テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

徳永えり(左)と真野恵里菜

 

オンナアラート #19 深夜枠ドラマ

 この夏、深夜枠のドラマが大変なことになってるよ! 

 女性が自由闊達(かったつ)に、縛られることなくあるがままに生きていける世界を描いてほしいとは思っているのだが、「おいおい、それはいくらなんでもやりすぎじゃないかい?」という作品もいくつかある。このオンナアラートで、3つまとめて紹介してしまおう。

「男は買えばいい」の裏にある負担はデカイ

 まずは、男性をまるで奴隷のように購入する『彼氏をローンで買いました』(フジテレビ系・毎週金曜24時55分)。

 主演は真野恵里菜。大手外資系商社の受付嬢で、高給取りの男をつかまえて、専業主婦になることが「女の幸せ」と信じている。実際にエリート彼氏(淵上泰史)がいるものの、彼は他の女性と浮気しまくり、嘘つきまくり。ひどい扱いを受けている。

 そんなときに出会ったのが、伝説の受付嬢と崇(あが)めていた長谷川京子。

 エリートと結婚したものの、猫をかぶって生きる自分に嫌気がさして、離婚。シングルマザーでコンビニ店長となった長谷川はすっかりやさぐれているが、不幸ではない。むしろ解放感と多幸感に満ちている。その秘密は闇サイトで、ローンで購入した若い男にあった。

 真野もそのサイトを紹介されて、ついうっかり若い男(横浜流星)を月々39800円で購入してしまう。総額500万、つまり10年以上のローンだ。

 彼氏の前では「理解ある女」を演じて猫をかぶり、ストレスをためる真野だが、購入した横浜に対してはストレスをぶつけ放題、こき使いたい放題。「ナプキン買ってこい」「私はなめない、お前がなめろ」などと、本音をぶつけまくる。

 その快感と、多額のローンというヒリヒリ感のてんびん状態に。真野はこれを機に、本当の幸せに気づいていく……のかもしれない。

「金で買う」行為は男も女も人権侵害、と目くじら立てるつもりはない。ドラマだし。ただ、そのへんの買春男と違って、真野が背負わされるのは多額のローン。いやいや、大変だよ、月々39800円にしたって。絶対買っちゃいけないヤツでしょ。アラート鳴るよ。

 さらに、真野の同僚受付嬢たち(小野ゆり子・久松郁実)の、もはや宗教と言えるレベルの「エリートと結婚するための勝ち組マニュアル」が胸糞悪い。

「男に寄せて上げて、浮気されても不平があってもすべてを飲み込み、墓場まで猫をかぶってニャンニャンニャン」。

 若い女性たちが本気でそう考えているとしたら末恐ろしい。今の若い娘はそこまで間抜けじゃない、ちゃんと自分の人権意識をもっている、と思いたいよ、おばちゃんは。

 真野が本音をぶちまけて、男社会への呪詛(じゅそ)と怒りを吐き出すシーンを見て、スッキリするかと思ったんだけど、そうでもなかったな。それよりもローンの負担が大きすぎて。結局、なんだかんだいって、いろいろと背負わされるのは女だよな、とうなだれるのだ。

「浮気相手が15歳」はそりゃあ大問題

 もうひとつ『恋のツキ』(テレビ東京系・毎週木曜25時)は、なかなかの問題作だ。

 31歳のフリーター女性が男子高校生に恋をしてしまう物語。主演は徳永えり。映画館でバイトをしている徳永は、サラリーマンの彼氏(渡辺大知)と同棲3年。大きな不満はないが、結婚や出産などの具体的な方向には進まず、なあなあに暮らしている。ときめきは一切ない。枯渇した日々。

 ある日、徳永は偶然、同じスニーカーを履いていた、顔がめちゃタイプの男子高校生(神尾楓珠)と知り合う。胸がときめき、思いを抑えきれずに肉体関係に誘ってしまう。神尾もすっかり徳永に惚れこみ、ふたりは密会を重ねるも、渡辺にバレてしまった。

 徳永の心の逡巡(しゅんじゅん)は、31歳という年齢の女性を実にこまやかに体現している。

 高校生に恋をした自分への戒め、罪悪感、それでも抑えきれない性衝動、いずれ捨てられるという不安、若さゆえの一途さに対する恐怖、忘れていた「恋の喜び」……。いや、しかし、15歳はアラート鳴らさざるをえない。男女逆パターンを考えると、すごく気持ち悪いので。

 でも面白いもので、「恋は盲目」というけれど、逆なんだよね、女は。徳永は神尾と密会するようになってから、同棲する渡辺に対する小さな不満がどんどん積み上がっていく。

 たとえば、「自分はしないくせに前戯を要求」「セックスは減ってる割に、隠れてするマスターベーションは頻繁」「カレーを作ったと張り切る割に、米炊いてねぇし」「何度言っても雑巾と布巾の違いがわからない」「ゆですぎたそうめんを見て、お前みたいだと無神経発言」「お茶をこぼしても、体より指輪の箱を心配する」「飲み代も食費も賃貸更新料も立て替えさせられる」……。

 浮気相手との恋は盲目だが、彼氏との日常については逆に開眼、不満が一気に噴出していく。面白いなぁ、女って。イヤなところがどんどん視界に入ってきちゃうんだね、比べる対象があると。そのリアリティが生々しいったらありゃしない。

タブーを楽しむ。最終的には女不要論へ

「男を金で買う」「未成年に手を出す」。要するに、タブーだ。ゴールデン・プライム枠で決して踏み込まない毒気を深夜枠が担う。

 アラートを鳴らしてはいるが、実はすごい好きだ。これらを「やるな」とは決して言わない。入口やテーマがタブーであっても、女が自由になるために、いわば名誉の負傷みたいな描き方は大歓迎だ。

 そこで、もうひとつ。『ポルノグラファー』(フジテレビ系・毎週水曜25時25分)は、いわゆるイケメンBLドラマだ。

 男子大学生(猪塚健太)が自転車で事故を起こしてしまう。相手は官能小説家(竹財輝之助)で、腕をケガさせてしまう。貧乏学生の猪塚は治療費や示談金を払えない代わりに、口述筆記のバイトを引き受けることに。このイケメンふたりが官能小説を通して、恋に(性愛に)目覚めていくっつう物語。

 BLはタブーでもなんでもないんだが、とうとうここまでド直球のBLがドラマになったかと思うと感慨深い。恋愛ドラマに女なんて不要というのが、むしろ清々(すがすが)しい。

 女が出てこないのでオンナアラート鳴らしようがないんだけど、これはこれで眼福というか、満足。ぜひ、深夜枠の生々しい恋愛モノを見てほしい。久々に「むふふ」感を味わえるよ。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/