「女の子の大学受験は早め早めが肝心」と語る佐藤ママ。その理由とは?

「佐藤さんも普通のお母さんだったんですね」

 娘が大学に合格してから、その子育ての経験を講演会や取材時にお話しすると、こんな反応が返ってきます。三男一女4人の子ども全員が東京大学理科III類に合格したので、母親の私は「強烈な教育ママ」というイメージが世間にはあるようです。

娘の受験は”楽勝”だったわけではない

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 息子3人の経験があるので、娘の受験は“楽勝”だったのでは、と思う方もいますが、そんなことはありませんでした。子どもは一人ひとり違います。子育てには子どもの性格や個性に合わせた工夫が必要です。

 特に娘の受験では、男の子と女の子の違いをリアルに感じた経験でした。詳細は、拙書『佐藤ママの子育てバイブル 三男一女東大理III合格! 学びの黄金ルール42』に譲りますが、改めて、二人三脚で乗り切った長女の受験を振り返ってみたいと思います。

 娘は末っ子でのんびりした性格です。息子たちと同様に長女も1歳ごろから公文を始め、中学受験では浜学園(関西地盤の塾)にお世話になりました。

 大きな違いは、息子たちより大学受験の準備を早く始めたこと。息子3人は東大に強い鉄緑会という塾に中学3年か高校1年のときに入塾しましたが、娘は中学1年から通わせました。

 女の子の大学受験は早め早めが肝心です。三男一女を育ててみて、男の子は雑だけど速く、女の子は丁寧だけど遅いという特徴があると思いました。

 ノートのとり方や復習の仕方が違うのです。娘はきれいにノートをまとめ、テストの見直しなども隅から隅まで時間をかけてきっちりやりきるタイプでした。

 どちらの特徴が受験に向いているかといえば、男の子のほうなのです。なぜなら、人間は忘れるから。丁寧にやったからといって一度で覚えられるわけではなく、受験勉強は重要なところを何度も繰り返して、数をこなすことが重要なのです。

 さらに、男の子は体力もあって、直前の猛勉強でぐんぐん成績を伸ばします。受験はそういう男の子と競うわけですから、女の子は早めに受験勉強に取り組むべきなのです。

 実は、長女は頑張りすぎたのか、高校2年の2月に体調を崩して、首にしこりができ、医師から「急性リンパ節炎が疑われる」と言われました。

 私はそのとき、「命がいちばん大事。今年、受験できなくても仕方がない。焦らず治そう」と覚悟を決めました。高校3年の4月はほとんど学校に行けませんでしたが、ゆっくり休んでいたら体調は回復し、5月中旬にはしこりも消えて元気になりました。

 高3という大事な時期にゆっくりと休みながらも現役合格できたのは、中1から鉄緑会に通い、進度が早いカリキュラムで勉強していたからだと思います。やはり、女の子は早め早めが「正解」でした。女の子はまじめなので頑張りすぎにも注意してほしいと思います。

高3の夏の“冷戦”

 娘の受験期で忘れられない出来事といえば、高3の夏の“冷戦”です。夏休みに2日間、娘と口もきかない大げんかをしました。

 原因は塾の夏期講習でした。3人の息子たちは、素直に私の言うことを聞いて、夏期講習には行かずにひたすら家で模試の過去問を解きました。ある程度力がついているならば、夏期講習を受けてインプットするよりも、予備校の東大模試の過去問題を解くアウトプットをしたほうがいいと私は思っています。

 また、娘は春先に体調を崩したので、暑い夏に塾通いで体力を消耗しないように、息子たちと同じ方法を勧めたのです。

 しかし、娘は夏期講習に行きたいと主張。「ママは自分のやり方でたまたま成功したかもしれないけど、私は私。同じようにはいかないのよ」とまで言ったのは、私も「はぁ? 何言ってるの?」と思いましたね。

 当時、息子たちはすでに進学で家を出ていたので、昼間、私と娘はつねに2人きり。息抜きに外出したかったのかもしれませんね。女同士の反発もあったかもしれません(笑)。

 後からわかったのですが、娘はまだ体調が万全ではなく、得意な数学の調子も戻らなかったので、不安だったらしいのです。だから、夏期講習を受けたかったそうなのです。

 幸い、東京に住む息子たちが電話で娘に「ママのおかげでうまくいった。今は言うことを聞いたほうがいいよ」とアドバイスしてくれました。一方で娘の気持ちも考えて、「2日間だけ夏期講習に行く」という折衷案を提案してくれたので、そうすることにしました。

 その結果、秋の東大模試では、成績優秀者に名前が載り、娘は「ママの言うとおりにしてよかった」と言ったので、私は「ほらね」と返し、めでたしめでたしでした。

 受験期は子どもはストレスフルな毎日を送っているので、気持ちに寄り添い、テンションを上げて勉強できるようにサポートすることが大事です。女の子は、年頃ですので、きれいにしたい、身だしなみに気を使いたいと思うものでしょう。

 私の娘も、セミロングの髪の毛の手入れを大事にしていました。入浴に40分、髪の毛を乾かすのに40分もかけていました。その様子を見て、私は「もっと早くして!」と心の中で少しイライラしていました。

「切りなさい」とは言わなかった

 受験までの持ち時間は男の子でも女の子でも同じ。時間は無駄にはできません。けれどもそこで怒ったりはしませんでした。髪を切れば洗髪にも時間がかからなくなるでしょう。でも「切りなさい」とは言いませんでした。娘の気持ちもよくわかったからです。

 それで私は、娘の気持ちを尊重しつつ、勉強する時間を確保するために、高校3年の10月ころからは私が娘の髪を乾かし、その間に娘は英単語や古文単語のチェックをしました。

 センター試験まであと1カ月半ほどとなった高3の12月からは、一緒にお風呂に入り、髪の毛を洗ってあげることにしました。「洗ってもらうと楽~」と喜んでいましたよ。

 女同士だからこその楽しい会話もありました。世界史の勉強をするとき、あまり聞いたことがないカタカナは覚えにくいので、人名や芸術作品、遺跡などはネットで写真を調べていました。

 実際に見ると記憶に残るからです。「イギリスの詩人・バイロンはイケメンだね」などと娘とガールズトークで盛り上がりましたね。

『佐藤ママの子育てバイブル 三男一女東大理III合格! 学びの黄金ルール42』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

 今、娘は実家を出て三男と東京で暮らしています。夏休みでも部活や友人との旅行で忙しく、奈良の実家にはなかなか帰ってきません。

 青春を謳歌している娘は、7月に出た新刊本にこんなコメントを寄せてくれました。

「母がいつもそばにいてくれたので孤独を感じず、大学受験までがんばることができました。母はいつも元気で明るかった。奈良で暮らしていたときは、家族の日々の会話など日常生活すべてが楽しかった。『幸せな18年間だったなぁ』ってつくづく思います」

 私も子育ては我慢した18年間ではなく、子どもといるのが本当に楽しい時間でした。子育ての目標は子どもの笑顔。18年間育てさせてくれて本当にありがとうという気持ちでいっぱいです。これからは、自分自身の道を見つけた4人の子どもたちを遠くから見守っていきたいと思います。


佐藤 亮子(さとう りょうこ)「東大理IIIに合格した3男1女」の母 大分県で高校まで過ごし、津田塾大学へ進学。卒業後、大分県内の私立高校で英語教師として2年間教壇に立つ。その後、結婚。夫の勤務先である奈良県へ移り、以降は専業主婦。長男、次男、三男、長女の順で3男1女を出産した。長男、次男、三男の3兄弟が揃って、難関私立の灘中・高等学校(神戸市)に進学。大学受験では国内最難関の東京大学理科3類(通称「東大理3」)に合格。長女も洛南高等学校附属中学、洛南高等学校に進んだのち、東大理3に現役合格。著書に『「灘→東大理III」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方』(KADOKAWA)、『佐藤ママの子育てバイブル 三男一女東大理III合格! 学びの黄金ルール42』(朝日新聞出版)などがある。