早霧せいな 撮影/佐藤靖彦

 凛々しい剣心の袴姿でスタジオに現れた早霧せいなさん。

「初演は2年前になるんですけど、衣裳を着て刀を持つとポーズとかも自然に思い出すんだなと実感しました。身体に染み込まれている感じですね」と爽やかな笑顔を見せた。

 10月に上演される浪漫活劇『るろうに剣心』で、再び主人公・緋村剣心を演じる。’16年に宝塚歌劇団で初めて舞台化され剣心を演じ高い評価を得た早霧さんが、退団後に男女の枠を超えて同役を演じるというかつてない試みも話題だ。

男女はそんなに変わらない

 再び剣心を演じることについて、ご自身はどんな思いがあるのか。

やると決心するまでには、すごく悩みました

 やっぱり男役というものは宝塚のものというか現役生がやってこそのものだと思っていたので、退団した自分がやっていいのかという抵抗感もありましたし。それに『るろうに剣心』はものすごくハードな公演なので、男役ではなくなった自分が現役の研ぎ澄まされたときと同じポテンシャルに持っていけるのかなっていう不安もあって。

 でも退団して1年たって、ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』で女性を演じて、人間が人間を演じるといううえでは男女はそんなに変わらないんだなという経験を得られたので、今は男役ではありますけど剣心という人物を演じるという思いでいます。

 そして退団して視野が広がりましたし、男役をやり続けてきた力みがいい意味でとれているので、以前よりも大きくて深みのある剣心に挑戦できるんじゃないかなと思っています」

ファン待望のタッグ

 今作は宝塚版も手がけた小池修一郎さんが脚本・演出を担当。早霧さんと再びタッグを組むのもファンには楽しみなところ。

「小池先生が演出されるというのは、今回の出演を受けた最後のひと押しではありました。自分の気持ちの中で、小池先生で『るろうに剣心』をやるときに、自分以外の剣心が舞台上にいるのを見るのは寂しいなって思ったんですよね。

 初演で剣心を演じた経験値をふんだんにいかしつつ、先生とともに新しいものを作っていきたいです

男性俳優との共演

 剣心の人生に大きく関わってくる少女、神谷薫役の上白石萌歌さんほか、松岡充さん、廣瀬友祐さん、三浦涼介さん、植原卓也さん、松岡広大さんなど、舞台でも活躍する豪華キャストが出演。男性俳優との共演で役作りはどう変化するのか?

「自分自身で何かを変えるというよりも、目の前に来た役者さんとのやりとりで絶対に変わってくると思っているので、あまり作り込みすぎたくないですね。

 それと今回は異性を演じる私だけがリアリティーとは違うのでバランスがすごく難しい。子役の子が演じる弥彦のお母さんみたいにならないように気をつけようと思ってます(笑)。弥彦役は10歳くらいの男の子たちなんですけど、その子たちの前では、お兄ちゃん的な人でいたいなと思うんですね。

 だから稽古場に入ったら早霧せいなじゃなくて、剣心でいればいいんだなって思っていて。そこはいつもと違うかもしれないです」

 激しい殺陣のシーンも『るろうに剣心』の大きな見どころだが、早霧さんが楽しみにしていることでもある。

「久しぶりに立ち回りをやって、めちゃくちゃ心が震えて、“楽しい~”って思ったんです(笑)。そこはすごく楽しみです。

 今回は男性と一緒にやるわけなので、女の人と男の人が戦っているって見えたら終わりなので、剣心の殺陣の見せ方のレベルに持っていくのには、時間と体力作りは必要だなと思ってます。剣心って舞台の表でも裏でもめっちゃ走るんですよ。精神と体力を鍛えて、そこはまた頑張らないと(笑)

空気の吸い方から変わった

早霧せいな 撮影/佐藤靖彦

 昨年7月に宝塚を退団して1年がたって、さまざまなことが変化していると言う。

「まず、空気の吸い方から変わったかもしれない

 宝塚時代はずっと研ぎ澄まされていて、常にやるべきことが目の前にあるから、視野も狭くなってそこしか見えていないから、自分の目の前の空気を吸うので精いっぱいでしたけど、辞めてからは遠いところの空気も吸っている感じで、は~って解放感に満ちあふれている。でも、当時は必要なことではあったと思います。

 今は早霧せいなとしての自分しかしょってないですけど、あのときはやっぱり雪組という大きい組の看板であるとか、5組のトップのひとりとして宝塚を背負っているとか。

 あとは組子みんなのこともとても意識していたので、自分の行動や発言のすべてが、みんなを背負ったものになるんだと思うと、こう脇目もふらず一直線に進むしかなかった状況だったなとは思いますね。

 それが、いったんその荷を下ろすというか、次の世代の子に渡したことである意味、楽になった。

 今までは後ろを振り返れば仲間たちがいたけど、今はひとりなんだっていう寂しさはもちろんあるんですけど、なんかちょっと大人になった気分っていうか、もうひとり立ちしていいんだ、違う道をひとりで歩き出していいんだなって、気楽になりました」

 プライベートでの変化は?

「ケガをしたくなくてスポーツとかを控えていたんですけど、キックボクシングをやったりとか。テニスとかスカッシュとかもしたいので、一緒にやってくれるアクティブな仲間を増やしたいですね。あとは、ピアスをあけたのは大きい変化かもしれないです」

読者へメッセージ

 では最後に読者へのメッセージをお願いします。

「深い縁を感じている作品なので、そのご縁というか、この機会をすごく大切にするからこそ、前をなぞるのではなくて、やっぱり新たな気持ちで、共演者のみなさんに負けないように思いっきり生き抜きたいです。そして、何よりもお客様に喜んでいただける剣心像を作っていきたいと思っています」

浪漫活劇「るろうに剣心」 (C)和月伸宏/集英社

■浪漫活劇『るろうに剣心』
シリーズ累計6000万部を超える和月伸宏の大ヒットマンガ『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』の舞台化。明治11年東京。かつて人斬り抜刀斎と恐れられたが逆刃刀を手に流浪人となった男、緋村剣心(早霧せいな)と「人を活かす剣」を信じるまっすぐな少女、薫(上白石萌歌)が出会う。大切な人たちと出会いながらも、罪の答えを探す剣心の苦しみは続く。幕末の動乱を生き抜いた者たちの新たな戦いが始まる。
東京公演:10月11日~11月7日@新橋演舞場
大阪公演:11月15日~11月24日@大阪松竹座

PROFILE
さぎり・せいな 1980年9月18日、長崎県出身。2001年、宝塚歌劇団に入団。宙組『ベルサイユのばら2001』で初舞台。2009年に雪組に組替えし、2014年9月、トップスターに就任。『ルパン三世』『ローマの休日』『るろうに剣心』など数々の名作に出演し2017年7月に宝塚歌劇団を退団。今年5月、退団後初主演したミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』も好評を得た。