上田清司知事は事件後の会見で、

「医療機関から昨年7月10日の時点で母親の挙動に関して難点ありというような通告が児童相談所に入っています。何か他人顔をしていたと。おやっ? という印象を受けた医師から児童相談所に連絡があって、要注意だというような判断から児童相談所と市が常に毎月1回、訪問する仕組みにした背景があったそうであります」

 などと、事実関係をつまびらかにした。

 母親は指導に従い毎月1回、医療機関を受診していたという。事件直近の受診は、昨年12月20日だった。

 上田知事は毎月の訪問の中で見抜ける眼力、直感力があればまた違った展開になったかもしれないと語ったが、行政が注意深く見守っていたにもかかわらず、その見抜く力が発揮されることはなかった。

「8か月の赤ちゃんは見たことがない」

 担当した越谷児童相談所の草加支所所長は、

上久保容疑者一家を支援していた越谷児童相談所の草加支所

「児童相談所や市役所など複数の関係機関が連携し、家庭の養育上の支援をしていたということです。長女に関してだけでなく、ご家族を支援していた。昨年の7月に医師から情報提供を受けて同月に家庭訪問を開始しています」

 と振り返った。

 事件直前の1月11日には、同市の職員が上久保容疑者宅を訪問していた。

 上田知事は「1月11日の訪問で様子が見れなかったことがちょっと残念ですね。このときに様子が見れていたら、外傷がわかったかもしれません」などと悔しがる。

 草加市広報課によれば、訪問したのは虐待に対応する課の職員ではなかったという。

「別の業務を所管する職員が別件で訪問をしました。そのため、子どもを確認する要件ではなく、母親とのやりとりで終わるものでした。

 複数の関係機関が連携して支援をしていたこともあり、所管する範囲の中で役割分担をしているということです。縦割りと言われればそうかもしれませんが……」(広報課)

 激しく虐待をしている家があれば、親の怒鳴り声や子どもの泣き声といった異変が隣近所に漏れたりするものだが、上田知事は会見で「通報はなかった」と明かした。

 上久保容疑者が住むアパートは築24年の軽量鉄筋2階建て。容疑者は1階に、長男(2)、長女と暮らしていた。近所の住民によれば、一家が引っ越してきたのは「2~3年前かな」という。

「男児と手をつないで買い物に行っていた」「Tシャツにジーパンで化粧もせずラフな感じ」という証言と同時に複数聞こえてきたのは、「8か月の赤ちゃんは見たことがない」という証言だ。

 同じアパートに住む男性は、

「子どもが泣いていたり、ドドドドドと走り回るような音は聞こえていました。ただ、ギャーとか異常な泣き方をするような感じはなかったです。それ以外の声や音はまったく聞こえなかったですね」

 と話す。そして、

「今年の春ぐらいだったか“いつもうるさくてすみません”と言われ“大丈夫ですよ”と答えたのを覚えています。おとなしそうな女性です」

一緒に住む男性の存在

 虐待が発覚した後も、長男とアパートで生活をしていたのか。前出の児相所長は、

「現在は2人とも児童相談所の保護下にある。長女は発覚後に即日保護しましたが、長男についてはお答えできない」

 また、近隣の70代男性からはこんな話が聞けた。

「一緒に住んでいた男性が父親だとばかり思っていた。上久保容疑者と一緒に車で帰って来ることもありました。言われてみれば昨年春には、おなかが大きかったのは覚えていますが、夫婦と子ども1人の3人家族と思っていました。男性はいまもアパートに住んでいますよ」

 その男性(※草加署は8月28日、同居する元夫・上久保雄太容疑者=36歳=を保護責任者遺棄致傷容疑で逮捕。容疑を否認している)が一緒に住んでいたのか、どのような関係性かは定かではないが、自らの子に手をあげた上久保容疑者をどう見ていたのだろうか。

今年1月から慎重に捜査を進めていた草加警察署

 被害女児について前出・捜査関係者は、

「生まれつきの発育不良があり、0歳4か月程度の体重であった。未熟児の状態で生まれてきたとのことで、通常の児童より発育が遅かった。ハイハイもできなかった」

 母親がより手をかけなければならないはずの子どもを逆に放置し、見放した。

 その理由は、

「子育てがうまくいかず、かわいいと思えなかった、と話し、容疑を認めています」(前出・捜査関係者)

 社会心理学者である新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は、虐待を受けやすいケースとして「手のかかる子」を挙げる。

「手のかからない子は愛着が湧きやすく、かわいいと思う。一方で、手のかかる子は自分の思いどおりには育たない。未熟児として生まれ、シングルマザーとして孤独な子育てを強いられた末、この子が私の幸せを奪っていると追いつめられていったのかもしれない。

 子どもを(トイレに)閉じ込めるというのは、自分が虐待しているという現実を見ないようにしていたのでは

 長女はやがて成長し、自らの人生を歩みだす。その歩みの中で、足の指の欠落した理由を知ったとき、彼女は何を思うだろうか。