麻木久仁子 撮影/山田智絵

突然、右手と右足にしびれが出たので、慌てて病院に行きました。それで脳のMRIを撮ってもらったら、脳梗塞(のうこうそく)が見つかったんです

 '10年、タレントの麻木久仁子(55)は48歳のときに、脳梗塞を発症。幸いにも軽度で後遺症は残らなかったが、これまで大きな病気を1度もしたことがない彼女にとっては、意外な出来事だったという。

「私もついに病気をするような年齢になったんだなと自覚しましたね。このとき、身体をいろいろ検査したのですが、脳梗塞につながる動脈硬化や高血圧などの生活習慣病は何も出てきませんでした」

 これからはきちんと健康管理をしようと思い、翌年には人間ドックを受診した。

それまでは忙しさを言い訳にして受診しないとか、マンモグラフィーは痛いから今回はやめるとか、とにかくいい加減だったんです(笑)。でも、そのときはまじめに受診して、オールA判定で50歳という大台を気持ちよく迎えようと思っていました。だから、悪いところが見つかるなんて思ってもみなかったんです

 この人間ドックで乳がんが発見されてしまう。

「最初に診てもらったとき、しこりがはっきり確認できないような段階で、精密検査をするために国立がん研究センターに行きました。すると、左右の乳房からがんが見つかったんです。もう少し早かったら小さすぎて見つからないし、もう少し遅かったら進行した状態で見つかるし……。見つかるギリギリの大きさでの早期発見だったので、本当にタイミングがよかったんだと思います

 “がん”は病名を聞くと、死を連想してしまう病気。だが、彼女は笑顔で乳がんについて語った。

「ラクって言っちゃったら変なんですけど、私の場合、転移もなかったので、がん治療はそこまで大変じゃなかったんです。がんが見つかった後は、部分切除して、放射線治療、ホルモン治療を約5年間続けました。

 その際、不調として表れたのはイライラと体重増加、それと身体が火照(ほて)る症状が出るホットフラッシュ。でもちょうど更年期だったので、その症状なのか薬の副作用なのか、わからなくて(笑)。だから、がんになっていなくても同じような症状に悩まされたのかなって軽い気持ちで乗り越えることができました。深く考えないで、“こんなもんだろ~”と思えたのがよかったのかもしれません

乳がんとともに直面した家族の病気

 実は、麻木が乳がんの手術をした翌月、彼女の母親も大きな手術をすることになった。

「母は昔から身体をよく動かす人で、社交ダンスが趣味。すごい健康自慢の人だったんです。でも70歳を過ぎたら人間ドックに行きなさいよって、私に言ってたんです。だから、てっきり母は毎年受けているもんだと思っていたんですよ。

 するとあるとき、母が“胸がキリッとする”と言うから病院に連れて行くと、心臓の大動脈弁が石灰化していて、弁の役割をしていないような状態でした。病名は『大動脈弁狭窄(きょうさく)症』で、医師からは“もうちょっと遅かったら死んでいた”なんて言われて。“お母さん、人間ドックで見つからなかったの?”って聞いたら、“受けても受けても悪いところが見つからないから、モッタイナイと思ってやめていた”って言うんです。いやいや、あなたは一生死なない気だったのかって(笑)」

「母はとても元気! 私より長生きしそう(笑)」と微笑む 撮影/山田智絵

 麻木は自身の病気、そして母の病気に直面したことで得た教訓が2つあるという。

まず、いい年になったら、がん検診や人間ドックは受けること。乳がんになってからは友人にも検診をすすめているんですけど、なかなか行ってくれない。理由を問い詰めると“だって、がんが見つかったら怖いじゃん!”って言うんです。でも、それっておかしいじゃない、と。見つけるために行くんだけど、たしかに見つからないほうがいい。それでも、もし早く病気が見つかれば、それだけ治療はラクになるんですから。

 もうひとつは食事。誰しもがいつ病気になるのかわからないから、いざというときのために、治療に耐えうる身体作りをしておくべきだな、と。例えば、抗がん剤治療でも心臓が悪かったり、血圧が高かったりすると、薬の量を控えたりしなければならず、最新治療のメリットを最大限に受けることができない。せっかく医療は日々進んでいるんですから、ベターな選択ができるような身体の準備は常にしておいたほうがよいかな、と思っています。それで“薬膳”を学ぶようになりました。健康をキープするために使えるんです」

 例えば、身体が冷えたと感じたら、しょうがやシナモン、汗をかいてめまいを感じたら潤いのある果物をとる。

薬膳は、必ずしも生薬のようなものを鍋に入れて煮込むというわけじゃない。そのときの体調に合わせて、食材選びや調理法を工夫することで、身体の調整ができるんです

三世代同居で母と娘の健康管理を担う

 麻木の母は術後、再び社交ダンスに通えるほど回復。母の病気をきっかけに、麻木は娘を加えた三世代での同居をスタートさせた。彼女たちの健康管理は、麻木の役目だ。

シェアハウスみたいですよ。2人に“ごはんだよ”“おやつだよ”って言うと、自分の部屋から出てきて真ん中のリビングに集まってくる(笑)。母の朝食は母が自分で作った煮物、ナッツ、ヨーグルトを食べるのが習慣。昼間は外出してほとんどいないので、夜ごはんが私の出番です。母が“今日は高野山に行ってきたのよ”と言えば、疲れがとれるお酢をたっぷり使ったレシピを考えます。食事が家族とのコミュニケーションにもつながっていますね。娘の場合、平日は仕事でほとんどいないので、週末のごはんで腕を振るいます。外食だと肉や魚が多いと思うので、豆類を使った料理で身体のバランスをとるようにしています」

「女三世代でうまくやるコツは?」という問いに、「期待しないことかな」と笑顔で答えた麻木。病気がきっかけで、家族はひとつ屋根の下に集い、その絆(きずな)はより深まった。

麻木久仁子=著『生命力を足すレシピ』(文響社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

あさぎ くにこ◎テレビやラジオ番組で司会者、コメンテーターとして活躍するほか、クイズを中心としたバラエティー番組にも出演。'16年には、国際薬膳師の資格を取得。